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3章 -4- カラドボルグ再び

 高橋が俺の肩に手を置いて引きとめた。

「相変わらずムカつく野郎だな。ザコのくせに偉そうにするなよ?」

「偉そうにしたつもりはないよ。同級生としてはふつうだろ。それに痛いのはイヤだね」

 こういう手合いは下手に出たら余計に付け上がるものだ。まあ、下手にでなくても絡んでくることもあるのだが。

 そういえば、こいつらは適当にあしらってても一向に絡むのをやめなかったな。よっぽど俺のことが気に入らなかったのだろうか。


「調子にのんなよ? ここは元の世界じゃないんだ。殴られた程度じゃあケーサツは来てくれないんだぜ?」

 苛立ってはいるようだが、まだニヤついて言ってくる。

 しかし、やってることがチンピラのそれでしかないな。

 元の世界でも若干思っていたけど、今思えば本当にただのチンピラだ。どうしてくれようか。

 そんなことを考えていたとき、


「あら、悠太。お友達?」

 メディーが帰ってきた。エルシアも連れている。

 突然現れた色気むんむんの美女2人を見て高橋も固まった。背後のメンバーも固まっている。

 まあ、男子高校生たるもの仕方が無いだろう。女子も固まってるけど。

 それほどにメディーさんたちの色気は凄いのだ。そういえば、メディーは最近特に艶ががってきた気がするな。なんでだろう?

「んー、いや、友達って言うか昔の知り合い」

 メディーの言う“お友達”の定義に不吉なものを感じたので軽く否定しておく。

「その割には楽しそうな雰囲気だったと思うのだけど」

 見てたんかい。

 俺たちは日本語で話していたので、内容までは理解できていないんだろうけど、雰囲気で十分伝わっただろうな。

 絡まれている感じが。

 メディーがふふっと口角を上げた。

 これだよ。

 宝箱を前にした海賊みたいな凶悪な笑い方。ぱっと見は美人の微笑みだが、俺には最近そう見える。

そして空気を読まない男が地雷を踏んでいく。


「おーい、無視すんじゃねぇよクソ虫。そんでそのお姉さんたち誰よ?」

 高橋は俺をクソ虫呼ばわりした挙げ句、メディーの身体を無遠慮に見やる。

 言葉は通じないだろうが、言い方とか笑い方で雰囲気は伝わるものだ。

 メディーの笑みが深まった。

「はあ……」

 エルシアは興味なさそうだ。

 というより、高橋を見て相手をする価値もないと判断したのだろう。

 ため息をついて余所見を始めた。


「なあお姉さんたち! こんなしょぼいヤツほっといて俺と来いよ! なんてたって俺はこの世界で最強の勇者の力を持ってんだからなぁ! これから魔王でも蹴散らして、大金もちだぜ!?」

 そういえば、勇者の力といえば、どういう設定なのだろうか。

 この世界にも勇者はいたらしいし、グレンガードだっけ? その勇者の能力なのだろうか。

 それとも、他のゲームとかの勇者の設定を持ち込んでいるのだろうか。

 ゲームやマンガによっては完全チート系だったりもするし、結構強いのでは?


「あら? その剣はユータにあげたと思ったのだけど……?」

 俺が考え込んでいると、高橋の言葉を無視してメディーさんが言った。

 まあ、そもそも日本語はわからないだろうし、無視以前の話だな。

「あん?」

 メディーの視線を追って、高橋と俺の視線が高橋の腰の剣に向かった。

 あれ、たしかに見たことあるな。

 それは通常の剣のように薄くなく、鞘ではなく革の袋に納められている。

 袋の上からでも分かるねじくれた不思議な形のそれ。切れるとは思えない形状だが、不思議と剣に見える造形のそれ。見覚えがある……。

 あ、どっかの酒場でいきなり出された魔剣だ。

「お? これか? いいだろ! 見ろよこの輝きを」

 高橋は往来であることも気にせずその剣を袋から抜き出した。

「勇者のみが持つことを許される聖剣、カラドボルグだ!」

 太陽の光にかざすように掲げ持つ。

 光に反射し、確かに神聖な感じに輝いている。

 が、街中で武器を掲げる行為に、周囲を歩いていた人々が距離をとった。

 ざわざわと通行人たちの間で会話が広がる。

「あ、あいついきなりなんだ?」

「武器?みたいなの持ってるぞ?」

「街中でなにを振り回しているんだか」

「大丈夫かあいつ……」

 などなど。

 残念ながら勇者や聖剣の存在に沸き立つ人は一人もいなかった。

 しかも足を止める人はまばらで、そのまま距離をとりつつ歩き去って行く者も多い。

「ふふん」

 高橋はこちらの言葉をまだ理解していないからか、謎に自慢げだ。

 もしかしたら「勇者様だ!」とかざわめきが立っていると思っているのだろうか。

 残念だな高橋。こちらの世界では勇者を自称する奴は頭の痛い人くらいにしか思われないんだぜ?

 しかし、高橋が持っているのはまごう事なきカラドボルグだ。

 聖剣と言っていたが、魔剣じゃなかったっけ?


「んー?」

 どういうことだ?

 俺が貰ったカラドボルグはどうなったんだ?

『ここにあるヨー』

 精霊さんから答えが返ってきた。

 やっぱりあるのか。

「ユータ?」

 メディーさんがこちらに視線を送ってきた。

「いや、ちゃんと持ってるよ」

 貰ったものを捨てたり人にあげたりはマナー違反だ。そんな奴だとは思われたくない。

 精霊さんの異空間収納からそれを取り出した。

 幸い周囲の人の視線は高橋が集めてくれているので、南雲を陰にしながら部分的に引っ張り出した。

「ほら」

 メディーに見えるように引き出す。

「 ほんとうね。2本もあるとは聞いたことがないのだけど」

 メディーがそう言うのであれば実際そうなのだろう。

 状況から考えて、俺の持っているのが元々この世界にあった魔剣で、高橋の持っているのが転生特典で与えられた同一品ということだろう。

 という事は、高橋の能力はこの世界に存在していたという勇者、グレンガードの力に則したたものというところだろうか。


「おい!」

 内輪で話をしていると、高橋が怒気の混じった声を上げた。

「ん?」

「何でお前もそれを持っている!」

 周りの視線がこちらに集まる前に剣はしまった。

 しかし、高橋は目ざとく見つけていたようだ。

「なんのこと?」

 一応とぼけてみる。

「聖剣のことだ! 今持ってただろ!」

 高橋的には自慢だったようなので、同じ物を持っているのは気に入らないのだろう。

 高橋の目の届くところで出したのは失敗だった。

「いやいや、ほら、何も持ってないだろ」

 異空間に収納したので、どこにも見当たらない。

 これでごまかされてくれないだろうか……と思ったのだが、

「ふざけるなよ。俺だってこれくらいのことはできる」

 そう言って高橋が変身した。

 変身だ。


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