3章 -3- もう一人の勇者
「で、あんたたちはどんな力もらったの?」
南雲が聞いた。
「俺は“勇者”の力を貰ったぜ」
自慢げに言う高橋。
南雲は北条や佐藤たち女性陣へ向いていたが、でしゃばって割り込んできた。
やはり南雲にアピールしたいような感じがするな。小学生か?
だが、残念ながら! 南雲サンはもう俺のものなのだ!
と、ちょっと優越感に浸りかけたが……あれ? もし南雲も高橋に気があったならちょっとアレだよな。イケメンと美女でお似合いのカップルにも見えるし、教室では南雲は高橋に興味もなさそうな感じだったけど、なんだかんだ一緒にいることが多かった。主に高橋のほうから近づいていたように見えていもいたが、意外と……。死後の世界だからと俺とお近づきになったけど、高橋までこっちの世界に来たとなると……いやいや、それでもさっきのデートといい、俺と南雲の仲は間違いないはずだ。……ハズだ。まあ、今は考えないようにしておこう。
南雲も別に高橋には興味なさそうだし。
たぶん、大丈夫だ。うん。
しかし、高橋お前、そんなキャラの癖にヒーロー願望なんてあったのか。マジうけるー。
『自分のこと棚に上げてよく言うわね』
『我こそはー……』
俺のは中二病だから仕方ないんだよ!
脳内で騒がれる俺の思考ダダ漏れ事情に耳が痛い。
だが高橋は意外と良い判断をしているかもしれない。
“勇者”でひとくくりにしてしまえばチートスキルがまとめてゲットできてるんじゃないだろうか。俺たちの転世時はバタバタしていたのもあって貰える能力は一つだと思っていた。
しかし、一つの設定にまとめてしまえば能力は複数手に入れることができたのか。
見た感じ普通な感じだが、精霊たちが言うには身体能力強化とか耐物理・耐魔力性能も高そうだ。何気に勇者っぽい聖剣まで腰に下げている。これは確かに戦闘能力が高そうだ。
本人がそこまで計算して“勇者”という能力を希望したかは不明だけど。
「あたしは魔法使いー!」
仲谷は魔法使いか。こちらもそういう設定でまとめてしまっているようだ。魔力もその辺の人間より遥かに高い。
高橋とセットで勇者チームの魔法使いと言ったところか。
ハリポテが好きだったんだーとか言ってるのでこっちもたまたまだろう。
その後も自己紹介が続いた。
佐藤は剣士。ギャルが意外だと思ったが、小学生の時に剣道をやっていたとかいうなんでもない理由だった。
加賀は武道家。こいつはまあ、中学までは空手をやっていたらしいし妥当なところか。しかしガタイもいいし、なんか強そうだな。
相場はアサシン。南雲はハテナだったが、暗殺者みたいなことだとわざわざ説明していた。ゲームとかしていたらしいし、そういうゲームに憧れたのだろう。まあ、華奢な男だし、タイマンよりは不意打ち向きだろうな。ある意味、気配を消せたりするのはこういう世界では生き残る確立をぐっと引き上げるだろう。
「…………」
北条は黙って話を聞いている。
こいつは何なのだろう?
「千佳は?」
南雲もそう思ったのだろう。聞いていた。
「わたしは……」
北条は言いにくそうに言いよどんだが、
「千佳はねー、聖女様なんだよー」
仲谷が暴露した。思わず噴出しそうになったが何とか思いとどまった。
「へ?」
南雲はいまいち理解できていないらしく変な声を上げた。
「聖女様って、あの? なんか神様に祈りを捧げるみたいな……」
マリア象とかとのこと考えているのだろうか。
それにしても、クールでドライなイメージの北条が聖女様とは。
優しく暖かい聖女のイメージはそれこそ逆のイメージだな。
「……勝手に決められたのよ」
北条は特に思いつくものがなく、あの女神が勝手に決めたらしい。
せっかくの勇者チームだからと聖女に認定されたらしい。
僧侶とかではダメだったのだろうか。思いつかなかったのか?
ただ、その能力は回復魔法や結界魔法など、守る方向で力を発揮するそうで、このチームを安全にここまでつれてきたのもその力が大きいらしい。やっぱり僧侶みたいな能力だ。
しかしあんまり自称したくない能力だな。
「なあ、ところで南雲ぉ。あそこにいるのって古川だよな?」
「え? ああ、そうね」
それぞれの能力紹介が終わったところで、高橋がついに俺に矛先を向けたようだ。
「なんだよ。こっちでもあいつで遊んでんのかよ!」
いいじゃねえかとニヤニヤしている。楽しいおもちゃを見つけた子供のようだ。
ジャイ○ンとかが近いかな。
うん。ジャイ○ンも所詮子供だよね。
宝を見つけた海賊みたいな凶悪な笑顔をする人が身近にいるので可愛いくらいに思える今日この頃である。
「ち、ちが――」
焦る南雲。否定しているようだが、高橋たちは聞いていない。
「おいおい、古川、こっち来いよ!」
お前が来いや。
せっかく勇者になってるのに、ちんけな不良感が抜けていない。
勇者スキル付いたはずなのに、なんだろうこのザコキャラ感。
「お前はどんな能力貰ったんだよ。おい」
自分がチートスキルと思しき勇者という能力を貰っているので、完全に上から目線だ。
まあ確かに勇者といえば魔王を倒して世界を救う最強の力だ。それより上位の能力はそうは無いだろう。
「魔力が溢れてくる能力だよ」
無視してもよかったが、まあ答えておいてやろう。
「は? ……それだけか?」
確かに貰った力はそれだけだな。魔力が体内で溢れてくるだけで、特にそれをどう扱えるとか指定は一切無い。精霊さんたちがいなければ魔法とか魔術とか全く使えなかっただろう。
魔術さえ覚えれば多少は使えただろうが、特殊な力というほどの特別感もない。
どうせチート能力が貰えるならもっといいのにしておけばよかったと俺も思う。
なんだよ魔力が溢れてくるだけの能力って。
そもそももっと良い名前無いのかこの能力……。
「そんなんで魔物とか殺せんの? はっはっはぁ」
「殺した事はないなぁ」
殺したいとも思わないし。
「マジかよ。ヤバイなお前。そんなんでこの世界生きていけるのかよ」
お前には言われたくないよ。
「あー、それで南雲にくっついて助けてもらってたわけね」
何かに納得したように高橋は笑い出した。
「くっくっく。お前、なんでそんな能力にしたんだ?」
加賀も笑いが押さえられないようで、ちょっと笑いながら聞いてきた。
「いや、転生の時てんぱちゃってね」
実際あの時はとっさのことで考える余裕も無かったしな。
「それにしたってさー」
「ウケるー」
仲谷たちも笑っている。
俺と同じ能力の南雲は苦笑いだ。
あ、北条は何かを察して笑うのを止めた。
さすがに女子のヒエラルキー上位者は空気が読めるのね。
「回復魔法とか使えるのか?」
相場はゲームをやるだけあっていいところに気がつくな。
「まあ、ちょっとは仕えるよ」
魔力が溢れてくるっていうのはMP無限ということだ。なら回復魔法も使い放題ということになる。
チームにいれば回復薬代わりに大活躍だろう。
「おお、ソレはいいな。お前、俺のチームに入れてやるよ」
「いやー、遠慮しとく」
マジで遠慮しとく。
「いーじゃねえか。回復魔法が使えるならサンドバックに最適だろ」
そっちかよ。せめて回復薬代わりとかにしとけよ。
「確かに、実験台にはいいかもな!」
加賀まで乗ってきた。こいつは悪い意味で体育会系だ。
後輩相手に練習と称してプロレス技をかけてるタイプのやつだな。きっと。
こういうヤツが上にいる部活には入りたくないもんだ。
「魔物から守ってやるからよぉ。死なねえ程度に練習相手になってくれよ」
高橋もニヤつきながら言ってくる。
「やだね」
話にならないので、話はそこまでと踵を返す。
「あ、おい、待てよ!」
一人目はハリー君です。
ちょっとキリが悪いところが続きますが、近々更新しますので宜しくお願い致します。