3章 -1- お買い物
俺は一人反省会の中でヴィーを思い出していた。
あれ? そういえばあいつ、今どこにいるのだろうか。
合流しないといけないのをすっかり忘れていた。
まあ、この世界で最強クラスの種族であるドラゴンがそうそう害されることは無いだろう。
むしろトラブルを起こしてないかが心配だ。
メディーやエルシアのように積極的に殺そうとはしないものの、パワーがありすぎて間違って殺してしまいかねない。
殺さないように言い聞かせたから大丈夫だと思いたいが。
「ま、気を取り直して王都方面へ向かうか」
ヴィーとの合流も王都の入り口付近としていた。
日時は定めてないが、ヴィーも数日うちには追いつくと言っていた。
ヴィーの目ならその辺にいればどこからでも発見してくれるだろう。
その日はもう陽も暮れかけていたので、とりあえずメディーの小屋で一泊することとなった。
小さな小屋だが、謎に部屋数はある。外観以上に広いようだ。
どうやら小屋自体が魔道具のようなものになっているらしく、中の間取りは自由にできるらしい。
俺と南雲、メディーが寝る部屋と、エルシアが別で寝られるような部屋割りにしてもらった。
もちろん夜は南雲とメディーとお楽しみだ。
そして朝一番でエルシアに微妙な表情をされた。
今回はメディーの結界のおかげで内情までは見えなかったそうだが、声が筒抜けだったそうだ。
いやいや、メディーの力をもってすれば、音も視覚も全部シャットダウンできるでしょ?
なぜそんなことに?
少し赤い顔をしているエルシアを面白そうに見るメディーである。
確信犯だな。
朝食後、俺たちはまた王都前の街に戻ってきた。
今更だが、この街の名前はアルトーラというらしい。
王都の城門手前に栄えた街だ。この町を抜けて少し進めば王都の城門だ。
王都に隣接する街と言っても城壁に隣接してるわけではない。城壁の守りのために街をぴったりくっつけるわけにはいかないのだろう。城壁までは少し距離がある。
空から見たときには少し向こうに城壁が見えていたが、街に入ると全く見えない。
それだけ街の規模が大きいのだ。
昨日は街の中を散策もできなかったので、今日は少しのんびりしてみることにした。
ぶらぶらしていればヴィーもやってくるだろう。
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「うわっ、これいいじゃん!」
南雲はご機嫌な様子で服を見ている。
確かに、今までの街では見なかったようなデザインの服が並んでいる。
やはり都会に近いほうが流行の最先端になっていくのだろう。
「ねえ、これどう思う?」
ふりかえり、自分の前に服をかざして南雲が俺に聞いてきた。
「え、うん。良いと思うよ。似合ってる」
ぼーっとしていたのでしどろもどろになってしまったが、南雲は気にした様子もなく服選びに戻っていった。
取り合わないなら意見を聞かないで欲しい……とも思ったが、聴かれた上で苦情を言われるよりはマシかと考え直した。
考えてみればこれはデートみたいだ。
メディーたちはその辺を適当に見てくると言って解散したので今は南雲と二人だ。
服屋で男女二人でお買い物といえばデートシーンで間違いないだろう。
それでさっきから店員は謎に暖かい視線を送ってきていたのか。
「ねえこれは?」
その後も南雲は何度か問いかけてきたが俺の回答に文句を言うでも掘り下げるでもなく次の服を物色しにいった。
しばらくして買う服が決まったようで、途中で一度試着していた服を持ってきた。
「お、それにしたんだ」
「うん」
俺の中では一番似合っていたと思ったやつだった。
地味な昔のヨーロッパのような服装が一般的なこの世界では珍しく、少しシュッとしたモダンなデザインのものである。
元の世界でも読者モデルなどもやっていた南雲には古めかしいデザインでなく今風のデザインが似合っていると思ったのだ。
そしてシュッとしたデザインゆえに南雲の抜群のスタイルを引き立てる服でもある。
更に言えば、色味が派手すぎず控えめすぎず割と俺の好みだった。
でも、南雲のテンション的には別に持ってきた服の方が気に入っている雰囲気だった気がするが。
「あっちのじゃなくていいのか?」
気になって聞いてみた。
「……良く見てるわね。でもこっちが良いーのよ」
南雲は満足そうに服を見る。
「でも一個前のヤツのほうが気に入ってなかった?」
なんとなく見つけたときのテンションが高かった気がする。
「これ言いじゃん!」って大きな声で言ってたし。
俺的にはそっちを買うのかと思っていた。
「あんたの好みはこっちでしょ?」
当然のように聞かれた。
確かにそうではある。
あれ?
もしかすると俺の回答ではなくリアクションを確認されていたのか?
カリスマJKののコミュ力を持ってすれば、俺の回答など不要だったようだ。
てか、何気に当たり前のように俺の好みで服を選ぶ南雲さんである。
なんとなく嬉しいけども、
「自分の好きなのを買ったらいいんじゃないの?」
「オシャレって、いろんなやり方があるのよ」
とのことだ。
「あれ?」
南雲とのお買い物デートを楽しみつつ通りを歩いていると、ボロボロになったヘンリー一向が向こうからやってきた。
顔にも腕にもアザだらけだ。たぶん服の下も結構大変なことになっているのだろう。
中には口から血を流しているのもいる。
街の入り口のほうから歩いてきていたので、また入り口で旅人に絡んで返り討ちにされたのだろう。
「おーいヘンリー、大丈夫?」
見た感じ結構酷い怪我のようなので、一応声をかけておく。
「っ!? は、はい! 大丈夫です!」
ヘンリーは俺を見つけるとビクッとなって、元気に返事をした。
そこまでビビらなくてもいいじゃないか。
俺は善良で凡庸平和主義の地味―ズ男子高校生なんだぜ?
だがまあ、意外と大丈夫そうだ。返事の声も思ったより元気だったし。
偉そうに街の門番的なことをやってるだけあってそれなりにタフなのだろう。
「とりあえず一人ずつ並べー」
「「「「?」」」」
最初と同じく10人いたので、一人ずつ回復魔法、ヒールをかけていく。
「い、痛みが、消えた?」
「なんだこれ!?」
「回復魔術?」
みんなそれぞれ驚いている。
とりあえず口から血を流してたやつも大丈夫そうなので一安心。
「で、なんでそんなことになってんだよ。懲りずに街の入り口で絡んでたんだろ?」
「あ、あははは……。その通りで……」
ヘンリーは苦笑いしつつ状況を説明してくれた。
予想通り街の入り口でやらかしていたらしい。
昨日の今日でよくやると思ったら、返り討ちに会う事は時々あるらしい。
旅の商人に護衛が変装して同行していることもあるようで、下手に手を出してやられたり。
それでも王都の近くで殺しをやろうとするやつはいない上に、ヤバそうなのはスルーしているので、今まで続けてこれたらしい。
成功した時はそこそこの身入りになるし、失敗しても物理的に痛いだけなので、なんだかんだで続けていたそうな。
「でも今日のヤツらはヤバかった」
「ああ、あれは殺しても良いってやり方だったぞ」
「ガキにしか見えなかったのに……」
ヘンリー以外の男たちも口々に言っている。
確かにあのやられっぷりは、酷かった。
精霊さんスキャンによると、内臓を痛めていたやつもいた。下手に悪化させれば死ぬこともあったかもしれない。
ギリギリの手加減なんてしていたとも思えない。
しかも、ヤツらってことは複数いたようだ。
「ガキって?」
「そうなんだよ。見た目はユータくらいで……ん?」
そこで何かに思い当たったように言葉を止めたヘンリー。
「どことなくユータに似ていたような……」
「そういえばそうだな」
「ああ、髪の色とか顔の形とか」
俺に兄弟はいないし、そもそも異世界に転世しているので親戚筋もないはずだ。
ん? 俺にというか、日本人的な顔ってことかな。
日本人顔って海外の人には子供っぽく見えるって言うし、ヘンリーたちから見ればガキなんだろう。
「ねえ、それって……」
南雲も思い至ったようで、俺に聞いてきた。
「転世者だろうな」
どうせ何かしらの力を貰って転世しているのだろうから、ヘンリーたちが返り討ちにあったのもうなずける。
まあ、ヘンリーたちが弱いだけの可能性もあるけど。
しかし転世者か。
しかも日本人っぽいので同郷と言えば嬉しい気もするが、この世界に飛ばされるのはロクなやつじゃない。
罪人が送られるんだし、あのクソ女神の判定が謎なのもあるが基本は悪人だ。
あんまり関わりたくないなぁ。
そう考えた時だった。
「あれ!? 南雲じゃーん!」
聞き覚えのある声が南雲の名を呼んだ。
章の書き分けがいまいち分かりません……
文章力の無さに嘆く日々です。
ただ派手なわけではなく、気になる相手に良く見てもらうためのオシャレって良いですよね。