2章 -56- その後の二人
薄暗い倉庫の奥の一室で、大柄な男が二人、酒を飲んでいた。
持ち込んだ古びたソファーに深く背中を預け、グラスに注いだ酒を煽っている。
「しかし、とんでもねえヤツ等だったな」
「ああ。俺たちでも歯が立たねえなんてな」
それぞれの足元には、大剣と大斧が立てかけてある。
グレゴリアとバレルだ。
崩壊するアジトから脱出した後、途中でバレルを起こし、街を抜け王都へ逃げ込んでいた。
緊急時用に用意していた隠れ家へ入り、一息ついていたのだ。
「いや、そーじゃねぇ」
バレルの発言をグレゴリアが否定した。
「ん?」
バレルは何故否定されたのか分からず聞き返した。
「歯が立たなかったんじゃねえ。相性が悪かったんだ」
グレゴリアの発言に、バレルもうなずく。
それを見て、グレゴリアは話を続けた。
「確かにあいつらは強かったし、今回は撤退を選んだ。だが歯が立たなかったわけじゃねえ」
「相性か」
「ああ。あいつらは魔術を使っていた。俺たちは今まで獣人の相手ばかりの肉弾戦ばかりで、純粋な魔術師ってヤツ等と戦った経験が無かったんだ」
「なるほど。だから倒し方が分からず、歯が立たねえように感じたのか」
バレルは合点がいったと納得顔だ。
「その通りだ」
それを見るグレゴリアは勿体つけて肯定した。
「俺たちには魔術師との戦闘経験が無さ過ぎる。今回このことに気付けたのは行幸だ」
「そうだな。いざって時に今回みたいになってたら死んでたぜ」
今回も十分いざという時だったハズなのだが、彼らは気にしない。
「これからは魔術師相手の仕事もしていく必要があるってわけだ」
バレルのその発言にグレゴリアは大きく頷き、話を続けた。
「それと同時に、俺たちに足りないものも見えてきた」
「足りないもの?」
空になったグラスに酒を注ぎながら、グレゴリアは言う。
「ああ。魔術師だ」
「魔術師?」
バレルはグラスを煽りながら聞いた。
グレゴリアも一向に酔う気配を見せず次のグラスも空にする。
「ああ、あいつらの戦闘スタイルを見ただろう?」
「なるほど」
あまり頭の良くないバレルだが、戦闘に関してはグレゴリアに次いで頭が回る。
自分たちの戦闘スタイルに足りないものを考えて、グレゴリアの言いたいことを理解した。
「俺もお前も前に出て戦うスタイルだ。今までのザコなら遠距離攻撃を受ける前に接敵して潰してきたが、俺たちに匹敵する前衛がいる場合、後衛からの攻撃を防ぐすべが無い」
「その通りだな。さすがグレゴリアだ」
バレルは自分を導くグレゴリアを本気で尊敬していた。
戦闘能力も当然の事ながら、知略の面でも自分の一歩先を常に行くこの男を、信頼していたのだ。
「だが、俺たちにも後衛がいれば、敵の後衛も迂闊には攻撃できず、俺たちは前衛を狩ることに集中できるってわけだ。そうなれば俺たちが負ける訳がない」
「ほほう」
グレゴリアの力説に聞き入るバレルである。
二人は酒を煽りながらも自分たちの今後の方針を話し合っていった。
そうして夜は更けていく。
ちょっと短めですが、きりが良いのでご容赦ください。