1章 -11- 人間、襲撃。
そんな感じで夕食をとっていると、エルフの皆さんが騒がしくなってきた。
「どうしたんだ?」
「?」
南雲は口いっぱいにほおばった肉でしゃべれないようだ。食べ方もおしとやかとは言えないやつだな。
おしとやかどころか、ライオンみたいにでかい肉にかぶりついて食っていた。
やっぱりギャルって肉食なのだろうか。
『何かが迫ってきているみたいだネ』
ミザリーがエルフの言葉を通訳してくれた。
何かって何だよ。また大イノシシだろうか?
「俺たちも行ってみよう」
エルフが走る方向へ俺たちも向かった。
「#$#%#!!」
エルフ達が何かを言っている。武器を持ち、村の端へ集まっている。
『人間たちが攻めてくる、だってサ』
(人間?)
エルフは人間と仲が良くないらしい。というかエルフだけに限らず亜人全般的にそうらしい。
数の多い人間が偉そうにしていて、亜人を迫害しているのだとか。
さらに言えば、森を愛するエルフたちにとって、森を切り街を開拓する人間は許しがたい存在らしい。
どうやら俺たちが最初警戒されたのも、この人間とエルフの確執のせいだった。
エルフ達は遠視の魔法で警戒をしていたようで、かなり離れた位置から補足していたようだ。
ようやく物音が聞こえ始めた。
しかしなぜこのタイミングで……
『あの壊れた塔が人払いの結界の要だったみたいネ。しかも煙が上がったから遠くから見つかったんじゃないかナ』
なるほど、これは俺のせいなのか。
となれば俺も何か手伝わなければ。
「相手が人間だって言うなら、俺が仲介役になれればいいんだけど」
そう思いつつも、攻めてきている時点で仲良くできそうにない。
そもそも言葉が通じないだろうしできることは少ないのか。
緊張しながら来訪を待つ俺だった。
「ひゃっはー!! エルフがいっぱいいるぜー!!」
「ひゃっひゃっひゃ! エルフの女をさらえええ!!!」
緊張して待った結果がこれだよ。
すごい間抜けっぽいし、ザコっぽい。
アブベッとか言って一撃でやられそうなヤツらだな。
そしてめっちゃ日本語。なんで?
てかなに? この世紀末感。
森の中から現れたのはガラの悪い男たちだった。
5人の男たちは、全員屈強な体つきのやつばかりだ。総じてガラが悪い。
ていうか、あのトゲトゲの服装どうにかならないのだろうか。パンクでロックな人たちではなさそうだが、黒のレザーに金属のレイアウト。なぜか肩などにはトゲが付いている。
男たちはエルフたちを見てニタニタ笑っていた。舌なめずりしているやつまでいる。マジでとある世紀末にバイクを乗り回しているやつらを連想してしまう。
「%$#$#!!」
そんな男たちへエルフ達は迷いも遠慮も警告もなく矢を放った。
俺もそれでいいと思う。
この状況と比べれば、自分たちの時はまだ丁寧な対応をしてくれていたようだ。
「へっ、そんな攻撃が効くかよ!」
ひときわ屈強そうなのが飛び出してきた。
飛び交う弓矢を掴み取り、払いのけながらもものすごいスピードで前へ出る。
「おらぁ!」
前衛で盾を構えていたエルフの男たちを盾ごと吹き飛ばした。
(なんつー力だ!?)
人間業じゃない。
『転世時になにか力をもらったんじゃない?』
そうだった。転世者は何かしらの力を与えられるのだ。
日本語をしゃべってるし、まず間違いなく転世者だろう。
つまり、気を抜いていると危ないということか。
「俺様に勝てると思ったかぁ!!」
わっはっはっはっはと偉そうに笑っている。
ムキムキの筋肉が、笑うたびに動いていて服が張り裂けそうだ。キモチワルイ。
「俺たちも混ぜろよ!」
他の4人も動き始めた。年齢もばらばらだが、全員日本人のようだ。
各自ものすごい動きでエルフを翻弄し、蹴散らしていく。
エルフの男たちはことごとく吹き飛ばされていき、陣営が崩れ始めていた。
幸い全て体当たりなどの物理攻撃で、死に至っているエルフはいないようだ。
「%#“#”$―――!」
「ひゃっひゃっひゃ! 上物ゲットだぜぇ!」
「こっちもゲットだあ!」
エルフの女性の悲鳴と供に、下卑た声が聞こえた。
見ると弓を構えていたエルフの女性達が男に捕まっていた。確かにどっちもすごい美人。俺も捕まえたいな……
「そうじゃねぇ! てめぇ離せぇ!」
思わず叫んでいた。自分へのツッコミも漏れてしまったけど。
「ああん?」
男どもの視線がこちらに集まった。
「おお、日本人がいるぜぇ! しかも上物JK!」
正確には俺の後ろを見ていた。俺の存在感……
「うっ」
どいつもこいつもニタニタと嫌な表情をしている。南雲が引きつった声を漏らした。
「へっへっへ。言葉が通じなくて大変だっただろう。俺たちが守ってやるからこっちへおいでぇ」
気味の悪い猫なで声で呼びかけてくる。俺のことは気に留めていないご様子。この野郎どもめ。
エルフの女を捕まえてない男たちが俺たちに近寄ってくる。
「ちょっ、怖いんですけど……」
俺の後ろで南雲が引いている。確かにこいつら気持ち悪い。
しかも大イノシシとかエルフとかじゃなく、日本人の変質者というギリ想像できてしまうレベルなのが余計に嫌悪感を書き立てる原因だろう。
「お前らなにやってんだよ?」
意を決して話しかけてみた。
「ああ? そらぁこの世界を謳歌してるに決まってんだろ」
何バカなこと言ってんだといわんばかりの言い草だ。
「どうゆうことだよ」
「この自由な世界で、自由にできる力を手にしたんだから好きにするのが当たり前だろ」
「……そういうことか」
クズだな。
そもそも自由に生きられる世界じゃなくて、法の行き届いていない世界なだけじゃないだろうか。
まだ街にも行ったこともないし、こっちで見た人間は盗賊くらいのものだからわからないけど。
法がないからって倫理的になにしても良いってわけでもないだろう。
だがしかし、一理ある。
「確かに。力を得たなら好きにするのが当たり前か」
ここには法律も警察もない。探したらあるのかも知れないが。
少なくとも今はエルフの森の中だ。エルフも武器を持って戦っているくらいだから、正義があれば力に頼ることは悪いことではないのだろう。くそ野郎たちに正義はなさそうだけど。
「なんだい兄ちゃん。話しが分かるなら俺たちと来るか? 俺は男もいけるクチなんだぜ」
え? 今なんてった?
思わずぞっとした。
何だよいけるクチって!
「ごめんこうむるね! 俺は神をも打ち倒し、 魔王すらも従え、破壊者にして救世主、悠太・古川様だからな!」
「何言ってんだ?」
結構真面目な顔で突っ込まれてしまったが、今のお前たちの格好もたいがいだからね!?
そんなやり取りをしつつ、脳内でこっそり安全確認をする。
(勝てそうか?)
『大丈夫大丈夫』
一応確認を取ってからさらに威張ることにする。
「お前ら。痛い思いをしたくなければ、大人しく降参するんだな」
腰に手を当てて、尊大に降伏宣告をしてみる。
「何言ってやがる。バカじゃねぇのか?」
お前に言われたくない。
「いいからその女をこっちによこせよ」
一人が強引に近づいてきた。
南雲が俺の背中のシャツを掴む。
うむ。この感じやっぱ萌えるね。あ、燃えるシチュでもあるな。
「こいつは俺の連れなんでね。勝手に連れて行ってもらっちゃ困るんだよ」
とりあえず格好つけて言ってみる。
ついでに俺の横を通り過ぎようとした男の肩に手を置き、止める。
「うっせぇ!」
それにいら立った男が腕を振った。
そのまま俺の顔に裏拳を叩き込んできた。
「なっ!?」
頑張って更新してまいります。
何卒宜しくお願い致します。