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2章 -55- 一人反省会

 あー。

 反省だ。

 これはもう大反省である。

 しかし反省会は後にしよう。


 俺たちは、ひとまず警備兵たちから姿をくらました。

 ハリーに全てをお任せして(押しつけて)、巻き込まれないように距離をとった。

 一応、捕らわれていた獣人たちが変な扱いを受けないか、遠目に確認していたのだが、なんだかんだハリーたちが頑張って話をつけてくれたようで、彼らは森へ帰されることとなった。

 ここまでの流れも事情も知らずに、よく頑張ってくれたものだ。まったく、事情も伝えずに仕事を押し付けるなんて酷いこと、一体誰がするというのかね、ほんと。酷い奴だよまったく。

 うん。


 ガルーの娘、グリーだけは責任を持って送るため、俺たちがこちらにつれてきている。

 獣人たちと別れたことで若干不安そうにしていたものの、今は何故かエルシアのそばで落ち着いている。

 全く縁の無い俺たちよりも、森のリーダーであるエルシアの方が身近に感じられたのかもしれない。

 さっき、助けに来てくれたと教えたのもあるだろうし。

 ただ、エルシアの無言の圧力により、ギリギリの距離を保ってはいるのだが。

 それでも文句は言わないエルシアさん。子供相手に対応を迷っているようだ。


 ハリーが率いる獣人たちの集団は街を出て、森の近くまでやってきた。

 あの凶暴そうな獣人のお姉さんはまだ気を失ったままで、牛人族のミルノに担がれている。

 担いでいるミルノはぜんぜん疲れた様子がない。牛人族って結構力持ちだな。

 しかし良かった。

 あの凶暴な獣人のお姉さんが街中で目を覚ましたら、それはそれで大変な事態になっていただろう。


 とか考えていると彼女が目を覚ましたようだ。

 街を出ていることに一瞬安心したようだが、ハリーを見つけた瞬間はじけるように飛び掛った。

 あ、ハリーも剣を構えて応戦している。鞘から抜かずに構えて、鞘で獣人の爪の攻撃を受け止めた。

 力で負けそうになっていたが、上手くいなして距離を取り直す。

 やるじゃんハリー。

 ハリーを援護するようにエリーさんとマリーさんが牽制をかけている。

 しかし獣人のお姉さんはそれを無視して速攻ハリーに飛び掛った。

 あ、ミルノが飛び込んだ。

 凶暴女を背後から羽交い絞めにして……押さえ込んだ。

 やっぱりパワーは凄いようだ。

 凶暴女の動きが止まったところで、他の銃人たちもハリーを守るように立ちふさがった。

 彼は我々を助けてくれたんだとか言っているのだろう。

 衛兵たちなどに話をつけ、獣人を街から誰一人かかさずにしっかりつれてきたのはハリーだ。

 他の獣人たちに守られたハリーに飛び掛るのは諦めたようで、ぺっとつばを吐き、ミルノを払いのけると森へと走り去っていった。

 他の獣人たちもそれぞれハリーと言葉を交わし森へ帰り始める。

 とりあえずそちらはもう大丈夫そうだ。


 そこまで見送って、俺はガルーのところまで戻りグリーを引き渡した。

「ありがとう! 本当にありがとう!」

 ガルーは涙を流しながら娘を抱きしめ、俺たちにお礼を言ってきた。

 お礼は良いから、しっかり娘と話をしてあげてくれ。

「すまないが、今は何も持っていない……このお礼はいずれ必ず」

 俺たちにお礼は不要です。言葉だけで十分なのだ。だって自分勝手に動いただけだもの。

 そう言ってもさんざん礼を言って、ガルーたちも森へと帰っていった。

 去り際、抱きかかえられたグリーがガルーの肩越しにエルシアへ手を振っていた。

 それを見たエルシアが少し目を丸くしていたのだが、やらしい笑みを浮かべたメディーに気付き、顔を逸むけていた。

 彼女にとっても、今回はいい経験だったのかもしれない。


 彼らを見送り、俺たちは一息ついた。

 メディーの魔法のポーチから出した小屋に入り、小休止する。

 小屋は森の少し手前に設置し、メディーさん御手製の認識阻害の魔法をかけてある。

 これで誰にも発見される事はない。安全だ。

 小屋の中に入り、椅子に座って一息ついた。

 そのタイミングになって、俺はやらかしたことの重大さを感じ始めた。


 今更だけど、冷静なつもりで全然まったくそんなことはなかった。

 そもそも、下手したら死人や怪我人が出たかもしれないのだ。

 今回は相手側のほうが死にそうになってたけど。

 敵側にもし、メディーさんクラスの強敵がいたら怪我や死人がこちらから出ていたかもしれない。

 何より、南雲は戦闘できない一般人だ。そんな彼女を連れて、戦いに行ったのだ。

 置いて行くよりは一緒の方が安全だと思ったけど、それは敵が俺たちより弱いことを前提にした考え方だった。

 前提条件がイージーモードしか想定できていなかった。

 これはあまりに思慮が浅かった。


 それに、途中で助けた獣人たちも、中には戦闘能力の無い子供も多くいた。

 それを、敵を完封する前に外に出すとか、戦闘に巻き込む可能性もあったのだ。

 人質とかにされたら最悪だった。

 何も考えずに戦闘を開始した俺の落ち度である。


 それに、もっと安全にやろうと思うのなら、ヴィーと合流してからでも良かったのだ。

 ドラゴンであるヴィーに参戦してもらえば、もっと安全に戦えたはずだ。

 ヴィーにダメージを与えるのは一苦労だ。タンクとして前衛を勤めてもらえば間違いは無い。


 そもそも、今回の事件はこれで終わりではないかもしれない。

 俺たちの顔を見ている悪党二人は逃げ出したわけだし、俺たちに組織の一部を壊滅させられて反撃に出てくるかもしれない。

 シルバニア・ファミリーというふざけた(本人たちにそのつもりはなくとも)名前の連中だが、この世界の裏社会を牛耳る巨大組織とのことだ。

 どんな大物・強者が出てくるか分からない。

 敵対するにしても素性を隠したり、敵にバレないように対策を打っておくべきだったかもしれない。

 強盗みたいな覆面でもしておけばよかったか。ニット帽ぷりーず!


 考えれば考えるほど、今回は失敗した気がする。

 結果的にはほぼ全て上手くいったが、あまりに無策だったと痛感する。

 まあ、反省はしているけど、後悔はしていないんだけどね。

 助けない選択肢は無かったんだし。

 だが、段取りだけはきちんとするべきだった。


 今度からはもっと気をつけよう。

 敵となる相手に俺たち以上の強者がいる可能性だっていくらでもあるのだ。

 一切抵抗できず一方的に暴力を受ける可能性だってある。

 こちらの能力を封殺する手段を持っているかもしれない。

 そもそも抵抗できない即死スキル的なチート持ちがいるかもしれない。

 考え出したらきりが無いが、俺たちが強い確証なんて何も無いのだ。

 注意は必要だ。

 それに、今後は敵からの攻撃も考えられる。気を抜けないのだ。


 俺の一人反省会はもんもんと進んでいった。


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