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2章 -54- 王都、貴族会議


 王都の中心部。政治機能の集まる建物の一室にて。


「他に議題のある者はありますかな? ……なければこれにて会議は終了となりますぞ」

 司会を務めていた男が他に議題が無いかを確認し、そう言った。

「お待ちください」

 これで終わりかと一息つく雰囲気が流れ始めたところで、凛とした声がそれを遮った。


「奴隷密売の件は何か進展はありませんか?」

 鋭い目をした意思の強そうな見た目の女性が、挙手をして意見を述べた。

 キュリアス・オルレイ。この王都を守る王国騎士団の精鋭中の精鋭、王直属護衛部隊ロイヤルガーディアンの団長である。

 女性でありながら剣術・武術を極め、並み居る屈強な男たちを打ち倒し、実力のみでその地位を勝ち取った。女性初の王国騎士団長である。

 圧倒的な実力故に不動の立場を築き、政治的な影響を寄せ付けない。また、本人も政治というものを詳しく知らないのだ。

 その美貌から、市民や部下たちからの人気はあついが、貴族たちの一部からは疎ましく思われてもいた。


「…………」

「…………」

「…………」

 キュリアスの発言に対して周囲は、ため息こそ漏らさなかったものの、またかという顔をしている。

 それを見てキュリアスは眉間にしわを寄せた。

「いい加減ヤツ等を野放しにはして置けません。いざとなれば、我々が強襲をかけてもいいと思っております」

 少しの怒気を孕んだその意見に、机を囲んでいる一部の弱小貴族は視線を逸らせた。

 逆に、力のある貴族たちの対応はそれぞれだ。

 眉間にしわを寄せる者、表情を変えぬもの、困ったように笑うもの。


「君がここにいるのは、王都の犯罪の状況を理解してもらうためであって、意見を求めてのことではないのだよ? キュリアス殿」

 キュリアスに対して諌めるように言った男は、ドリスドナ・バーリアスというこの王都の大貴族だ。

 でっぷりした腹を揺らしながら、演技めいた身振りをしながら続きを言った。

「君たちの仕事は王の守護であるだろう。勝手に王の元を離れられては困る。仮に動いてもらうことがあったとしても、そのときは王からの指示として君たちに言い渡される。重要な会議の場を乱すようなことを毎度されるようでは、議事録だけを後でお送りするようにせざるを得なくなりますぞ?」

 最後にはわざとらしく大きなため息までおまけ付きだ。


「まあまあドリスドナ殿。キュリアス殿も王都の平和を思っての発言だろう。邪険にすることは有りますまい」

「バーバル殿。それはそうですが……」

 バーバル・ドロアールジーはこの貴族議会の議長を長く務める男だ。

 貴族の中でもひときわ大きい力を持つ大貴族だ。

「キュリアス殿。奴隷密売を愁いておるのは我々も同じです。しかし、現段階では証拠がないではないですか」

 彼は大きな身振りをしながらそう言った。

「それはそうですが……。踏み込み、一気呵成に攻め落とせば証拠も残りましょう」

「さすが我らが王国が誇るロイヤルガーディアンです。勇敢な考え方だ。しかし、ヤツ等、シルバニアの一派には多くの戦闘員もいるという噂です。それこそ貴女をも脅かすほどのてだれもいるそうではないですか」

 男はキュリアスだけではなく、議場の全員へ視線を投げかけながら声を大にする。

「もし貴女が討たれないこそすれ、苦戦をしている間に他の戦力が街を襲えばどうなりますか。善良なる一般市民への被害を誰が食い止めるのです?」

「それは……」

 キュリアスは言いよどんだ。

 敵の勢力は不明であるが、確かに自分に匹敵する者が存在した場合、バーバルの言う事態は懸念すべきものである。

 彼女は自分の力に自信は持っていたが、自分より強い者がいないとうぬぼれるような人間ではなかった。


「わたしの部下の調べでは、ヤツ等の拠点には逃走用の転移の秘術が用意されているという情報もあります。街への被害を出しながら重要人物を取り逃がし、違法奴隷を持ち逃げされては何の意味もないですぞ」

 身振り手振り大げさに言うバーバル。

(何が部下の調べだ。自身が直接売人から聞いているのだろう……)

 その姿を見て、キュリアスは表情を変えないまま奥歯をかみ締める。


「それに、ヤツ等の力は貴族たちにも繋がっているというではありませんか。被害や混乱を撒き散らすだけで結果が出せねば、ヤツ等はそう言った力をもふるってくるようになるでしょう。貴女の地位も脅かされるやも知れませんぞ?」

 そう言いながらバーバルは弱小貴族たちの方を見た。

(ふん。分かりやすい威圧をかけるものだ)

 末端の席に座る弱小貴族たちはその視線を受けて困ったような愛想笑いを浮かべている。

 誰もが理解しているが、反抗もできず、頷くしかない様子である。

 この貴族議会の構図が透けて見える。

 結局力がある者の意見しか通らないのだ。

(くだらない)


 しかし、バーバルの意見も一理あるとキュリアスは考えた。

 この話題の要である奴隷密売の拠点は王都の城壁外の街、アルトーラにあると言われている。

 ロイヤルガーディアンが王城を離れ、城壁外のシルバニアの拠点を攻めているうちに街を襲われれば街を守れない。

 ましてや城門を押さえられれば、王都を守るはずの城壁がキュリアス達を足止めするだろう。

 貴族にまで力の及ぶシルバニアを相手に、城門を閉められないとは言い切れない。

 下手に動けないのだ。

(仕方ないのか……)

 黙りこんだキュリアスを見て、バーバルは満足そうに頷いた。

 そして視線を司会へと向けた。

「では、これにて――」


 司会が会議を終わらせようとしたその時、会議室のドアが勢い良く開けられた。

「会議中失礼致します! 緊急のご報告が!」

 開いた扉からは慌てた様子の兵士が駆け込んできた。

「何事だ」

「王都近郊の街にて爆発騒ぎがあり、兵士が向かいました」

「どれほどの爆発だ?」

「商業用の建物がひとつ、地下まで丸ごと崩壊しております」

「それはなかなかの事態だな。しかし――」

 それだけのことで会議中のこの場に入ってくるほど慌てる必要はないだろう。


「はい。その建物が問題して……。シルバニア一派の奴隷密売施設だったようです」

「なんだとっ!?」

 報告を聞きバーバルは立ち上がった。

「崩壊した建物から、違法奴隷たちが大量に見つかっております。彼らは何故か崩壊に巻き込まれておらず、目立った怪我人はいませんでした。そのほとんどは獣人で、奴隷の登録番号はなく、違法奴隷であることが判明しております。彼らから聞いた話も総合して、シルバニアの関係する建物だったことはまず間違いないかと」

 その報告を受けて、会議室内は大きくざわめく。

「しかし、シルバニアの施設なら腕利きの用心棒がいるのではないのか!?」

「多数の戦闘員の姿も確認されています。皆一様に意識を失っており、しかし命に別状はないようです」

「なんだと!? 何者がいたのだ?」

 慌てたように聞くバーバルに対して、慌てて書類に目を落とす兵士。

「ええ……、ダリシャ、ベルゴなどです」

「グレゴリアという者はいなかったか?」

「グレゴリア……い、いえ。いません」

 問われた兵士は再度書類を確認し、そう答えた。

「そ、そうか……」

 バーバルは呆然としたように席に着いた。

 それを目ざとく見ていた者がいる。キュリアスだ。


「何故バーバル議長殿はその人物の名を知っているのです?」

 バーバルは一瞬キュリアスへ視線を動かしたが、その質問に平然と答えた。

「……私の情報網によるものだ」

「そうですか」

 納得はしていない、と顔に書いてあるものの、キュリアスはそう返事をした。

「しかし、何故そんなことに……」

 誰とも知れずそんな疑問が口に出た。

「はっ。まだ確認中ですが、勇者を名乗る青年が違法奴隷たちを助けるためにやったという情報を得ています」

「勇者?」

 会議に参加している全員に疑問符が浮かんだ。

「はい。ハリーという名の男です。本人は謙遜のためか否定しております。しかし、助けられた奴隷たちや市民たちの話では、彼が勇者として活躍したのだと言われております」

 続く訳のわからない報告に、会議室がざわついた。

「その、勇者というのは、あれか? 御伽噺の……」

「そ、その様です」

 駆け込んできた兵のほうも、半信半疑のためか、返事に自信がない。

「なんなんだ、一体……」


 その日の会議は、今後情報を精査するということで話が終わったのだった。



更新が遅くなり申し訳ありません。

今後とも長い目でお待ち頂ければ幸いです。

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