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2章 -53- 勇者ハリーの活躍はここから始まる


 精霊たちは自前の魔力を好きに適当に操り、各属性の結界を展開していく。

 空間系の精霊たちがのびてる人間の場所を指示し、周囲の獣人たちの座標を固定し、様々な結界がそこかしこで展開されていく。

 俺、何もしなくて良いらしい。


 というか、俺の中にいるくらいだから魔力とか持ってないのかと思っていたが、どうやら各自でも自前の魔力を持っているようだ。元の世界では魔力をなくしていた精霊さんたちだが、こちらの世界にきてから、俺ごしに魔力を吸収していたらしい。

 あれ? そうなると俺という魔力の詰まった器の中に、更に精霊という魔力の器がたくさん入っているという状態になるのでは?

 それでいて、俺の魔力の容量が圧迫されている感じもしない。

 構造というか、仕組みというか、よくわからんな。

 まあ、魔力って言うくらいだから、物理的な容量とは考え方が違うのだろう。


 とにかく結論。

 建物が崩壊するも、誰一人として死ななかった。


 よかった。

『ま、こんなもんね』

 ミズキが当然当然と言っている。

 余裕ぶってごまかしている。

 グレゴリアの行動に気付いていた精霊たちがきちんと止めていれば、今回の建物崩壊は起こらなかっただろう。

 そうであれば、人命の危機にもならなかった。

 わざわざごまかそうとしているあたり、自覚していたから率先して手伝ってくれたのだろう。

 そういうことだ。


 まあ、なんにしろ無事に乗り切ることができた。

 しかし、このまま動かない訳にもいかない。

 地下にいたので、崩落した建物の下に結界ごと埋まっている状態だ。

 結界の中にいるのでつぶされることはないが、このままでもいられない。

 ひとまず瓦礫の山から這い出ることにした。

 精霊たちの魔法結界をそのまま押し上げつつ、移動し、瓦礫を押しのけ地上に出る。

 地上の建物も全部崩れたのでちょっとした山のようになっていた。

 一応気を失ったままの賊どもも結界ごと押し上げている。

 しかし、冷静に考えれば結構派手なことをやってしまった。

 許せない気持ちと勢いでここまで来たけど、建物は崩壊したし、悪党っぽいヤツ等はたくさん気を失っているし、周囲にいる大量の獣人とかどうすれば良いんだろう。

 マジで。



「なっ!? 君はこんなところで何をしているんだ!?」

 色々考えながら地上に出ると、結界を解いた瞬間声をかけられた。

 倒壊した建物の瓦礫のそばに、何故かハリーたち3人が立っていた。

 ハリーとマリーさん、エリーさんだ。

「あ、どーも」

 とりあえずエリーさんとマリーさんに会釈をしておく。

「なんだかすごいことになっているわね」

「どうしてこうなったの?」

 お二人も困惑気味だ。

 とりあえず適当に苦笑いをしておく。

 そういえば、ハリーたちはアルシアードで見たときとおんなじ格好である。

 旅の荷物と思しきものは背負っているが、立派な鎧とマントを装着し、剣を腰に携えている。

 つまり騎士っぽいお姿である。

 ピコーン!

 俺の中で電球が光った気がした。



 ハリーは俺たちを追って旅をしてきたようだ。

 通常ルートでは4日はかかるとの話だったし、俺たちが天樹でダラダラしている間、頑張って旅を続け、やっとここの街へ着いたところなのだろう。時間軸を考えたらそんな感じだ。

「目撃情報を頼りに追ってきてみれば、いったい何をやっているんだ?」

 俺たちを探してくれていたらしい。

 別にハリーに追われてもうれしくは無い。

 例えばエリーさんとマリーさんが俺を探して追ってきてくれたというなら俺は即振り返るが、別にハリーに見つけてもらってもうれしくは無いのだ。


 そして時間もない。

 大通りのほうから、人がちらほら覗きにきはじめた。

 そりゃ石造りの建物が全崩壊するような音だ。

 この程度の街なら街中に響いたことだろう。

 なだれのように野次馬が押し寄せないのは、事態が収まっていない場合を警戒しているのだろう。巻き込まれることを避けてといったようだ。

 魔物もいる世界だから、下手に近づいて襲われたりしないようにみんな警戒するのだろう。

「あー、ハリー。ちょっとこっち来て」

「なんだ? 怪我でもしたのか?」

 俺の呼びかけに応え、ハリーは瓦礫を上ってきてくれた。

 こういう時に素で心配してくれるあたり、悪いヤツではないのだろう。

 エリーさんとマリーさんも続いて瓦礫を上がってくる。


 周りを見渡すと、じわじわと人が集まり始めていた。

 後方から警備兵らしき人たちも走ってくるのが見える。

 そろそろ本当に時間がなくなってきた。

 潮時だ。


「あっ! あなたは勇者ハリー様ではありませんか!」

 俺は大きな声をあげた。

「い、いきなり何なんだっ?」

 戸惑うハリーを無視して話を進める。

「勇者様が、違法に奴隷を売っている闇商人を壊滅させてくださったんですね!」

 説明くせーぜ!

 もっと上手く言えなかったものだろうか。我ながら。

 けど、まあ良いや。

「ああ、なるほど。……ハリー様! おかげで助かりました!」

「ナグモさん!?」

 ぼそりと背後で南雲の声が聞こえたかと思うと、南雲も俺と同じように大きな声でハリーを称えた。

 南雲さんは理解が早くて助かるね!

 意外とノリも良いし。

 さらに混乱するハリー。

「さすがは勇者様ね」

 メディーも意外に乗ってくれた。

 というか、いつも通りの感じでしゃべってたのに、謎に声だけが響いている。今のも魔法かな?

 エルシアさんは当然のらない。腕を組み、呆れたように成り行きを見ている。

 困惑するハリーをよそに、俺たちははやし立てまくった。


「勇者?」

「騎士様じゃないのか?」

「ハリー様だって……」

 集まってきた民衆たちの間でざわめきが広がっていく。

 まあ、ハリーは見た目はまるまんま騎士様って感じだからね。

 対して俺はどう見ても一般市民Aって感じのジミーボーイだ。

 自然と周囲の視線はハリーに集まる。


 南雲やエルシアたち美人ズには視線が集まりそうなものだったが、メディーの認識阻害で目立たないようになっているようだ。メディーさんは優秀だ。

 もちろん声はきちんと周りに伝わる素敵仕様。

「これは何事だ!?」

 街の警備兵と思われる人たちが集まった人々を掻き分けてやってきた。

「ハリー様が違法に奴隷にされようとしていた獣人たちを解放してくださったのです!」

 ひときわ大きな声で言ってあげた。

「おっ、おい!?」

 民衆を掻き分けてやってきた警備兵は、すぐにハリーへと視線を固定した。

「それは本当か?」

 警備兵は率直に聞いた。

「い、いやっ、ボクは――」

「そんな! ご謙遜なさらずとも! ハリー様のおかげで助かったのです!」

 すかさず口を挟んでおく。

「おいっ!?」

「建物を破壊したのはグレゴリアって名乗った悪いやつですが、違法に奴隷にされようとしていた我々を助けてくださったのはハリー様です!」

 ハリーにしゃべる隙を与えずどんどん言いあげる。

 俺の言に警備兵は視線を獣人たちにも送った。

 コクコク。

 混乱している人もいたが、何人かの獣人は察して頷いてくれた。

「そうですか。悪徳奴隷商を……。感謝したいところですが、まずは事情聴取をさせて頂ければと――」

 こうしてハリーは警備兵たちにロックオンされた。


「じゃあ後はよろしく!」

 ハリーにだけ聞こえるように言っておいた。

「ちょっ……」

 慌てて俺を呼び止めようとするハリーだが、その前に警備兵から声がかかった。

「騎士様。あちらで話を聞かせてください」

「待っ……」

 待ってくれええええええ……と聞こえた気がするが気のせいだろう。きっとね。

 巻き込まれたであろうエリーさんとマリーさんには申し訳ないが、俺たちはひとまず姿をくらませたのだった。


不定期更新で申し訳ありませんが、ぼちぼち更新して参ります。

今後とも宜しくお願い致します。

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