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2章 -52- お前もか!


「ちょっ、古川!? あんた離しなさいよ!」

「え?」


 南雲の声が聞こえた気がした。

「かはっ!?」

 はひゅー、はひゅー、はひゅー!

 何の音かと思ったら、俺の呼吸の音だった。

「はれ? おれ、は?……」

 どうなってたんだ?

 あれ?


 うん。

 死ぬかと思った。

 しばらく呼吸をして落ち着いたら記憶も戻ってきた。

 あの胸は危険だ。……おっぱい怖い。


「あ、あんた大丈夫?」

 ふらふらとしつつも立ったままの俺を南雲が支えてくれていた。

 俺を支えるために抱きつく形になっている南雲。

 俺の右腕には馴染みのある柔らかな膨らみが触れている。

 うん。これでもかなり大きいほうなのだ。

 しかし、先ほどの危険物に比べれば圧倒的に安心できるサイズ感だ。

「南雲は南雲のままでいてくれ……」

「は?」

 しみじみと言ったものの、伝わらなかったようだ。


 酸素が脳に戻り始めて、思考も戻ってきた。

「あわわ。すみません!」

 先ほど俺を圧殺しかけた獣人は慌てた様子で頭を下げていた。

 深く頭を下げるせいで、ぶらんぶらんと爆乳が揺れている。

 何故か垂れてる感じにならない立体感を保っている。これはこの獣人特有の肉質なのだろうか。

 どちらにしても俺には恐怖の塊にしか見えない。

「いや、なんとか生きてるから良いよ」

「本当にすみません!」

 元気な乳牛だ。……あ。

 南雲さんにつられて変な名前で呼びだしそうなので、名前を聞くことにした。

 彼女はミルノ・ホルスターと名乗った。

 獣人の中でも牛人族というらしい。やはり牛なのか。

「あの、それで、奥の人は……」

 一通り謝罪を終えた後、ミルノはおずおずと言った。


「ここから出せ! 殺してやる! 出せぇぇぇぇぇ!!!!」

 あえて聞こえないフリをしていたのだが、いい加減無視もできまい。

「あー、助けるよ? 助けます。助けて良いのかな? 俺が助からないんじゃないかな?」

 あの人間を見つけたら片っ端から殺しますってオーラを出している彼女を助けたら、真っ先に目の前にいる人間を殺しにかかりそうだ。つまり俺。

 結構怖い。

「うるさいわね」

「てめえも殺してや…………………………」

 どうしようか悩んでいると、急に声が途切れた。

 というか、誰か今何かしたよね。

 犯人は一人しかいないが、今回ばかりは結果オーライだ。

 呼吸音は聞こえるので眠らせただけっぽいし。いいだろう。

 静かになった猛獣の彼女の枷を外し、自由にする。


「あ、わたしが背負います」

 ミルノが名乗り出て、軽々と猛獣女を背負いあげた。

 見た目のわりに力持ち。

 日々あのぶるんぶるんのダンベルを背負って負荷をかけ続けているためだろうか。

 まあ、牛ってそもそも力有りそうだし、牛の獣人も力持ちなのだろう。

「じゃ、帰りますか」

 思った以上に奴隷がいたので、大所帯になってしまった。

 この人数で森まで御散歩とはなかなか大変そうだ。

 子供もいるしどうしたものか。


 俺はもう帰ることしか考えてなかった。

 正直気が抜けていたと言えるだろう。

『悠太。崩れるわよ』

 ミズキの声が脳内に響いた。

 え、なにが?

『この建物が崩れます』

 カグラも言う。

 へ?


 一瞬遅れて、部屋がガタガタと揺れ始めた。

 慌てて振り返ると、さっきのグレゴリアと名乗った男が何かを持って立っていた。

「へっへっへ。のんきなヤツ等だぜ」

 そう言ってまだのびている相方を肩に担ぎあげた。

「あばよ!」

 言うと同時に手に持っていたものを天井へ向けて投げつけた。

 ドバッ

 驚異的な腕力で投げられたソレは天井を打ち砕き、天井に穴を空けた。

 すかさずグレゴリアはその穴を抜けて飛び出していく。


 そして、やつが投げたのは石のブロックのようだった。

 具体的に言うと、ヤツが立っていた背後の壁の下のほうのブロックだ。

 どうやって引っこ抜いたのか謎だが、壁の角の下のほうが無くなり、不安定になっている気がする。


 てか、あいつ、俺たちに気付かれずに行動したってのか!?

 俺はともかく、精霊さんたちのレーダーに引っかからないのは……

『いやー、気づいてはいたんだよね』

 ???

『悪あがきに何する気なんだろうなーって』

『興味津々』

『仕方ないよねー』

 精霊さんたちが口々に言う。

 精霊さんたちは基本素直だ。

 悪いことをした気がしたら、素直に言い訳とか保身に走るのだ。

 故にその真意は筒抜けだ。

「おおいっ! なんで言ってくれないの!」

 思わず口に出して言ってしまった。

「あら、ごめんなさい。悪あがきに何をしてくれるのかと思って」

 別方向から謝罪が来た。

 メディー! お前もか!!

 同類かよ!


「まさか魔法でも魔術でもなく、自然の摂理を使うなんて。面白い発想ね」

 さては反省してないな!?

 ちなみに、この世界では物理学というものはあまり発展していない。

 物を落とせば地面まで落ちる。物を投げたら遠くまで飛ぶ。動いている物体は急には止まれない。

 そう言った現象は誰もが理解しているが、それを物理として意識はしていない。

 それゆえの自然の摂理という言い方になるそうだ。

 まあ、魔術・魔法に対しては万能なメディーさんも、単純な物理による現象を相手にしてはジャミングなども使えなかったのだろう。

 それはそれとして。


「どうするっ!?」

 さすがに焦る。

 思考加速して考える時間を稼いだものの、俺たちの回りには大勢の獣人がいる。俺の全速力を持ってして数人ずつ担いで走っても間に合わないかもだし、そもそも彼女たちへの負担が大きすぎる。

 建物自体を倒れないように支えてしまうとか?

『無理ね。どこを支えれば良いのか検討もつかないし』

 石造りの地下。そしてその上に立つこれまた石造りの建造物。

 木造ならせめて、柱と梁の位置関係で支えるところが見えるかもしれないが、これは石造りの建物。支えあう力の関係は複雑に絡んでいる。

 ましてや、最初からそこを壊せば連動して崩れるように計算されていたと思しき建物だ。

 たぶんあの二人が考えたのではなく、もっと前にここを作った人間が考案したのだろう。

 そんなことより対応だ。

「こんなもの、吹き飛ばせばいいじゃない」

 エルシアさんがそんな事を言った。

 あ、そうかなるほど……ってダメだっ。

「ここで吹き飛ばしたら瓦礫が周りの街を破壊するだろ!」

 その上落ちてきた瓦礫で死人が出かけない。

 そもそも、上部の建物には最初にノックアウトした見張りの人たちもいるはずだ。

 今吹き飛ばせば、そこいらの人らもミンチになること請け合いだ。

 別に良いじゃないとか聞こえた気がするが気のせいということにしておこう。


 ぱらぱらと砂埃が落ち始めた。

 いい加減ヤバそうだ。

 思考加速のおかげでゆったりしているように感じるが、実際には一瞬の出来事だ。

 普通の人なら対応は不可能だろう。

 しかし、実際問題俺も解決策を思いついていない。

『まあ、この建物の中の人がいるとこだけ、結界で守れば良いだけじゃない?』

 ミズキ先生、簡単そうに言いますね!?

『わたしたちが同時に魔法を使えば大丈夫でしょう』

 あ、カグラが言うなら間違いないね。

 わたしたちって言うのは精霊さんたちのことだろう。

 そこそこの人数(柱数?)がいるようだし、多重ロックオンみたいなことができそうだ。

 じゃあ、お任せで。


 というかカグラさん?

 さっき言い訳合戦に参加せず無言を貫いていたけど、同罪だからね?

 ホノカも。

『『…………』』

 カグラとホノカはこういう時無言になる。

 精霊さんたちはちょっと方向性が違えど素直なのだ。自覚が有りますとその無言の間が教えてくれる。

『……好奇心は大事なものなのです』

 とはカグラの言。

 ほらやっぱり。結局は精霊さんなのだ。

 とりあえず話しは後。

 建物内の生き物保管計画開始だ!


 俺は魔力を解放する。

 自分が操るのではなく、精霊たちに分配していくイメージだ。

 そして魔力を受け取った精霊たちが、イラナイと言って魔力を返してくる。


 え? いらないの?


続きます。

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