2章 -50- 守れる範囲で戦って…
「あら、それもダメなの?」
年上のお姉さんが天然っぽい反応を見せているが、決してほっこりできない。
一歩間違えれば血の海だ。
もう内臓は見たくない。
というか、何でこいつは切ってもいいと思ったの?
俺がボスかどうかしつこく確認してたから、ボスなら殺しても良いと思ったの?
訳わかんねえよ!
「エルシアだと? その美貌に戦闘力、貴様、有翼人のクイーンか!?」
グレゴリラがはっとしたように言った。
エルシアさん、有名人なのか?
まあ、森を仕切っていたらしいし、少しくらい知られててもおかしくないか。
森に狩りに入る連中だ。その辺の情報収集はしていてもおかしくないし。
「あら、わたしのことを知っているのね」
さもどうでも良いようなエルシアさん。
一応正解だと示すためか、翼の認識阻害を解除して本当の姿をあらわにした。
「ほほう。縄張りの住人を助けにでも来たのか? しかしこれは良い獲物がきた」
ニヤリと笑うグレゴリラ。
「あ、ああ、クイーンを狩れば俺たちの評価も跳ね上がるってもんだ」
俺の背後で固まっていた相方も声を上げる。
いやいや、あんた今、死んでたぞ……。自覚してくれよ。
助ける側の身にもなってほしい。
「おい、バレル。思った以上の上物だ。なるべく生かして捕らえるぞ!」
「ああ! 森の女王を飼えるとなれば、金持ちどもはいくらでも金を出すだろうな!」
おーい。大丈夫かお前らー。
興味なさそうにしていたエルシアだが、グレゴたちの狩る側発言に眉をぴくつかせていた。
舐められた態度にボルテージが上昇しているようだ。
「ねえユータ。やっぱりそのクズたち、殺してはダメかしら」
ほらやっぱり。
「ダメです!」
ちょっと怖いけどこちらが気を抜くとすぐに血祭りになりかねない。
強気で禁止しておく。
「じゃあ処分しましょう」
どう処分する気だよ!?
分別解体してゴミ箱へ?
殺す気まんまんじゃん!?
「てめえら何しゃべってんだよ!」
余裕ぶっこくなと言いたげにグレゴリラが再度切りかかってきた。
彼らを完全無視して俺とエルシアが会話をしていたのが気に入らなかったのだろう。
「怪しげな移動をしやがって!」
今度は目の前に立っているもう一人も斧を振ってきた。
というかなんだよ怪しげな移動って。あんたを助けるためにダッシュしただけだよ!
「うわぉっ!?」
両サイドから降りぬかれる大剣と大斧をしゃがんで避け、そのまま横っ飛びに間合いから逃れた。
しかし、しゃがむのは失敗だった。
いくらすばやく動けると言っても、しゃがむという行為は重力に従ってするものであって、重力加速度以上の速さではしゃがめない。
思考加速をしていたせいで感覚がズレていたので、危うく剣に触れそうになってしまった。
今度からはエアーブラストで反動をつけるとか、何か工夫がいるよなこれは。
そもそも、この二人の剣と斧の速度が速いのもある。
彼らの体中から魔力を感じるので、魔力強化を行っているのだろう。
それも結構たくみに操っている。
前の町で見た女騎士の団長さんよりはるかに速い。
こういうのの相手をする時はもっと気をつけよう。
「バレル! お前がこの小僧の相手をしろ! 俺はエルシアをやる!」
「おう!」
「あ、待てこら!?」
そっちに行ったら殺されるだろ!
俺の守れる範囲で戦ってくれよ!
「せいっ!」
バレルと呼ばれた相方が大斧を思いっきり振り下ろしてきた。
その隙にグレゴリラがエルシアに向かって駆けていく。
やっぱり速い。以前の騎士団長さんよりはるかに速い。
が、それ以上にエルシアの動きは速いのだ。
彼女に近づく大剣を持った男を冷静に……というか、冷めた様子で冷たく観察し、間合いに入るか否かという瞬間に槍を振りかぶった。しかも片手じゃん。
「待てって!」
慌てて大斧の2撃目を避けて瞬時にグレゴリラの背後へ飛ぶ。
「ぬっ!?」
襟首を掴んで思いっきり背後に引っ張った。
首が絞まっただろうが、あれだけの身体強化をしている人間がこの程度で首を痛めることは無いだろう。
バレルのいた方へ投げておく。
ついで、グレゴリラのいたところをぶった切るラインで振り抜いてきた槍を小型に展開した多重結界・十二単で受け止める。
表面の2枚ほど割られたがなんとか止まった。
エルシアが本気だったらもっと割れていただろう。
振りぬかれていたら斬撃も飛んでいたから止めないといけなかったのだ。
というか、この十二単、うちのメンバーにしか使ったこと無いんだけど、なんで?
「ちっ。すばしっこいガキががががあががああああああああ!?」
「うげげげげげげげげ!!」
バレルとぶつかって転倒していたグレゴリラもといグレゴリアが、奇声を上げた。バレルも同様だ。
バリバリと音を立てながら、メディーから紫色の雷のようなものが鞭のように伸びている。
前に使っていた魔法陣タイプの雷撃とは種類が違う。本当にこの人はレパートリーが多いな。
「ユータが殺してはダメと言っているのよ。あなたも加減を覚えなさいな」
メディーがそんなことをエルシアに言っているが、その魔法も結構威力が高そうなんですが。ダイジョブ?
「そう、必要なら覚えるわ」
エルシア覚える気なさそうだなー。
「あ………………」
「ぐふっ………………」
バリバリが止まった時、いかつい男二人は煙を吐きながら地面に突っ伏した。