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2章 -49- ダメです!

 で、なんだこれ……。


「な、なぜ空間転移が発動せんのだ!?」

 最奥の部屋に入ると、男たちが慌てて何かを操作していた。

 見ると、床には巨大な魔法陣が描かれており、その中央には何かが置かれている。水晶のようだ。

 どうやら、その水晶には魔術的な技術が組み込まれ、空間転移のための術式と魔力がこめられていたようだ。

 それが発動しないので酷く混乱している様子だ。


「殺してやる! 人間は殺してやる!! 全部殺してやる!!!!」

 その騒動の横では、檻に入れられ、手足を厳重に鎖で繋がれた獣人のお姉さんが怖いことを言っている。

 殺気を含んだ目で慌てる男たちを睨んでいる。怒りすぎて冷静な思考は置き去りのようだ。

 鎖をちぎろうとしているのか、ガッシャンガッシャン鳴らしている。無理に動かしすぎて、枷のところから血がにじんでいた。

 腹筋割れめの肉感ある狼っぽい耳の美人なお姉さんなのだが、怒りの表情で台無しだ。

 なにこれカオス。


『空気の流れはここで止まっていますね』

 カグラが教えてくれた。

(これ以上の逃げ道はなしか)

 つまり、あの水晶と床の魔法陣が男たちの逃走の手段だったのだろう。

 逆に、その逃げ道を有するが故に、両撃されないよう他の入り口を設けていなかったようだ。

「うふふ。そんなものではわたしの支配空間を抜けられないわよ?」

 混乱している男たちを面白そうに眺めながらのこの発言。メディーさんである。

 どうやら、空間転移を阻害していたようだ。

 というか、今この部屋に踏み込んだばかりなのだが、彼らの慌てようは俺たちが入ってくる前からの様子だった。

 どのタイミングで転移を阻害し始めたんだろうか。怖い人だ。


「き、貴様ぁ……」

 こちらを恨めしげに見てくる男たち。

「うふふ」

 非常にいやらしい顔をして笑うメディーさん。これはサディストの顔だ。

 美人のお姉さんがやると本当に怖い。


「まあ良い。転移が阻害されたところで、ガキと女相手なら引く必要も無かったわけだ」

 あ、なんか急に冷静さを取り戻したな。

 今の今まで慌てていた男たちは、こちらを確認して急に冷静になった。

「そうだったな。元々、念のための撤退策だ。俺たちが戦闘で負けるわけがない」

 男二人、急に落ち着いたんだけど、なんだか説明くさいセリフだな。

 すごい取り繕った感があるよ。というか取り繕ったんだろう。

 先ほどまでの慌てっぷりはマジだったもの。


「で、あんたらがここの親玉?」

 たぶん二人いるうちのでかいほうが親玉なのだろう。

 なんか偉そうだし。

 筋骨隆々といった感じの見た目で、眼光も鋭く、マジな顔をしていると結構怖い。

 先ほどの慌てっぷりを見ていなければ、もう少し俺も腰が引けていたかもしれない。

 でも、なんか真のラスボスって感じでもない気がする。悪そうだけど、こういう組織を運営できるような計算高いタイプには見えない。よくて下部組織のボスってところだろうか。

「はん。ガキが偉そうに。どこかの貴族様かな?」

 ちがいます。

「運がねえな。俺がケモミミ愛好会の狩猟部隊の隊長、グレゴリアと知らずに相対するとは」

 知るかいな。

 裏組織のボスが有名なわけ無いじゃん。

 知るわけないし。

「へっへっへ。最近は獣人相手でもあくびが出るってのに、人間相手なんて笑っちまうぜ」

「確かに。外のヤツ等はなにしてたんだ?」

 さっきまでいじくっていた魔道具を床に置き、背負っていた武器を手に持ち直した。

 片方はかなりでかい大剣で、もう片方は大きな斧だった。

 グレゴリアと名乗ったごついほうは、かなりでかい大剣を片手で軽々と持っている。

 あの感じだと、振り回す速度も速そうだ。

 もう一人も決してひょろくは無い。こちらも大斧を軽々と担ぎ上げた。

 アレを振り回されたら、木造の家なんかは簡単にぶっ壊せそうだ。

「アレくらいの手ごたえが欲しいもんだ」

 そういいながら視線を檻に向けた。

「殺してやる!! こっちへ来い!!!!」

 ガッシャンガッシャン。

 見なかったことにしよう。

 目がヤバイ。

「あー、親玉って事で良いんだよね?」

 念のため確認しておく。

 まあ、狩猟部隊の体調って行ってたし、やっぱり実行部隊のリーダーってことだろう。

 組織の幹部ってヤツは別にいるのだろう。

 ここを何とかしても、悪い事は止まらないって感じかな。

 ま、それでもやるけど。やる以外の選択肢はない。

「へっ、さっさと終わらせて酒の続きだ!」

 グレゴリラが勢い良く突っ込んできた。結構速い。

 以前戦ったゴブローより速いかも知れない。

 エセ女神からの特典持ちの異世界人よりスペック高いってすごいな。

 やはりボスは相応に強いものなのだ。


 身の丈ほどもある大剣を軽々と振り上げ、一気に振り下ろしてきた。

 狙っているのは俺。

 幸い南雲たちは少し後ろに立っているので、間合いには入っていない。


 ブンッ


 物凄い音がして、大剣が空を切った。

「なにっ!?」

 グレーなゴリラが驚いた声が背後で聞こえる。

 そういえば肌は日焼けして焦げ茶色なんだが、何でグレーを名乗っているのだろう。

 ……って!?

「エルシアさん!? 今何したの!?」

 俺はというと、もう一人の男の前に立って、飛んできた斬撃を受け止めていた。

「あら、試し切りよ」

 試し切りよ。じゃないわ!


「殺しはダメって言ったよね!?」

 グレートゴリラが動いた瞬間、それに合わせたのかたまたまなのか、何食わぬ顔でさっきあげた槍を振ったエルシアさん。

 エルシアは飛行能力だけじゃなく身体能力も高いようで、その細腕に見合わず軽々と槍を振っていた。

 その槍先からは凶悪な魔力がほとばしり、斬撃としてグレなんとかの相方へ一直線。

 当たれば上半身と下半身が永遠の別れを迎えるところだった。


「あら、それもダメなの?」


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