1章 -10- グランジードの村
村の名前はないらしい。
自然とともに生きるエルフは、その集落を合併したり分離したりしながら生きているそうだ。
そのため、村の長の名前を使い、誰々の村と呼ぶのだとか。
この村の長はグランジードさん。つまりここはグランジードの村と呼ばれるようだ。
昔は他の村と合同で狩りをしたりもしたそうだが、数が少なくなった今となっては同族に会うことすら稀だそうで、余計に村の名前が必要ないのだとか。
エルフが数を減らしているのは人間のせいでもあるらしい。殺されたり奴隷にされるのだとか。
それは人間嫌いになるってものだ。
村を案内されながらそんな話を聞いた。
もちろん俺は言葉を理解できないので、全部ミザリーに翻訳してもらったのだ。
その日の晩ご飯は吹っ飛んできた大イノシシのバーベキューだった。
塔にぶつかった後、村の中で暴れていたのをみんなで狩ったのだそうだ。
塔を壊す原因になったのが俺だということは内緒だ。
どうやらあの塔は、村を他者の目から隠す結界を張る役目のものだったらしい。
非常に申し訳ないと思ったのだけど、思わず言い出せなかったのだ。
お詫びにこっそりこの村に貢献して出て行こうと誓ったのだった。
そんな事を考えながら周囲を見渡すと、みんな思い思いの場所で食事をしている。
物語によってはベジタリアンだったりするエルフだが、ここのエルフは普通に肉も食っていた。
みんな塔を壊され怒っていたわりに、おいしそうに食べている。
「どうぞ食べてっテ」
エルフのお姉さんが焼きたてのイノシシ肉を持ってきてくれた。
木のプレートみたいな皿にのせ、肉には胡椒のようなものがかかっている。んー。良いにおい。
「んまっ!」
塩気が無いのが残念だが、筋張った肉から旨みがたっぷり溢れてくる。野生の味だ。
臭みは胡椒のようなものとハーブのようなもので上手いこと消してある。
何よりこの肉厚だ。元々が大きいこともあり、贅沢に分厚く切ってある。
このかぶりつくような感じがたまらない。
「ありがとう!美味しいよ! って伝えて!」
ミザリーに翻訳してもらうと、お姉さんはにっこりして下がっていった。
俺はゆったりと椅子に腰掛け肉を味わう。マジ旨い。
あまりの美味しさにどんどん食べていると、さっきのお姉さんがにっこりしながらおかわりを持ってきてくれた。
しかも、食べきれないほどの山盛りで。これはうれしい限り。
新しいお皿の肉を手に取り、口に運んでいく。やっぱり旨い。
「ねえ……、アタシのは?」
ここに来て我慢の限界を迎えたのか、南雲がキレ気味に言った。
彼女の前には何も置かれていない。
というか、そもそも椅子もなく、テーブルもない。
俺を案内してくれたエルフのお姉さんは、一人用の席に俺だけ座らせて案内を終えている。追加の椅子を持ってくるそぶりもない。
なんとなく状況を察した俺は、流れに身を任せ、南雲のリアクションを待っていた。
「なにが?」
状況は分かっているが、あえてとぼけておく。
「なにって、何でアタシには席もないの!?」
怒っていらっしゃる。
まあ、目の前で旨うま食われているとイライラもするだろう。分かってやっていたのだが。
そう思っていると、さっきのお姉さんがまた来てくれた。
俺の前に木の皿にのった果物っぽいものを置いてくれる。
そして南雲の足元に、葉っぱにのせた焼け残りのようなカリカリの肉を置いていった。
「………………」
ギャルのボルテージが上がっていく。プルプルしている。
「ここでクエッション! ミザリーは南雲のことをなんて紹介したのかな?」
ちょっと面白がってしまってる自分がいる。
南雲をおちょくるつもりでクイズ形式にしてみた。
「さっきの、せ、精霊ってやつ?」
イライラしながらも俺の会話に付き合う南雲。
怒鳴られるかと思ったが、意外と大人しい対応だった。ちょっと物足りない。
精霊に関してはミザリーの登場に驚いていた南雲には一応簡単に説明しておいた。
ざっくりだけだが、一応理解はしてくれたように見える。
マンガに疎い南雲だったが、魔法とかファンタジー系の映画などで多少は知識があったので助かった。
「なんて説明したのよ」
「答えは本人から」
俺のフリに答えるべく、ミザリーが再度姿を現した。
「この女はクズで性悪のドレイだけど、悠太が優しいから更正させるため同行させてるって言っタ」
ニヤニヤしながらそんなことを言う。
「なによそれ!?」
「この世界には奴隷制度があるからネー」
「そこじゃないわよ! なんでそんな説明するのよ!」
憤慨する南雲。俺の横にふわふわ浮いているミザリーに向かって怒鳴ってる。
結果的に俺が怒鳴られているようでちょっと怖い。
「だってアタシたちあんた嫌いだシ」
憤慨する南雲を意に介さず、あっさり言ってのけるミザリー。
「なっ!?」
どうやら精霊たちは南雲が嫌いらしい。ミザリーに限らず。
ミザリーと南雲が言い合いしているうちにミヅキたちに確認を取った。
精霊たちは日本にいたときから俺の中にいたのだ。当然南雲が俺にしていたことも知っている。
もともと気分屋でサバサバした性格が多い精霊たちにとって、回りくどいいじめみたいなやり方は受け入れられないようだ。精霊は人を選ぶとも言うし。
「まあまあ。南雲、これ食べろよ」
不毛な喧嘩を止めるべく、俺は自分の皿を差し出したのだった。
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