2章 -44- 聞き込み
絡んできたのは街の不良達のようだ。
伯仲堂々、往来のあるメイン通りにも関わらずだ。
道行く人たちは、巻き込まれないように俺たちを避けて通ったり、店の奥からこっちの様子を伺ったりしている。
慣れた様子で、中には面白がって見ている人もいた。
この街では良くある風景なのだろう。
「あー、ちょっと急いでるんで……」
正直ちょっと、相手にする気分じゃない。
「ああん?」
急いでケモミミ愛好会を探さないといけないのだ。
ガルーの娘はまだ生きているかもしれないが、今後も生かされる保証もないし、酷いことをされているかもしれない。
何より、ケモミミ愛好会を早くどうにかしてしまいたい。
「ぼっちゃん、ちょっと調子に乗りすぎじゃねえか?」
俺の言動にいらだったのか、不良は表情をゆがめ、拳をバキバキと鳴らし始めた。
その様子を見て、不良の仲間と思しき連中が集まってくる。
調子になんて乗った覚えは無い。なんなんだ一体。
「どうしたヘンリー。そいつやっちまうのか?」
「面白そうだな。混ぜてくれよ」
「ひゅーう。良い女がそろってるじゃん?」
相変わらず典型的な不良が出てくる。
いつぞやの不良たちを思い出すが、今は急いでいるので優しく相手をしてあげる気にもならない。
「えーと、これで全部?」
俺たちを囲うように10人ほどの不良たちが集まった。
みんなニヤニヤしながら獲物を見るような目をしている。
まあ、俺はイケメンでもなければムキムキでもない。地味で中肉中背な男子高校生なんか見ても、カモくらいにしか見えないのだろう。しかも今は美女というネギを3本も背負っている。
俺の回りには南雲、メディー、エルシアの3美女が並んでいるのだ。
普通に考えたら男1人に女3人、相手は男10人。勝負は目に見えているようなものだろう。
「てめぇ、調子に乗るなよ?」
青筋を立てるヘンリーと呼ばれた不良を無視して、俺は動き始めた。
身体強化と思考加速を発動し、囲んでいる男たちの懐に飛び込む。
拳を叩き込もうかと思ったが、加減に失敗そそうだったので断念した。
急いでいるし苛立っていても、トマトケチャップはぶちまけたくは無い。
触れる直前まで掌底を打ち込むようにし、ゼロ距離で“エアブラスト”を打ち込んだ。
強烈な空気の塊をみぞおちに打ち込んで男を黙らせる。
同様にしてあっというまに8人の男を昏倒させた。
その場から動かずに撃つこともできたのだが、先に突っ込んでしまったし、あまり街中で魔法をバンバン使うのも目立つかと考えたのだ。
まあ、不良に囲まれて圧倒した時点で目立ってはいるのだが。
人目も有ったし、格闘技くらいに思われておくほうが良いだろう。
手の内を隠す意味でも。
隠せているかは謎だけど。
とにかく、10人中8人は片付いた。
みんなその場で倒れている。
「で、何かご用事ですか? ヘンリーさん」
俺は8人目を打ち倒したところから、あえてゆっくり歩いてヘンリーの前に戻る。
余裕を見せ付けるように。
というか、混乱しているヘンリーたちのクールダウンタイムも兼ねている。
「な、なんで……? 何が起こったんだ……!?」
それでも混乱していたけれど。
「用事無いなら、聞きたいことがあるんですけど。良いかな?」
俺が目の前に戻って目を合わせて聞くと、無言でコクコクと頷いている。
話は聞けるようだ。
「あー、あと、そこの人」
ヘンリーの横にいたもう一人に声をかける。
「他の人、みんな気を失ってるみたいなので、介抱してあげてください」
その人も唖然としたまま顔を青くしていたが、素直にコクコクと頷いてくれていた。
そのために予備で残しておいたのだから、そうしてくれないと困るのだ。
俺たちは倒れた8人と介抱役の1人を置いて、その場を後にした。
周りで見ていた人たちも同様に唖然としていたので、騒ぎにはならなかったけど、悪目立ちしすぎたので場所を変えたのだった。
路地裏に入り、その辺の木箱に腰掛けた。
南雲たちも同様に座った。
ヘンリーは立ったままだ。というか直立不動である。
「今日、何か変な連中入ってこなかった?」
せっかくなので聞いてみることにした。
俺たちが入ってきてすぐに絡んできたので、普段から街の入り口を縄張りにしているのだろう。
周囲の人の雰囲気を見る限り、いつものことのようだったので、間違いないだろうし。
「あ、ああ。少し前、ローブを羽織ったヤツ等が馬車で入ってきていた」
ヘンリーは素直に教えてくれた。
やはり、いつも入り口で張っているらしく、今日の出入りも見ていたそうだ。
俺たちが到着する少し前に、怪しい馬車が入ったそうだ。
御者もフードを被り、顔が見えなかったそうだ。
怪しい連中なのは間違いないので、ヘンリーたちも手を出さずに素通りさせたらしい。
ヘンリーは、裏の組織の奴隷狩り部隊だろうと考えているようだった。
「それだな」
この街に入った事は間違いないだろう。
「その馬車はどこへ行った?」
「いや、それが気付いたらもう姿が無かったんだ」
通り過ぎるところまでは見ていたそうだが、通り過ぎた後振り返ると、どこに行ったのか分からなかったのだとか。
どういうことだ?
「追跡阻害の魔術でしょうね」
精神系の魔術の中に、意識に働きかけ、追わせないようにするものがあるらしい。
なるほど。やっかいだな。
でもそれだと、最初から見つからないようにしておいたほうがいいんじゃないだろうか。
そう言うと、メディーも「そうね……」と不思議そうにしていたが、
「そこまでの術者がいないんじゃないかしら」
エルシアの意見で納得することとなった。
精神系の術者は多くないそうだし、完全に視界から消したり、認識させないようにするのは難しいそうだ。
「じゃあ、どんな馬車だった?」
どこへ行ったか分からないなら、この街の中を探さないといけないだろう。
「ああ、それはな……あれ?」
ヘンリーが戸惑っている。
「どした?」
「いや、それが思い出せないんだ。さっきのことなのに」
マジか。
これもどうやら追跡阻害の魔術の影響らしい。
いろいろ聞いてみたが、ヘンリーは詳細を思い出せなかった。
ローブ姿の人が乗った馬車が入った。それ以上の情報は出てこなかった。
ローブの色も馬車の色も、デザインも、詳細は分からなかった。
これ以上の聞き込みも無駄なようだ。
「あとは足で探すしかないか」
俺たちはヘンリーを解放して街を進み始めた。
ぼ、ぼちぼち、更新……