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2章 -43- 追跡

「古川、大丈夫?」


 不意に南雲が俺に問いかけてきた。

「え?」

 急に心配そうに声をかけられたので状況が理解できなかった。

 自分の思考に埋没していたようだ。

 気付くと南雲に手を取られていた。


「魔力っていうのかな? 漏れてるわよ」

 南雲はまだ魔力と言うものを理解していない。

 感知する練習などもしたことは無かったのだが……

 それでも分かるほど、俺から魔力が漏れていたようだ。

 言われて気付いた。


「うふふ」

「ふふふ」

 何故か満足げなメディーとエルシアはスルーしておく。


「………………」

 無言のままダラダラ汗を流すガルーさんが目の前にいた。

「なんという……」

 俺が気付いて漏れていた魔力を抑えると、そう言った。

 俺の魔力に当てられたらしく、顔を青くしていた。

 怒りに呼応して魔力が漏れてしまっていたようだ。


 自分でもびっくりしていた。

 こんなに頭にきたのは久しぶりだった。

 人が殺されているところなんて初めての遭遇だったが、やっぱり許せない。

 そう思った。



 考えてみれば、人殺しに限らず、生きるために色々殺すのが当然のこの世界。

 転世してから今まで、生き物の死と言うものを目の当たりにせずに来れたのは奇跡だったのではないだろうか。

 最初の盗賊との戦いでも両者に死者は出なかったし、エルフたちもそうだった。

 俺が吹き飛ばした大イノシシは結果的にはエルフに狩られ、俺自身も食べたのだけど、殺し解体する場面には出会っていない。

 アルシアードの街も、エルケンリアードの街も、頭がおかしいヤツ等のせいで平和だった。

 今までに聞いた話だと、盗賊に襲われて殺されることは良くある事らしい。

 本来街中での喧嘩ですら死人が出ることもあるくらいの世界なのだ。


 食べるために動物を殺したり、身を守るために魔物を殺す。

 それは仕方の無いことかもしれない。

 しかし、一方的な人殺しは別だ。

 会話も出来るし、理性もあるのが人なのだ。

 獣人でも人間でも人は人だ。

 殺して奪う。そんなことが成されている。

 考え始めると俺の中のもやもやした怒りがふつふつと煮えたぎってくる。

 死んでしまったらそこまでだ。

 本人の意思で終わらせるなら仕方ないけど、生きたい人を殺すことは絶対いけない。

 あんな姿にするなんて……。

 それだけは、許せない。

 沢山の無残な死体を見てしまったからなのか、俺自身の本来の意思なのかはわからないが、俺は今回の殺しに対して怒りに怒っていた。

 絶対にゆるさない。


「あんたの娘さんは、俺が助けに行くよ」

 俺は自然とそう言っていた。

 ガルーの娘を助けたい気持ちもあるし、何より、今回の件で“ケモミミ愛好会”なる組織を許すことができない。

 そんなふざけた名前の組織なんか、なんとしても追いかけて見つけ出してぶっ叩く。

 そう決意した。



 ガルーは自分も救出に行くと言っていたのだが、まだ本調子じゃないはずなので、置いていくこととなった。

 森で野営をする程度には回復しているだろうということで、その近辺で待ってもらうことにした。

 本人の覚悟も相当なものだったので、納得してもらうのに説得が大変だった。

 最終的にはエルシアの怒り気味の待機命令によって押しとどめたのだ。



「それで、どうやって探すのかしら?」

 街の方向へ向かって飛びながら、メディーが聞いてきた。

 正直何も思いついていなかったので、困ったところではある。

「んー、どうするかね……」


 ただ、愛好会などと名乗っていたくらいなのだ。

 ヤツ等はそれなりにモノを集めているはずだ。

 そう考えると、一般人の仕業ではない。

 獣人は人間より身体能力に優れた種だ。そんな彼らを捕らえるにはそれなりの力や戦闘技術が必要だ。

 冒険者などのいないこの世界においては、魔物などの狩りを依頼する冒険者ギルドみたいなところなんてない。

 つまり、自前で相応の人間を集められる力があるはずだ。


 加えて、捕らえた獣人を飼うのであれば、それの食費などもかかってくる。仮に万が一剥製などにするとしても金はかかるのだ。

 一般家庭の経済力では成り立たない。

 金持ちから追っていくのが妥当だろう。

 あとは、獣人をどうやって移送しているかだが、檻に入れたりするだろう。街に不信なものを持ち込んでいた者がいないか聞き込みでもするしかない。

 とにかく街に着いてからできる手を打たなければならない。

「王都でそれをやるとなると大変だよな……」

 相当な規模の街だと聞いているので、金持ちも多数いるだろう。

 街への出入りも多いはずなので、いちいち何を持っていたかなど覚えてもいないだろうし。


「まずは王都の前に手前の街でいいんじゃないかしら」

 エルシアは地上に降りることはないにしもて、このあたりの地理に詳しかった。

 地上に何があるかは把握しているそうだ。


 それによると、王都の前にそこそこの規模の街があるらしい。

 王都はその街を越え、更に少し進んだところにあるそうだ。

 ということは、その街はエルケンリアードなどで言うと、隣接していた農村か。

 元の街、王都の規模が大きいので、隣接する農村のような部分だけでも街のような規模になるらしい。

 先ほどガルーたちが襲われていたところから一番近い街はそこであり、王都に行くにしても必ず通ることになるそうだ。

 襲われた時間帯から考えて、馬車などであればまだ街に着く前か着いたばかりくらいの距離感らしい。


 今まで以上に速度を出して空を飛ぶ。

 間に合えばケモミミ愛好会の連中が街に入る前に捕まえられる。

 かなりの速度で飛んだので、あっという間に街が見えてきた。

 アルシアードやエルケンリアードのように巨大な城壁は見当たらない。

 本当に、城壁に隣接する農村のビッグ版と言ったところだった。


 大通りには綺麗な石造りの建物が並んでいて、城壁内にもそれほど見劣りしない感じだ。

 外周部には木製の小屋なども多数見え、その辺りはさすがに城壁外といったところである。


「間に合わなかったか……」


 しかし、街の直前まで飛んで追いかけたが、それらしい影は無かった。

 アルシアードなどのように城壁がないため、街への出入りは自由だ。

 そのため城門の検査待ちの長い列も存在せず、到着次第中に入れてしまうのだ。

 もう街に入って休憩や補給をしていると考えて間違いないだろう。

 街に入って調べてまわるしかないようだ。


「俺たちも街に入ろう」

 エルシアの羽は大きく目立ちすぎるので、メディーにお願いして認識阻害の魔法を教えてもらった。

 エルシア自身も魔法は使えたようで、あっさりと習得していた。

 大きな翼なので、背中に収納などできるわけも無く、血の通った肉体なので消したりすることもできないようだ。

 ヴィーは姿ごとまるっと変えていたが、あれは色々と超越した存在だからこそできるのだそうだ。


 あくまで認識阻害で見えなくしているだけで、実際にはそこにある。

 なので人にぶつからないように注意しておいた。

 面倒だと言ってはいたが、素直に指示には従ってくれたので大丈夫だろう。


 街に入ると、そこは意外と賑わっていた。

 以前の街ほどではないけど、しっかり街をしていた。

 大通りには出店も並び、多くの人が行きかっている。

 東京のスクランブル交差点に比べたらぜんぜん少ないが、この世界の基準で言えば多いほうだろう。

 城壁の外で、これだけの規模になるというのはすごいことだ。

 逆に言えば、王都の城壁の中はどれだけ栄えているのかということでもある。


 初めての街で、普段なら観光などもしたいところだが、今はそれどころではない。

 もしまだガルーの娘が生きているのなら、早急に助け出さないといけないのだ。

 しかし……、


「おいおい、ぼっちゃん。そんなに美人さんはべらせてどこへ行くんだい?」

 いきなり絡まれた。


ぼちぼち更新……

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