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2章 -41- 火花ちる

「………………誰、か……いる……のか」


 かすれるような声が聞こえた。

「っ!?」

 誰かいる!

 慌てて周囲を確認するが、血の海しか目に入らない。

「そこね」

 エルシアさんが死体の重なっているところを指差した。

 俺は吐き気を強引に抑えながら、声の元へと向かう。

「生きてるのか!?」


 重なっていた死体の下に、一人の男の獣人がいた。

 その獣人も酷い怪我をしており、腹から多量の血を流してはいたものの、かろうじて息はあった。

「さすがに獣人は丈夫ねぇ」

 メディーはのんきにそんな事を言っている。

 しかし彼女のいつもの感じに、少し俺の気もまぎれた。


「今、助けるからな!」

「………な、…に?」

 男の返答も待たず、回復魔法を全力で振りかけた。

 相変わらず原理は分からないが、傷がふさがっていく。

 そもそも欠損していると元には戻らないらしいが、切り傷や打撲などには効果的なものらしい。

 生き残っていた彼は、腹部の深い切り傷だけだったのが幸いだった。

 失った血液まで戻るのかどうかは謎だが、傷を塞がないよりはましだろう。

 少しでもできることをしたかった。


「かふっ!」

 男が血を噴出した。

 魔法が失敗したのかと焦ったが、のどに溜まっていた血を吐き出しただけだったようだ。

 呼吸ができるようになり、むせたようだ。


「こ、これは……?」

 まだ完全回復とは言えないが、しゃべれる位には元気になったようだ。

 しかし、それでも意識ははっきりしておらず、目の焦点もぼんやりしている。

「ユータはそれを直したいのかしら?」

 人を指差してソレはないでしょうメディーさん。

 しかし突っ込む余裕はない。

「何か手はあるか?」

 聞いてくるってことは、メディーの中には何かしらの選択肢があるのだろう。

「ええ、あるわよ。普通の回復魔法では血は戻らないの。その出血量ならもうひと手間必要でしょうね」

そう言って、メディーも俺の元まで来て、男に手をかざした。

「やりすぎると血が薄まってしまうのだけど、今は必要でしょう」

 メディーから魔力がほとばしり、男の身体が淡く光る。

「うっ!?」

 男の身体が脈打った。


「何したんだ?」

 脳内では精霊たちが感心したように声を上げていた。特殊な魔法のようだ。

「血を増やしたのよ」

「血を増やす?」

 これはメディーのオリジナル魔法らしい。

 対象の体内に血液に近いものを作り出し、血と同じ役割を果たさせるのだそうだ。

 生成魔法の応用とは言っていたが、血液のような複雑なものを作り出すにはどれだけの経験が必要なのだろう。

 想像もつかない。

 ただし、生み出される血は本物ではないため、出血とこの魔法を繰り返しし過ぎると、本来の血が薄まり、魔法が使えなくなったり、身体能力が低下するなど、異常をきたすらしい。

 それでも拒否反応の起こらない輸血だと思えばかなり優秀だ。

 特に、目の前の男にはかなり必要なものだったらしい。効果はてきめんだった。


「……な、なんだ?……俺は、死んでいない!?」

 数度脈動を繰り返し、何度も大きく息を吸うと酸素も脳へ回ったのか、意識がはっきりしたようだ。

 混乱はしていたが、現状を把握しようとできている。

「傷もなくなっている!?」

 起き上がると自分の腹部を確認し始めた。

 俺の回復魔法がきちんと効果を発揮したようで、傷跡一つ残っていない。

 最初は中身がチラリズムだったので思い出したくもない。


「あなたが助けてくれたのか?」

 うっすらと意識があったようで、俺が言った助けるという言葉をきちんと聴いていたらしい。

 混乱から回復すると、俺へ問いかけてきた。

「まあ、一応ね。俺とそこの人で」

 メディーの方も指差しておく。

「感謝する。……しかし」

 俺たちにひとしきり頭を下げた後、周りを見渡して表情を曇らせた。


 彼を回復させた後、彼が落ち着くまでの間に周囲の獣人たちも確認はして見たのだ。

 しかし、息をしていたのは彼だけだった。

「そうか……」

 状況を説明すると、獣人の男は悲しそうにうつむいた。

 仲間が全員死んでしまったのだ。

 今はそっとしてあげるべきか……

「それで? どうしてこうなったのかしら」

 ちょーい!?

 先ほどまで我関せずだったエルシアさんが、容赦なく話を進めだした。

 ちょっとは待ってあげましょうよ。

「なっ、貴様は!?」

 獣人の男は、エルシアさんを視界に捕らえると驚きの声を上げた。

「エルシア、貴様が何故地上にいる!?」

 彼は、まだふらつく身体で身構えた。

 あまり良い間柄ではなさそうだ。

 と言うより、完全に警戒されている。しかも必死の表情で。

 エルシアさんは一体何をしたんだ……


「あら、地上は空の下にあるのだから、当然私の支配領域でしょう。それに、私を呼び捨てにするなんて。いつ偉くなったのかしら?」

 エルシアさんは敵対心まんまんの獣人相手にかなり上から目線の発言だ。

 というか発想がジャイ○ンだよね。

 そんなだから敵対視されるんじゃない?

「くっ……」

 エルシアさんの言葉に、獣人の男は言葉を飲み込んだ。

 悔しくてもエルシアさんの方が上らしい。


「はあ。……私を呼び捨てにして良いのは坊やだけよ」

 警戒されすぎて話しが進まないからか、ため息をついたエルシアさん。

 そのエルシアさんは、そう言って俺を指した。


 え? 俺、エルシアさん呼び捨てにしていいの?

「当然でしょう。私より強いのだから」  

 メディーといい、年上のお姉さんを呼び捨てにするのはちょっと違和感あるんだよね。

 でも、本人がそう言うならそうさせてもらおうかな。


「あら、じゃあわたしも呼び捨てにさせてもらうわね」

 ……メディーは許可無くてもそうするよね。

 なんであえて言ったの?

 ねえなんで?


「……歳をとりすぎてボケたのかしら? それとも耳が遠くなったの? 話は聞こえていたのかしら?」

 腰に手を当て、ため息混じりに言うエルシアである。

 しかしそのこめかみには青筋が浮いている。

 笑顔が怖い。


 予想通り火花が散り始めた。

 二人の美女が笑顔で立っているだけなのだが、すごいプレッシャーだ。

 着火材が優秀すぎる気がするんだけど、キャンプとかで使えないのが残念だよね。

 それにしても熱い気がする。

 二人の怒りに呼応して、背後が揺らめいて見えるイメージまで……

 って、イメージじゃなくて実際揺らいでるな!?


「ちょ、マジでやめてよ!?」


なかなかガルーがしゃべれない……

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