2章 -38- 空に浮かぶ島
「メディーってさ、崩天の魔女って呼ばれてたんじゃなかったっけ?」
俺は夕食を頂きながら、ふと思いついたことを口にした。
ちなみに、有翼人の夕食はエルフとそんなに変わらない料理だった。
服装もそれなりに良いものを着ていたので、野蛮な感じの料理などは想定していなかったけど、逆に人間の街で食べたものより良いものでもなかった。
森で取れる山菜や獣の肉を材料に、シンプルな味付けの料理が並ぶ。
塩やスパイスなどの調味料はほとんど使われず、良くも悪くも素材の味が中心だ。
ただ、食材を上手に料理しているためか、十分美味しく仕上がっている。調味料が無いのが不思議なくらいの料理技術だった。
使われている食器もエルフよりは先進的で、ナイフとフォークで優雅な感じである。
「そうねぇ」
さして気にもしていない感じで答えるメディー。
ナイフとフォークを綺麗に使い優雅に食べているのだが、またトマトを残している。
後で食べさせよう。
「ほ、崩天の魔女っ!? じゃと!?」
エルザ婆さんが今日一番の驚きを見せた。
心臓は大丈夫だろうか?
途中で息が詰まったようで、「じゃと」が遅れていた。
「崩天の魔女、メディア……。それはこの天樹を空から地へ落としたと言う……」
エルシアさんも食事の手を止めてこちらを向いた。
一応エルザ婆さんの話は信じていないまでも聞いてはいたようた。
「あら、この木やっぱりそうなのね」
大して気にしていない様子で食事を進めるメディーさん。
おい、とんでもない事してる気がするんですけど?
そんなにさらっと食べながら話すことじゃないよね!?
「良く根付いたものねぇ」
実家に帰ったら昔拾ってきて庭に転がしてたどんぐりが木になってた程度のノリである。
もうちょっと驚こうよ。
もしくは感慨にふけるとか。
さらっとし過ぎじゃないでしょうか。
「ば、バカなっ! この天樹が我らとともに地上へ落ちたのは500年も前のことじゃぞ!?」
「あら、500年なんて意外とあっという間よ?」
エルザ婆さんがつばを飛ばす勢いで言っているが、メディーは相変わらずさらっとしたものだ。
「ただの人間であればおかしな話でしょうけど、彼女がその魔女だと言うのなら、おかしな話でもないんじゃないかしら」
エルシアさんは、メディーの適当な態度に、逆に信憑性を感じているようだ。
まあ、俺もこの人が本当に500年も生きているようには思えないのだが、実際本人がそう言っているのだからそうなのだろう。
どれだけ身体が若々しくても、そうなのだろう。
というか、身体を知っているからこそ本当に信じられないんだけどね!
「私達を羽虫と呼ぶ傲慢さ、それは決して過信ではなかったということかしらね」
今更ね、とエルシアさんはメディーの存在を認めたようだ。
「あら。貴女ももう少し上手くすれば、十分遊べると思うのだけど」
メディーは意外なことにエルシアさんを褒めていた。
褒めているようには聞こえないけど、彼女が可能性を見出している時点で結構すごいんじゃないだろうか。
「ふふふ。貴女に言われると嫌味にしか聞こえないのだけれど、褒め言葉と受け取っておこうかしら」
うふふ。ふふふ。と笑いあう二人。
刺々しいよ!
とりあえず、そんなこんなで夕食は進んだ。
「でもさ、それが本当なら天空の島があるってこと?」
色々話しが脱線していたが、気になったので再度話題にしてみた。
俺のファンタジー欲求は意外と強かったようだ。
「ええ、昔はもっと飛んでたのだけれど。最近は見ないわね」
メディーさんの最近って、いつからだろう。
たまにこのお姉さんがボケ老人みたいに思え……いえ、何でもありません。
冷たい視線を感じたので、それ以上は考えを止めた。
「本当なのね……」
エルシアさんが、少し驚いたようにつぶやいた。
「だから言っておったでありましょう!」
エルザ婆さんは少し怒り気味だ。
まあ、エルシアさんが幼少のころから語り聞かせて一度も信じてもらえなかったそうだから、その気持ちも分からないでもない。
ちなみにエルシアさんは今年で21歳だそうだ。
有翼人は200年くらい平気で生きるので、若く見えるだけかと思っていたが、本当に若かった。
逆に言うと、それだけの若さで一族のリーダーの座を奪ったのだから才能と言うか素質というか、そういうものはすごいのだろう。
メディーが言っていた、もう少し上手くすればというのは、魔力の扱いだったり、戦闘技術のことだったようだ。
要は経験で伸ばすところ。
まだ若いので、魔力量など能力の成長も伸びしろがあるようだ。
「空に浮かぶ島……見てみたいわね」
南雲も興味があるようで、食事の手を止めそんな事を言った。
というか、逆に言うと今まで我関せずで話に加わらず食べ続けていた。
結構な量を食べている様子だ。南雲の両サイドには空になったお皿が並んでいた。
遠慮が無いな!
「やっぱ見てみたいよな! てか上陸してみたい!」
ここではそれ以上の情報が出なかったけど、いつか情報を集めてその浮かぶ島を見つけよう。
俺のファンタジー欲求がうずいてしまって仕方ない。
そうして浮遊島探しは、俺たちの旅の目的の一つとなったのだった。
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