2章 -37- 有翼人の街へ
「それで、わしらはどうすれば……」
話しがまとまったかと思ったら、有翼人のお婆さんが困ったように言いだした。
同様に、有翼人のほかの方々も同じようにしている。
そういえば、負けたほうの陣営は全員が奴隷に下るという条件だったか。
「私が、彼らの分の言うことも聞くわ」
だから他の人は見逃して欲しい。
エルシアさんがそう言ってきた。
「クイーン……」
みんなが感動したようにエルシアさんを見ている。
でもね、エルシアさん、さっき言う事は聞く気無いって言ってたよね?
まあ、良いのだけれど。
「別に良いよ。奴隷なんていらないし、こんな大勢つれていけないし」
周囲を飛んでいる有翼人は50人以上はいるだろう。
さらに、先ほどの爆発を見てか、更に数十人、巨木から飛び出してきていた。
そういえば、あの巨木は彼らの住処なのだろうか。
だとすればもっと他にも住んでいるのかもしれない。
「あー、その代わりと言ってはなんだけど、せっかくだから休憩させてってよ」
さっきから高速戦闘、強力魔法を使って、しかもずっと飛びっぱなしだ。
魔力的にはぜんぜん余裕のようだけど、少し息抜きがしたい。
地上は魔物がいっぱいとのことだったので、このまま先を目指すならしばらくまた飛びっぱなしだ。
休憩ができるなら休憩させてもらいたいのは本音だった。
「そんなことであれば、できる限りのもてなしを致しましょう」
お婆さんはそう言って了承してくれたし、エルシアさんも頷いている。
休憩は大丈夫そうだった。
有翼人たちの住処へお邪魔することとなった。
住処と言うか、意外としっかり町だった。
巨木の上に、枝ごとに分かれるように集まって家が建っていた。
エルフたちのものとは少し違うデザインだが、木造の小屋のような家だ。
建築技術は当初のエルフの村よりは良くて、こぎれいな町だった。
先ほど出てきていた人たち以外にも沢山の有翼人が住んでいた。
俺たちを囲んでいたのは兵士たちだったらしく、女性や老人、子供など、戦えないものや残りの兵士など全部含めると数百人規模の集団なのだとか。
その頂点に立っていたのがクイーンと呼ばれていたエルシアさん。
お婆さんは先代のリーダーだったらしく、エルシアさんの実の祖母なのだとか。
今年で280歳になるお婆さんは、エルザという名前で、彼らのことをいろいろ教えてくれた。
彼らは500年ほど前からこの巨木を本拠地に生活しているそうだ。
その巨木の大きなウロがエルシアさんの家だった。
ウロを丸ごと屋敷にしてしまっていて、結構な広さである。
これは、先々代のリーダーからの屋敷らしい。
ひとまずはそこでご飯となった。
戦ったりしているうちに日は傾いてしまったので、夕食となったのである。
巨木は、正式には天樹アーガイアと言うらしい。
その昔、空から落ちてきてなおこの地に直立し、そのまま根付いたのだとか。
すごいな!?
「婆はまだそんなホラ話を……」
ホラなのか。
エルシアさんは優雅に食事をしながらそう言った。
「ホラではありませぬ。先代たちから伝え聞いた大事な歴史でございますぞ」
エルザ婆さんはエルシアさんの実の祖母ではあるが、立場上敬語で話すのだそうだ。
「その昔、我らの先祖は遥か天空に住んでおったそうですじゃ。今なお、その天空には我らと種を同じくする者たちが暮らしておるんですじゃ」
エルザ婆さんは力説している。
280歳という年齢は、有翼人の中でもかなり長寿の方らしい。
多くは200年程度でその寿命を終えるのだとか。
なので、エルザ婆さんは一族の歴史などを語る大事な存在らしい。
しかし、現族長のエルシアさんは、そう言った話に一切興味を示していなかった。
「だって、何度も空を飛んで確認したでしょう。私の翼でも見つけられないなんて存在していないと言うことよ」
興味も無さげに切って捨てる。
一応は探したらしい。
確かに、彼女の飛行能力ならかなりの高空へもいけるだろうし、かなりの広範囲を見に行くこともできるのだろう。
それで見つからないとなると、やっぱりないのか……。
「そ、それは、天空の国が入り口を閉ざしてしまっておるからで……」
見つからない理由はエルザ婆さんも曖昧らしい。
説明によどみが出ている。
それを見て、エルシアさんは完全に興味を失っていた。
エルザ婆さんもやれやれとしているので、いつものことなのだろう。
しかし、天空の国とか、ちょっとファンタジーっぽいよね。
巨木のこともあるし、なに? ラピ○タ?
竜の巣とか探さないといけないのかな?
すごい気になる。
この世界に来てからというもの、ファンタジー的な展開がぜんぜん足りない!
いや、魔法とか魔物とかエルフとかドラゴンとか、そういうのは見てきたし、今回は翼の生えた人間も見れた。
でも、森は普通だし、街は中世ヨーロッパだと言われたら信じられそうな雰囲気だ。街には頭のおかしい宗教団体か、アイドルファンクラブしか住んでいないし、なにより、ダンジョンとか空飛ぶ島とか、そう言った類の話は一切聞いていないし見ていない。
ジョブだって役所で決めたのだ。
冒険者はボンクラ扱いだし、ギルドなんて存在しない。
俺の異世界ファンタジーに対する憧れは全く満たされていないのだ。
せっかくなのでファンタジーしたい。
何ならこの巨木が初めてファンタジーらしい景色と言える。
これはこれでテンションが上がったので、もっと冒険をしてみたい!
天空に浮かぶ島があるのなら行って見たいところなのだ。
俺に夢を見させてくれよ……
……ん?
天空の島?
落ちてきた巨木?
「メディーってさ、崩天の魔女って呼ばれてたんじゃなかったっけ?」
先日初めてコメント頂きました!
ありがとうございます!
非常に嬉しく思っております!
スローペースにはなりますが、今後も頑張って更新していきますので、何卒宜しくお願い致します。