2章 -36- キレイなお姉さんは大好きです!
「……ふふふ。これは滑稽ね」
お姉さんが笑いながら話し始めた。
俺、変なこと言っただろうか? まあ、言ってたけど。
「敗れるどころか、相手に救われるなんて。なんて滑稽なのかしら」
笑っているとは言え、クールな感じは崩れない。
クール系美女の笑い方って上品だな。
でも気の強そうな感じは抜けていないので、ちょっと怖い。
さっきまで怒ったり無表情だったりしていたので、逆にちょっと怖い。
キレ過ぎて笑ってるパターンとかだったら嫌だなぁ。
隷呪も外しちゃったし、また暴れられたら戦わなければならない。
さっさと退散しよう。
「じゃ、そういうことで……」
お姉さんが一人で笑っているうちに踵を返そうとした。
「待ちなさい。坊や」
が、逃げられなかった。
「な、なんでしょうか?」
あんまり良いお話じゃない気がする。
「隷呪が消えたとはいえ、私は貴方の奴隷であることに変わりないわ」
そういえばゲームの勝敗いかんでは、負けたほうが奴隷とか言ってたかもしれない。
「いや、奴隷は結構です」
だから奴隷は趣味じゃないんだってば。
無理やりとか良くないよね。
皆さん俺の話聞いてます?
「本人の同意があれば良いんでしょ?」
「え?」
「私は、私の意志で貴方の下に入るわ。下僕にでもなんにでもしなさい」
もちろん気に食わないことには全力で抵抗させてもらうけど。と付け加えられた。
それって、下に入るって言うんだろうか?
下から蹴り上げられそうだけど?
というか、実際蹴り上げる気なんだろう。
怖い。
「いやー、それは……」
結構です。と言う前に遮るように言われてしまった。
「その女の言うように、仕掛けたのはこちらだし、殺す気で挑んで、ただ見逃されるなんて屈辱以外の何ものでもないわ」
誰も殺されなかったからいいじゃないっすか……と言いたいが、目がマジなので言えなかった。
「このままじゃ私、屈辱に埋もれて死んでしまいそうよ」
いや、そんなことで死なないよ。
どんな死に方だよ。
「てか、俺の下に入ったら、それこそ屈辱の連続なんじゃないの?」
「ええ、貴方が私をどう扱うかはわからないけど、屈辱でしょうね」
だったら来なくてもいいじゃん。怖い。
うちにはすでにメディーさんという危険人物がいる。
ヴィーも大人しいけどいつ何をするか分からない怖さがある。
これ以上ヤバめな人は身近に置かないほうが吉だと思うのだ。
「でも、このまま放置されて無様に屈辱の中で生き続けるよりはるかに良いわ」
なんでそうなるんだろう。
理解できない。
『いいんじゃない? この鳥飼いましょうよ』
ミズキが言った。
「いいんじゃないかしら? この羽虫飼いましょうよ」
メディーが言った。
同時に言うなよ。
飼うってなんだよ。飼わないよ。
『だってあれ、見た目結構好みじゃない』
ミズキが言ってきた。
メディーは何も言わなかったが、その怖い笑顔がミズキと同じ意見を伝えてきた。
確かにそうだけど。
キレイなお姉さん好きだけど。
大きなお胸も大好きだけど。
いつ寝首をかかれるかわかったものじゃないしなぁ。
悩んでいると、意外なところから意見が出た。
『悠太。一緒に旅を続けていれば打ち解けることもできるでしょう。悪い子ではなさそうです。一緒にいてダメなら帰せばいいのです。最初から拒絶するのはかわいそうですよ』
カグラだ。
風の精霊であるカグラには、有翼人に対し感じるところがある様だ。
悪いようには思っていないらしい。
まあ、確かに。
付き合ううちに相手を知って、知れば今とは印象も変わるだろう。
最初の印象だけで苦手意識を持つこともないか。
そもそも、メディーも似たようなものだったし。
逆に考えれば、すでに危険人物が身内にいるなら、二人も三人も変わらない。
もうどうとでもなれだ。
「はあ、わかったよ。連れてくよ」
「そう。なら、ついていかせてもらうわ」
うん、お姉さんすごい上からだね。
これではどっちが負けたのかわからない。
こうして新しい仲間(?)ができたのだった。
長らく更新できていませんでした。お待たせして申し訳有りません。
もう誰も見てないと思っていたら、意外と見て頂いていて感激しています。