0章 良くある終わりと始まり
思いつきの転世ものです。異世界は今まで考えてこと無かったです。
なるべく頑張って連載していくので読んで頂けると幸いです。
「短い人生お疲れ様でした。充実した生を全うできたでしょうか」
見たことあるやつだこれ。
目の前ではなんか神々しい感じの美女が話をしている。
周囲は真っ白で、狭いのか広いのかも分からないただの空間が広がっていた。光源がどこにあるのかもわからないのに、空間全体が明るくなっていて、それでいて眩しいこともない。いわゆる神秘的な空間だ。
「不幸にもお亡くなりになりましたが、これから新たな人生が始まります」
目の前の美人さんは、優しく微笑みながら話をしている。
作り物めいた美貌に、均整のとれた身体。その現実離れした美しさは、まさに女神か何かのようだった。
わずかに光っているようにも見える。
謎の神秘的な空間に、女神様みたいな存在、そして先ほどの記憶――
「――転生ってやつか」
「そうそれです! …………あなた誰ですか?」
俺のつぶやきに即反応した女神(?)が、そこで初めて俺の存在に気付いたようだ。驚いている。
聞かれたからには名乗りを上げなくてはなるまい。
「神をも打ち倒し、 魔王すらも従える! 破壊者にして救世主! 我こそが悠太・古川だ!」
現実離れした状況すぎて、思わず普段のノリが出てしまった。まあ、良いだろう。
「……あんた、マジで頭大丈夫?」
女神(?)の口調が明らかに変わった。これが素なのだろうか。
心を開いてくれたようで何よりだ。やはり心のこもった自己紹介をすれば打ち解けるものだよね!
「今日の死亡者リストはそこのギャルで最後のはずですが……」
女神(?)が指さした先には、俺の学校で有名なギャルがいた。南雲美紀。
おしとやかとは無縁のキツイ顔だが美人で間違いない。グラビアアイドルも泣いて逃げ出すナイスバディと最新の流行で全身固めたオシャレイズムで校内の男子のダントツ人気を誇る女だ。女子の人気は言わずもがなだが、その気の強い性格もあって学内ヒエラルキーの頂点に立つ女である。彼女の今一番の流行は古川いじめ。残念ながら校内に古川という苗字は一人だけだ。つまり俺。
その南雲は状況に追いつけず、茫然としている様子だった。
「あ、あたし……、死んだの?」
茫然としながらも絞り出した質問がそれだった。
「ええ、死にましたよ。トラックに惹かれてズバーッと死にました」
説明雑だなっ!?
もうちょっと表現力仕事しろ!
言われた南雲は現実を受け止められないのか、呻いてしまう。
「そ、そんな……、なんで……」
「左右確認せずに道を渡ろうとするからですねぇ。今後は交通安全気に付けましょう」
死んだ後で今後もくそも……。あ、転生するのか。
「まあ、生前の行いが悪かったあなたは、元いた世界には転生できませんけど。罪人は罪を償うために、もっと過酷な世界で世のため人のために働いてもらいます」
女神っぽい美女の説明では、生前の行いが悪かった人間はその宿命を背負って別世界へ飛ばされるらしい。
日本人がよく知る地獄ってやつは、そっちの世界のことだろうか。
その世界では人類は発展しておらず、凶暴な生命体たちがのさばっているらしい。
異世界ってやつだな。実在したのか。どんな世界だろうか。マンガ好きの俺としては非常に興味あるね。
「あ、あたし悪いことなんて!?」
それを聞いて焦った南雲が弁明を始めようとしていた。
必死である。
「ダウト! 被害者がここにいます!」
どの口が言うのか! 男子をけしかけて散々な事してくれたじゃないか。
まあ、気にしてなかったけど。
でも、悪いことしたなら罪は認めて償わないとね。
とりあえず良い訳は阻止しておく。嘘はいけない。
「う、うっさい!」
そもそも、本物かどうかわからないが女神(?)を相手にして、嘘など通じると思ったのだろうか。
「うるさいので、ここでの口論はやめてくださーい。全部知ってるので嘘はダメですよー」
ほれ見ろ…………って、女神がどこかから取り出した資料をパラパラめくってるぞ?
「あ、これは陰湿ですねー」
知っているというか、今読んでるよね。それ。
え、嘘通じそうじゃん。
「うぅ……」
南雲は観念したのか反論はなかった。
「地獄でレッツ更生! って感じですね」
「ですよねー」
同意しておく。
「ねー」
合わせる女神(?)。意外とノリがいいな。
と思ったら、ジト目でこちらを見てきた。
「…………で、結局あなたは何でここにいるんですか?」
不審者を見るかのような目だ。解せない。
「え、俺も死んだからここにいるんじゃないんですか?」
俺が持っている最後の記憶が確かなら死んだ気がする。
「え~? さっきも言いましたけど今日の死亡者リストはそこのギャルだけで……んん?」
美女はさっき見ていた謎の資料を最後までめくって目を細めた。
「どうしたんですか?」
資料を熱心に見ているので気になって聞いてみた。
資料の最後、つまり南雲の最期を確認しているのだろう。
ということは、俺の生前最後の善行を見ているに違いない。
記憶が確かなら、俺からカツアゲしたばかりの南雲がトラックに退かれそうになり、俺はとっさに飛び出して南雲を庇うように覆いかぶさったのだ。
結果的には両方死んでしまったようだが。
「ぷっ」
美女が急に噴き出した。
「?」
「無駄死にウケるんですけどぉ! プププ……。助けに飛び出したのに一緒に潰れてるんですけど! ギャル助かってないし! 突き飛ばすとかあるでしょぉぉ。オタクが出しゃばるからプププ。 しかも死ぬ予定なかったのに何で死んでるんですかープププ。こんなの初めてー!」
大声を上げて笑い続ける女神(?)。
事実ではある。とっさのことで判断できなかったし。
どちらにしろ突き飛ばしたり、歩道側へ引き戻したりするほどの余裕はなかったのだ。仕方ないのだ。きっとそうだ。
「え……」
南雲は想定外の事態に間抜けな声を漏らした。
目が合ったがスルーしておく。
「うっせー! 無駄死にとか言うなよ! とっさに思い付かなかったんだよ!」
こいつ、俺の善行を一笑しやがった。これはもうあれだ、絶対女神とかそういう奴とは認めない!
「ええと、古川悠太……ふるかわ……ふ……ふ……あったあった」
五十音整理かよ。
また美女がどこからか資料を取り出した。
今やっぱり何もない空間から取り出したよな?
「ふむふむ……」
「何読んでんだよ」
もうこいつに敬語は不要だ。敬語など使ってやるものか。
「これ? これは死んだ人間の人生をまとめた資料よ。死後の対応を決めるために必要なの」
資料を読むのに集中していたからか、こちらがため口になったことに気づいていない。
というか向こうも敬語を忘れている。
「ぷふっ」
読みながらところどころ笑ってやがる。
「あなた、変だとは思ったけど、これは重症ね。中学生にもなって精霊王って…」
憐れんだ目でこちらを見てきた。その表情は珍獣を見るかのようだ。
「やかましい。一人でこっそり楽しんでるだけなんだからそっとしておけよ」
最近は人前ではあまり言わないようにしていたんだけど、この調子だと全部書いてありそうだ。
恥ずか死にしそうだ。もう死んでるけど。
「んん? ちょっと待って、運命の強制力を超えてって…………。えっ!?」
最後まで読み終えた美女がバッと顔を上げこっちを見た。
「ちょっと待ってあなた……、なにそれ!? 怖いんですけど!?」
いきなりヒキ始めた。すごい勢いで後ずさる。
俺の黒歴史がそんなにやばかったのか?
「よく見るとチョー怖い!? ヤダヤダヤダヤダ! さっさとここから出てってよ!」
なんかガチで引いている感じだ。ぶるぶる震えながら距離を取ろうとしている。
「出てけって言われてもどうすりゃいいんだよ」
思わず呆れてしまった。
「あ、そっか!」
急に素に戻って両手を叩く美女。
こいつ大丈夫か?
「ここから出ていけぇぇぇ!! 転世!!!」
美女が両手を掲げ叫ぶと真っ白な空間に金色の光が満ち始めた。
じわじわと空間が金色に染まっていく。
「え、おい、俺も転世されるのかよ!?」
さっきの話だと罪人は異世界に転世させられるが、それ以外の人間は元の世界で生まれかわるハズだ。
俺は地獄行きではなかったはずだ。
「あ」
まっちがえたー、テヘペロー。みたいな顔をしている。
おい。
「やり直せよ!」
「ムリムリこれ止められないもの!」
「じゃあせめてあれだよ! 転世する主人公がもらえる特殊能力とか特別な武器とか!」
「えー、そんなマンガみたいなベタなのあるわけないでしょ!?」
口走った俺が言うのもなんだが、この女、マンガ読んでんのかよ。
「あるかないかは聞いてない! よこせって言ってんだよ!」
「ええ!? 仮にも女神相手になんて態度!?」
「うるさい! 間違えて別世界に送ろうとしたのはお前だろ!?」
「だってだってー」
バタバタやってるうちにどんどん世界は金色になっていく。
そう言えばこいつ、さっきの引き方、何故か俺ににビビってる様子だったな。
「調子乗ってると本気出すぞ?」
試しに声を低くして言ってみた。
「はいぃぃ! 差し上げます! ご希望のものなんでも差し上げます!」
「できるんじゃん!」
何にビビってるのかわからないが、脅しは効いたようだ。あっさりと態度を裏返し、揉み手をしながらえへえへと笑ってる。調子のいいやつだ。
しかし、ここが正念場だ。得られるものによっては転世後の世界での生き方が大きく変わるハズ。
「これから行く世界には魔法とか魔術とかってあんの?」
タイムリミットがどれだけあるか不明だが、転世が完了する前にケリをつけなければ。
「あ、あったと思いますぅ!」
「ならそれを使うための魔力とかが溢れてくるような能力で!」
「かしこまりましたぁ!」
言うと同時にこちらに手をかざして何かをする女神(?)。
今ので何か特殊能力が身についたのだろうか。
「あたしは!?」
この土壇場で南雲も参加してきた。
確かにこいつも異世界へ転世する以上何かしらの力が必要だ。てかこいつが本来の転世者だ。
「あ……」
わっすれてたー。みたいな顔をしている。ふざけんなっ。
「とりあえず同じのを……」
女が南雲に手をかざすのと同じくらいのタイミングで、世界を覆う金色の光が光量を増した。
何も見えなくなり、何も聞こえなくなる。足元の感覚もなくなり、立っているのか落ちているのかも分からない。
転生が始まった。
続きます。
なるべく早めに更新したいです。
よくある話かもしれませんが、面白いなと思ったらご評価頂けると幸いです。
(※作者名を別の「銀輪」さんと混ざらないよう「銀輪。」に変更しました。)