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第九話 魔族統一Ⅶ

「何者です?!」


部屋はフラウロス殿の書斎であろうか多くの本棚が置かれており、応接用のソファーとテーブルが置かれていた。

そこには僕を見つめる先ほど声を掛けてきた女性と、その女性の膝に頭を乗せて穏やかな寝息を立てている赤毛の少女が居た。


声を掛けてきた女性は凛とした雰囲気や高貴な身なりからして、フラウロス殿の妻で間違いはないだろう。


「連合軍のリュウトと申します」

僕は女性の質問に答えた。


女性は僕の答えに全てを悟ったのであろう、悲しげな表情を浮かべ膝の上の少女の頭を愛おしそうに撫でながら尋ねてきた。


「主人は…フラウロスは立派に役目を果たしたのでしょうか?」

「はい、立派な最期でした」

僕は心の底から答えた。


女性は少し驚いた表情を浮かべ僕の顔を見た。


「そうですか…ありがとう…主人の最期を看取って頂けたのが貴方の様な人でよかった」

女性穏やかな微笑みを浮かべながらお礼を言った。


この女性には僕に対して苦しみや恨みを僕にぶつけてもいい筈だ。

だが女性は僕にお礼言ったのだ、恐らく多くの葛藤があった筈だ、自分の夫が倒され敵兵がこの部屋に訪れることも彼女の中で予想しうる展開だったのであろう。


暫く彼女は言葉を発することもなく少女の頭を撫でていたが、ゆっくりと少女を抱きかかえて僕の前へと歩いてきた。


「この子はフラウロスと私の一人娘です」

「名はマナリス。一人娘ですから主人も私も甘やかして育ててしまって…」

女性はそう呟くと、もう一度マナリスの顔を見て微笑んだ。


「この子の事を貴方にお願いしたいと思います」

そう言ってマナリスを僕に渡たしてきた。


その言葉を聞いて僕は全てを理解した、理解してしまったのだ。

「貴方も共にいきましょう!この子に親は必要な筈だ」

僕の言葉を聞いて女性は悲しそうに微笑みながら首を振った。


「私が生きていれば、争いの火種になりかねません。この子にも同じ事がいえるのでしょうが、それでも生きていて欲しいと願うのは私たちの我侭です」

「納得できません…、僕たちはそんな悲しみを無くす為に戦ってきたんです!」

僕にはこの女性を説得出来るほどの言葉は持っていない。

そんなことは百も承知で言わずにはいれなかった。


「考え直してください。 新しい時代でこの子と共に生きてください」

「…リュウトと仰いましたね、私の前に立っているのが貴方で本当によかった。 主人も貴方になら託せると思ったのでしょう。 魔族の未来も…そしてこの子の事も…」

そう言って僕の腕の中で眠るマナリスを愛おしそうに撫でた。


名残惜しそうに撫でるのをやめると、彼女はゆっくりと先ほどまで僕が戦っていた部屋へと歩き出した。

僕も彼女のあとを追い書斎を出た。


彼女はフラウロス殿の亡骸の側に寄り添うように座っていた。

亡骸の顔を愛おしそうに撫でると、小さく何かを呟いた。

彼女の周りが凄まじい炎に包まれる。


ゆっくりと彼女はこちらに視線を向けた。


「早く屋敷から出てください。主人の魂を連れて逝く事と、この戦いに幕を引くのが私の最後のつとめです」

そう言い残すと炎に包まれていった。


「勝手過ぎるだろう!」

僕は言葉にせずにはいられなかった。


炎は勢いを増し、屋敷の倒壊が起こり始めた。


「この子は絶対に無傷で連れて帰る」

眠り続けるマナリスを抱え直し、部屋の出口へと駆け出した。

扉を蹴破り部屋から脱出すると、僕を案内してくれたメイドのエリザが立っていた。


「早く脱出するんだ!屋敷は直ぐに倒壊する!!」

そう言って僕はエリザの腕を掴んで駆け出そうとしたが、その手を彼女は払いのけた。

「私は幼い頃よりこの屋敷に仕えて参りました。最後もご当主様と供に逝きたいと思います!」

エリザは僕の目を見つめ返し、はっきりと拒絶の意思を示した。


「マナリス様を宜しくお願い致します。」

エリザはそう言うと僕に向かって頭を下げた。


「…け…なよ。」


「えっ?」

彼女が僕の発した言葉に驚いて顔を上げた。


「ふざけるなよ‼‼‼‼どいつも、こいつも自分の命をなんだと思ってやがる!」

僕も我慢の限界を迎え叫んだ。


「いいか、エリザ!あんたの意見は全て却下だ。」

アマリスを片手に抱え直すと、空いたもう片方の手でエリザを抱え上げる。


「な、なにをするんです。」

「決まってる!脱出するんだよ!」

そう言うと僕は出口に向かって走り出した。

エリザが“下ろしてくれ”など叫んで暴れているが全て却下だ!


「俺たちは、みんなが幸せに暮らせる世の中を目指したんだ!決して誰かが簡単に自分の命を捨てる世の中にする為に戦って来たわけじゃない!」

僕は走りながら叫んでいた。


「もう、この戦いで救える命は1つも落とさない!落とさせやしない!!」


僕の叫びが、この倒壊の中どこまで聞こえたかは分からないが、エリザは大人しくなっていた。


僕らは倒壊する屋敷から脱出した。

そして屋敷の倒壊がそのまま終戦の合図となった!


この日僕ら連合軍の勝利を収め、魔族統一がなされた。


こちらで第一章が終了となります。

第二章も引き続き、お付き合い頂ければ嬉しく思います。

なるべく早めに上げれればいいな~。

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