第八話 魔族統一Ⅵ
なにが起きたのか瞬時に理解できないでいる僕にフラウロス殿は
言葉を続けた。
「斬れぬ物がないのだよ。」
「例えそれが空間の用な物であってもな…」
その言葉で僕は理解した。
フラウロス殿は斬ったのだ!
あの人と僕の間にある空間ごと僕の体を切り裂いたのだ。
「しかし、流石だな。体ごと斬り裂いたつもりだったが…」
充分過ぎるほど斬れていると思いますがね。
致命傷ではないが重傷だ。
かなりの出血量だ。
傷口は直ぐに魔法による治療を始めてはいるが
完治するまで、かなりの時間がかかる。
正直この傷を抱えて倒せるほどフラウロス殿は甘くはない。
「どうした?私は切り札を見せたぞ」
この言葉にぼくは疑問が生まれる。
今たたみかければフラウロス殿は難なく僕を倒す事が出来るのに
それを行わず、僕の出方を伺っている。
カラン
フラウロス殿の真意が分からず迷っている僕の目の前に
ヒルダがくれた小瓶が転がった。
先ほど斬られた時に、服の裂け目から落ちてきたのだろう。
転がった小瓶を拾い上げて蓋を外す。
「そうだよな…ヒルダ」
「迷ってる場合じゃないよな、…新しい時代を作るんだ!」
一気に小瓶の中の液体を飲み干した。
口の中に独特の鉄の味が広がる。
喉を伝い体に行き渡る。
そして、その液体は僕の中の眠っていた黒いものを呼び起こす!
「どうも、この味は好きになれないよ。……“血”の味ってのは!」
黒色だった僕の髪が金髪へと変わり、瞳の色も血の様な真紅へと変化した。
魔力量もさきほどとは比べるのも馬鹿らしい程に膨れ上がる。
「その姿…バンパイア…」
「半分正解と言っておくよ」
斬られた筈の傷が一瞬で消えた。
「超速再生!真祖の類か!?」
フラウロス殿が驚愕する。
それもその筈だ、真祖とは魔族に属するバンパイアとは比較にならない程の力を有する存在だ。
存在だけなら魔族というより神や精霊に近い存在にあたる。
「驚いているところ申し訳ないが、決着をつけさせてもらう」
この姿で悠長に構えている時間はない、この瞬間も”俺”の中の闇は少しずつ意識を侵食しているのだ。
“俺”はトップスピードでフラウロス殿との間合いを詰め懐に飛び込んだ。
先ほどの僕とは比べるのも馬鹿らしくなるほどの速さだ。
フラウロス殿でも目で追うことすら難しいほどだろう。
それを物語るかの様にフラウロス殿の表情が驚愕のものへと変わる。
「終わりだ」
言葉と同時に俺の拳はフラウロス殿の胸を貫いた。
「がはッ!」
心の臓を貫いた感触がある間違いなく致命傷だ。
俺はゆっくりと貫いた拳をフラウロス殿の胸から引き抜いた。
カラーン!
魔剣ベガルタが床に落ちる音が響きわたり、フラウロス殿が数歩後ろに下がった。
「見事だ……貴殿の勝ちだ…がはッ!」
そう呟くと大量の血を吐き後ろへとゆっくり倒れていった。
この戦いの勝敗が決まり、魔族統一が果たされた瞬間でもあった。
“俺”は自分の中の闇を押さえ込み、“僕”は元の姿へと戻っていった。
「…良…であっ…」
僕はフラウロス殿の最後の言葉を聞く為に近づき膝を付いた。
「…良き戦いであった…先に散ったモノ達も納得してくれるであろう……リュウトよ最後に私の願いを聞いてくれるか…?」
「はい」
僕はフラウロス殿の言葉に頷く。
「…この先の部屋に私の娘がいる…娘にはしがらみなど無く新しい時代を生きて欲しい…頼めるかね?」
「お約束致します…必ず」
僕の言葉を聞いて微笑みを浮かべながらゆっくりと息を引きとった。
僕はフラウロス殿との約束を果たす為に奥の部屋へと続く扉の前に立ち、ゆっくりと扉を開けた。
「何者です?!」
申し訳ございません。
予約を忘れており、投稿が遅れてしまいました!!!