第五話 魔族統一Ⅲ
ヒルダと別れ戦場を突っ切り屋敷の前まで辿り着いた。
僕は門を前に、どの様に屋敷に忍び込むかを考えていると、
ゆっくり扉が開き一人のメイドが姿を見せた。
「なッ…メ、メイド!?」
予想外の出来事に僕は混乱しつつも思考を臨戦態勢に切替えた。
メイド服に身を包み、黒髪を後ろでお団子にして美しい姿勢で
僕の前に立つメイド、かなり美人ではあるがその表情に
感情はなく年齢は僕と変わらないだろう魔族とはいえかなり若そうだ。
警戒している僕より先にメイドの方が動く
「ご当主様がお待ちです。こちらへどうぞ。」
一礼したあとに、そう言葉を続けた。
「あ、こ、これはどうも、ご丁寧にありがとう御座います。」
僕も混乱していたのか、釣られて丁寧な返事を返しぺこぺこと頭を下げてしまった。
もっと上手く返答できなかったのかと僕自身も思う。
この返事がメイドからしても意表をつかれたのか
驚きの感情の様なものが生まれた。
戦場を突っ切って屋敷まで辿り着いた敵兵が頭を下げてお礼を言っているのだ
彼女じゃなくても困惑するだろう。
しかし直ぐに感情を殺して屋敷の中へと入って行った。
僕も慌ててメイドの後を追う。
屋敷の中は不気味なくらい静まりかえっていた。
これだけ大きな屋敷に殆ど人の気配がない。
「あの~、この屋敷にあなた一人しか居ないなんて事は~?」
静寂に耐えられなくなったのか、単に疑問に感じたことを聞いただけなのか
僕自身も分からない。
ただ、このメイドさんに興味を持っただけなのかもしれない。
「ご当主様から非戦闘員にはお暇を頂いており、現在お屋敷の使用人は私のみとなっております。」
短い言葉ではあるが疑問に答えてくれるメイドに、更に疑問をぶつけてみた。
「えっと、僕はアナタから見れば敵軍の兵になるのですが?」
「存じております。ご当主様から丁重に案内せよと、
ご指示を頂いておりますので問題御座いません。」
更に言葉を続けるメイド。
「たとえ、この場でどの様な事をされたとしても、私はこの役目を果たすのみです。」
そう、気丈に振舞ったメイドの手が微かに震えていることに僕は気付いていた。
「敵兵の僕の様なものに言われても嬉しくないでしょうが、
尊敬します。その覚悟は素晴らしいものだと思います。」
暫く無言で歩くと立派な扉の前でメイドが立ち止まった。
「こちらの扉の先に、ご当主様がお待ちです。」
そう言ってメイドは道をあけ一礼する。
僕はメイドの正面に立ってお礼を言った。
「案内ありがとう御座いました。」
そう言ってメイドに頭を下げた。
「あの…!」
メイドの言葉に僕は顔を上げた。
そこには今までの無表情とは思えないほどの不安や、悲しみ色々な感情が
自分でも制御出来ていないメイドの姿があった。
「なにか?」
僕がメイドに尋ねると
「今からか、ご当主様と戦われるのですね…」
「おそらく、そうなるかと」
少しの間をおいてメイドは首を振りながら
「…いえ、申し訳御座いません…。お忘れ下さい。」
そう言って一歩下がり一礼をした。
本当は、当主を危険に晒すことなどしたくはないのだろう。
このまま、僕に帰ってほしいと願いたかったのだろう。
そんな思いをすべて飲み込んで道を譲ったメイドの覚悟に美しさすら感じた。
「お名前を聞いてもよろしいですか?」
自然と僕はメイドに尋ねていた。
少し迷うそぶりをみせたメイドだったがポツリと
「エリザと申します。」
「僕はリュウト。エリザさん案内ありがとう御座いました。」
エリザさんに改めてお礼をいうと、僕は扉を開けて中に入って行った。
謁見の間なのだろうか、大きなホールの先一段上がったところに立派な椅子があり、
そこにフラウロスの当主が不適な笑みを浮かべながら座っていた。
「よく、参られた。」
まったくの処女作になります。
誤字脱字、おかしい言い回し等あると思いますが温かく見守って頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。