第四話 魔族統一Ⅱ
本陣の出来事から時間は少しだけ遡る。
「あぁ~もう、鬱陶しい!」
槍一つで敵兵や魔獣をなぎ払いながらヒルダが叫ぶ。
美人というのは戦っている姿も美しいものだ。
これなら、男性からの誘いなど引く手数多だろうに、変な男に騙されないように兄の一人として気をつけなければいけないな。
しかし、そんな彼女を彩るものが戦場では飛び交う血しぶきや屍の山々…、このじゃじゃ馬の手綱を握れる様な男がいるのだろうか?
なんてことをぼんやりと考えていた僕だが、
「かなり倒したけど、こっちの損害もかなりのものよ!」
襲い掛かってくる敵をなぎ払いながらヒルダが声を掛けてきた。
「たしかに、このままだと無駄に犠牲が増えていきそうだね」
僕が戦場の現状分析と打開策を考え込む。
僕めがけて群がってくる魔獣を一閃しながらヒルダが叫んだ。
「戦場のど真ん中で考え事しないでよ!」
たしかに、ヒルダの言うことはごもっともだ。
お詫びの気持ちも込めて少しサービスしておこう。
「この世で一番信用している女性に背中を預けているんだ、問題ないよ」
ルシフェルが女性と話す時の表情の真似して、僕に出来る最高の微笑みと
ともに言葉を送る。
「ばばば、バッカじゃないの!!」
顔を真っ赤にしたヒルダの罵声が戦場内に響きわたる。
我が妹分ながら、なかなか良い反応を返してくれたことに満足した。
なぜか、ルシフェルや群がる男達で耐性はあるはずなのに
僕が言うと面白いほどの反応を示す。
ルシフェルが女性に接した様な反応は返ってこなかったが僕的には満足である。
悪ふざけもそこそこに、この戦いの終結の一手となる考えを僕はヒルダに伝える。
「ヒルダ、僕はこれから戦場を突っ切ってフラウロス家の屋敷へ行ってくるよ」
僕はちょっとそこまで散歩してくる様な口調でヒルダに伝える。
「………え?」
一瞬僕の言葉が理解できないといった表情を見せるヒルダだったが、直ぐに理解したのか
「バッカじゃないの!!だいたいリュウト兄はいつもいつも…」
僕に文句を言うつもりだったのだろうが、僕の目を見てヒルダが言葉を止める。
少しの間をおいて
「はぁ~~わかったわよ。兄さまには私から伝えておくから」
諦めたように呟くヒルダ。
僕がフラウロスの屋敷方へと歩き出だそうとした時、
「ちょっと待って!」
ヒルダが僕を呼び止めた。
「これ持って行って。お守り代わりに……」
液体が入った小瓶を渡してきた。
僕は直ぐにそれが何かを理解して断ろうとしたが
「それを持っていく事が絶対条件だからね!!」
「断るなら、この場で無理やりにでも飲ませるから!」
流石にこれ以上心配を掛けるのは気が引けるので、僕は小瓶を素直に受け取った。
「ありがとう。行ってくるよ」
「まったく、いつもは人畜無害みたいな顔して、突然とんでもないこと言うだから」
背後で敵兵を一層激しくなぎ倒しならヒルダがブツブツと呟いていたが、
聞かなかったことにしよう。
僕は体に魔力を纏い、屋敷に向かって駆けだした。
~ヒルダ視点~
「…相変わらず桁違いね。」
既に見えなくなったリュウト兄の背中を見送りながら、私は改めてリュウト兄の凄さを知った。
私でも力を出したリュウト兄の速さを取られるのは至難の技だ。
力を持たない者ではリュウト兄が通り過ぎたことさえ気付かないだろう。
「やっぱり、かっこいいな…。」
周りの女性は兄さまの方が素敵だと言うけど、リュウト兄の魅力に気が付かないとは
見る目がないと心底思う。まぁ、ライバルは少ないに越したことはないけど。
“アレ”も渡す事が出来たし、リュウト兄ならなんとかしてくれるだろう。
私はぼんやりと、そんな事を考えながら兄さまに伝令を伝えるように指示する。
「今から言うことを、兄様に一言一句そのまま伝えなさい!」
まったくの処女作になります。
誤字脱字、おかしい言い回し等あると思いますが温かく見守って頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。