第十ニ話 マナリスⅡ
今回は前半はヒルダ視点になります。
前回リュウトを殴り飛ばした気持ちを書きたくて視点を変えてみました。
混乱したら申し訳御座いません。
~ヒルダ視点~
最近リュウト兄と話しをしていない。
寂しい…じゃなくて!会議やパーティーなどにも、まったく顔を出さなかった。
以前はあまり好きではないが、お兄様の顔を立てたり、私が引っ張り出して男除け役をやってくれていたのに…。
原因はわかっている、リュウト兄が世話をしているフラウロス様の一人娘マナリス様から離れられないのだろう。
境遇には同情する…それを奪ったのが他でもない私達だ。
それでもリュウト兄が一人で抱え込む問題ではないと思う。
なので今日は私の相手をして…もとい気分転換に連れて行ってあげようと思ってリュウト兄の部屋に向かっている。
ガシャン!
廊下の向こうで何かが割れる音がした。
なんだろうと音のした方に向かって駆け出した。
廊下の曲がり角を曲がった瞬間、とんでもない魔力と殺気の波が押し寄せてきた。
私はこれでも連合の隊長を任された程の腕だ。
並みの殺気や魔力ぐらいでは怯むこともない。
しかし、今受けている魔力と殺気は尋常な力じゃない。気を抜けば立っているのも
難しい程だ。
現に二人の魔族が膝を付いて苦しそうにしている。
力の無い者なら呼吸をするのも難しいほどだ。
そしてその二人を見下ろす様に立っていたのがリュウト兄だった。
最初に見たときは信じられなかった。
リュウト兄は強い。
でも、それをひけらかす事はしない、罵声を浴びさせられようが大概の事は
上手く受け流す。
どちらかと言えば絡んできた馬鹿を私がボコボコにしてリュウト兄に止められる事の方が多いくらいだ。
そんなリュウト兄が弱者を嬲っている…。
私は悲しくもあり同時に怒りや嫉妬など色んな感情が湧き上がっていた。
リュウト兄が本気でマナリス様の事を心配してここまで追い詰められていたこと、
それに気が付かないで新しい時代に浮かれていた自分や、好きな男が他の女に
ここまで心を砕いている事、誰よりも強いと思っていた男が弱者に八つ当たりしている
現実に…気が付いた時には
「リュウト兄!!」
と名前を読んで近くまで歩いて行き、渾身の力を込めてリュウト兄の顔面に拳を
叩き込んでいた。
「何するんだ!」
ぶっ飛んでいったリュウト兄が私に向かって叫んだ。
「リュウト兄こそ何してるのよ。弱いもの虐めして気分晴らし?!」
私に突っ込まれてリュウト兄は自分がしていた事に気が付いたようだった。
私から気まずそうに視線を逸らした。
私は倒れそうになっていた二人の魔族に視線を向けて小さく呟いた。
「この人は貴方達が何人集まろうと如何にかなる人じゃないし、今日の事で
何かしてきたら次は私が…」
少し間を作り殺気を込めながら
「潰す!!」
私の言葉を聞いて二人は「し・失礼します」「すっすす・すいません」など叫びながら
走り去った。
これくらい脅しておけば後で仕返ししに来ようとは考えないだろう。
そして私はリュウト兄に再度視線を戻した。
~リュウト視点~
ヒルダに殴られ自分がしていたことに気が付いた。
弱者に八つ当たりして気分を晴らそうとしていたなんて妹分の前で随分と
かっこ悪い事をしてしまった。
彼女に何か呟かれて逃げるように去って行った二人を見て僕はゆっくりと視線を
ヒルダに戻した。
彼女はゆっくりと僕に近づいて手を差し出した。
「大丈夫、立てるリュウト兄?」
僕はその手を取って立ち上がった。
「ごめん」
この一言には色々な意味を込めた謝罪だった。
ヒルダも直ぐにそれに気付いた様だった。
「お互い様よ!私達も色々とリュウト兄に色々背負わせてしまったんだから。」
そう言ってヒルダは頭を下げてきた。
「それに私も新時代がきて正直浮かれてた……ごめん…」
本当に可愛い妹分だ。
下げた頭を僕は優しく撫でた。
ヒルダは恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに撫でられていた。
さて、ヒルダに気合を入れて貰ったんだから僕も頑張らなくては!
必ずマナリスの心を開いてみせる!!
評価・ブックマークなども、お待ちしております。
本当に励みになりますので宜しくお願い致します。