第十一話 マナリスⅠ
新章スタートです。
また、過去のお話です。
終戦直後の時間軸になります。
終戦から数日後…。
僕たち連合軍は拠点にしている街へと凱旋していた。
多くの人々が僕たちを向かえ、街は新時代への希望で沸いていた。
ルシフェルが魔王の称号を継ぎ魔界の頂点にたった。新しい魔王が誕生し、僕たちの夢が実現した瞬間でもあった。
民衆に笑顔で応えながら手を振るルシフェルと傍でヒルダも嬉しそうに手を振って応えていた。
ヒルダに向けられている声が男性と同じぐらい女性の「ヒルダお姉さま~」「ヒルダ様~抱いて~!」との声が聞こえるのは勘違いでありたいと願う。特に後半の声は色々ダメだろう…。
街に着く直前に僕もルシフェルとヒルダと並んで凱旋するように言われたが、断って後方に控えている。
ルシフェルは暫く僕の目を見て短く「そうか」とだけ答えた。
「この戦いで一番の武勲を立てたのはリュウト兄じゃない!!」
と最後までヒルダは納得していないようだった。
ヒルダの言葉はとても有難いが、僕は託された少女の側にいることを選んだ。
父と母の死、自分の育ってきた屋敷が燃え落ちたこと、全てを知って泣き叫び、
全て失った少女は心を閉ざした。
感情も無く喋ることも止めてしまった。
食事も殆ど取ることも無く、僕が付きっ切りで世話をしている。
飲み物に栄養価の高い果実を絞って飲ませているような状態だ。
だが、ゆっくりと確実に少女は死に向かっていた。
凱旋の数日後、僕はルシフェルの屋敷の一室を借りて少女の世話をしていた。
正直言って彼女を救う手立てが、まるで思いついていない。
今日も殆ど手付かずの食事を下げようと僕は部屋を出た。
僕もかなり参っていたのだろう、廊下の先から歩いてくる魔族の二人組みにブツかってしまい
スープを少し相手に掛けてしまった。
「すいません!」
僕の不注意だったので直ぐに謝罪を口にした。
その瞬間頬に強い衝撃を感じて僕は吹っ飛んでいた。
「貴様!誰のお召し物を汚したと思っているんだ!」
僕を殴り飛ばしたのは、僕がブツかっていないもう一人の方だった。
「こちらは2番隊の副隊長補佐のガジル様だぞ!」
簡単に言えば、先の大戦でルシフェルの下に幾つかの部隊があり、そこの部隊で3・4番目に偉い人だと言うことらしい。ちなみにヒルダは3番隊の隊長である。
僕は部隊には所属しておらず、ルシフェルの依頼でヒルダの護衛をしていた為、殆ど他の部隊と面識が無いので屋敷に使えている者と思ったのだろう。
「どう責任を取るのだっ!えっ!?」
倒れていた僕を何発も蹴ってきた。
汚されたガジル様とやらもニヤニヤとその様子を見ていた。
普段の僕なら、なるべく穏便に済むように努めただろう。
そう、これはただの八つ当たりだ…。
………………………黙れ…………
ズッン!とその空間が沈み込む様な、僕が発した魔力と殺気をまともに受けた二人はその場に立っていられずに膝を突いた。
全てを押さえつけられる様な殺気と魔力を受けて二人は自分達が絶対に手を出しては行けない者に手を出した事に
気が付いた。必死に謝罪を口にしようとするが余りの殺気に声すら出せない極限の状態。
彼ら二人は猛獣の牙が喉元にある気分だった。命を握られ少しでも気分を害せば一瞬刈り取られることを理解していた。
「リュウト兄!!」
僕を呼ぶ声に一気に正気に戻り殺気と魔力による拘束を解いた。
僕が声の方へと振り返るとヒルダがゆっくりと此方に歩いて来るのが見えた。
「ヒルダ…」
彼女の名前を口にする僕の前で止まり彼女は…。
「このバカ!!兄が!!!」
グーパンで僕の顔面を殴りつけた。
僕がふっ飛ぶ時に見たのは、美しいフォームで拳を振り抜いたヒルダの姿だった。
中々投稿出来なく申し訳御座いません。
新章スタートです。楽しんで頂ければ幸いです。
ブックマークや評価を頂ければ嬉しく思います。
↑励みになりますので!