うぎゃぁ!!
シシリーの地獄の特訓が始まってから3日が経った。シシリーは相変わらず怖い顔で倒れる私を起き上がらせ、毎朝おはようの挨拶をし合っていたアドラーはあれから姿を見せない。よって、甘やかしてくれる味方はいないわけで…私は今日も泣き叫んでいた。
「うぎゃぁぁ!!」
「まだですわ。もう一度」
険しい顔で再度私を起き上がらせるシシリーに、ついに私は耐えられずに手足をばたつかせた。前までは少し休憩を入れてくれていたシシリーも段々厳しくなり、とうとうこの時は大きく首を振った。
「先ほど朝食を取られたばかりですわ。さぁ、もう一度」
そして、私を抱きかかえ、床に降ろす。あまりにも厳しすぎるシシリーに私は大泣きで震える足を床につけ、耐え切れず倒れ、そして泣く…この繰り返しだった。
『乳母も必死だなぁ。ヴィ、悪いことは言わないから早く立ち上がった方が良いよ』
呑気にそう言うユランに私は首を振った。もう無理…もう嫌だ…!初志貫徹なんて知ったことか…こんなに立つことが厳しいなんて知らなかった。シシリーもシシリーだよ…こんな超絶可愛い赤ん坊…あ、いやもう幼児になるのか…にこんなに厳しい指導するなんて…!長い目で見てよぉ…明日にでも死ぬわけじゃあるまいし…!
「姫様。もう一度」
嫌だ…もう嫌だ…。私は泣きながら首を振った。すると、シシリーは大きく息を吐いた。
「…仕方ありませんわね…少し休みましょうか」
シシリーの言葉に私はホッと胸を撫で下ろした。やっと休憩だ…そう油断していると、シシリーが目の前にあるものを出してきて、私の顔は強張ることになる。
「さて、姫様。休憩中にはこれを着ていただく約束ですわ。これを脱げるのは練習の時のみですからね」
すっかり忘れていた私は休憩中も大泣きし、ユランからよく忘れられるよねと皮肉を言われてしまう。
『それにしても、乳母も考えたね。ヴィが嫌がる月華の祝いの正装を練習の道具にするだなんて…。名付けて…脱ぎたきゃ練習しろ作戦だね!!』
呑気なこと言っていないでなんとかしてよぉ!?もう、なんなのよほんとぉ!!私は拒否を全身で表すかのように、泣き叫び、徐々に近づいてくる服を殴る蹴るを繰り返した。これもここ数日よく見る光景だった。
「うぎゃぁぁ!!」
シシリーの地獄の特訓が始まってから3日。私はお昼寝の時間も返上して、数日練習に励んでいた。だが、いまだ歩くことはおろか…立つことを維持することすら難しい状況だった。
『そもそも成長で得た能力数値で発達できるんだ。その過程飛ばして歩けるようにするだなんて無理な話なんだよねぇ…』
それは私じゃなくて、シシリーに言ってよぉ!!!シシリーより無理矢理正装させられた私は、全く休まらない休憩時間を大泣きで過ごすのだった…。
――――――――――
窓から陽射しが入り、私は大きく背伸びをした。凝り固まった腰が伸びる音がし、ようやく息を付きながら溜まった書類の束に目を移した。…これらが終われば次は第三王女の警備体制の確認、その後は陛下の元に参って…と本日の予定を振り返っていると、今日があの日だということに気づく。
「…本当によろしいのですか?」
執務室で私に書類を渡しながらそう問いかけたのは部下のラッシュだった。私は何のことだと返した。陛下が定めたエルヴィ―ナ姫の引き渡し期限まで、残り日華の茎1本となっていた。
「幼子のことです。このまま修道院に引き渡してよろしいのですか?」
その問いに私は書類を見ながら答えた。
「陛下の一存で決められたこと。私には関係のないことだ」
私の答えに部下は大きなため息を吐いた。彼を見ると、心底呆れたような顔を私に向けていた。
「貴方様はご自分に嘘をつかれるのが苦手でいらっしゃる。ここ数日の貴方様の落ち着きのなさは、アドラー様が例の子の陣営に身を移された時以来でございますよ。たまには素直になられてはどうですか?」
これは部下からではなく友人からのアドバイスです…そう言い残すと、ラッシュは一礼をし退室する。…友人からのアドバイス、か…。その言葉で、先日見た夢の中で、幼い頃自分を庇ってくれた同い年の従者の姿を思い出す。怪我の痛みから泣いていた奴が随分大きなことを言うようになったものだ。
「…私にどうしろと言うのだ」
彼女を抱いたのは少し前のことなのに、その感触がやけに思い出された。自分が自分でないように、あの温かさを失うことは惜しいとすら思ってしまっている。不意に夢の中に現れたあの少女が頭を過った。陛下と同じ銀色の御髪を持つ少女だったが、その瞳には明るさを秘めており、御伽噺に出てきた天使のようだと思った。あの頃のレイは何も映していない瞳で幼いながら恐ろしいとさえ思ったものだが…同じ色を身にまとっていたのに彼女からは恐怖は一切感じなかった。あの少女と彼女は同一人物なのだろうか…いや、考え過ぎか…ただの夢だ…
「随分と気づかない振りが上手くなったものだね、ジファ」
突如現れた声に背筋が凍る。声が現れた場所にいた人物は、自分の記憶の主と寸分変わらぬ姿で机の上に座っていた。声の主は自身の癖である足を組み、その上で頬杖をついていた。
「…オルウェ兄様…」
彼を最後に見た16の姿のまま…オルウェは朱色の瞳で私を見ていた。母親譲りの紫色の髪が笑うたびに揺れ動き、私はあまりの現実離れした光景に頭を押さえた。ここ最近に現れた兄の幻想は、私の悩みの種だった。兄は笑いを含みながら私に問いかける。
「名を捨てて、ラーミアになっても君の本質は変わらない。相変わらず、レイの言うことばかり聞いているんだろう?」
私は普段通り彼の言うことを黙って見ていた。彼が昔通りなら、こちらの反応に関わらず話を進めるからだ。今回も彼は私の返事も待たずに話し続けた。
「昔から君はそうだった。泣いて母親に縋り、母親が亡くなれば今度はレイに縋り…本当に君は他人に依存するしか能のない。生きていくうえで足りないものが多く、だからこそ脆い」
これは彼が現れる以前も何度も聞かされた言葉だった。思わず舌打ちをしそうになったが、ぐっと堪える。だが、彼はそんな私を嘲笑うかのようにあの言葉を口にした。
「そんなに愛して欲しいのかい?」
後ろ窓がピシッと音が鳴った。窓を一瞥し、オルウェは足を組み変えた。その顔から昔と変わらない、私への憐みが感じられた。この人のこういうところが昔から好きになれないでいた。
「感情の制御は魔法でも暗殺でも初歩中の初歩。未熟なままでよく魔法や暗殺を専門にしていると言えたものだ。自分には才能がないと言わんばかりだ」
「……黙れっ!」
思わず叩いてしまった机の音とともに、制御できない突風が部屋中を覆いつくした。書類は舞い散り、窓はさらにミシミシと音を立てる。分かっていたはずだ…オルウェを無視してもその後煽り立てられるだけだということに。オルウェが笑いながら机から降りる。背丈が逆転し、幾分か小さくなった彼を見る。あれからいくつもの月華を刻んできたというのに…私は背丈以外何も変わらないままだった。今でもレイから感じ取れる父親の陰に怯え、そして自分より小さくなった兄さえも言いたいことは言えないままだ。
「別に恥ずかしいことではないさ。僕を愛して欲しい…そう君は言いながら私に泣きついてきただろう?」
「…幼い頃の話だ。今は…」
「違う、と言い切れるのかい? 君は今も昔も変わらないよ。レイの下で暗殺部隊なんて大層なものを率いているけれど、今も昔も君は何一つとして秀でたものはない。君が得意としている魔法も、暗殺も、私からしてみれば子供の遊びのようだ。それらの分野で君が唯一になることはない」
オルウェの言葉は呪いのようだ。放たれるたびに自身が築き上げたはずのものが崩れていく。陛下に殺されぬために磨いた魔法も、暗殺の技術も…今では塵芥に感じられた。
「彼女は君を愛してくれなかったからね。彼女の愛があれば、君の望みも叶っただろうに…可哀そうに…。母親の唯一にもなれなかった君が他人の唯一になろうなんて到底無理な話だよ。まぁ、彼女は最後に君を庇って死んだのだから…その行為だけは褒めてあげられるか…」
母親の憂いた顔が頭を過り、心臓が掴まれたように胸に痛みを感じる。これ以上オルウェの言葉には耐えられなかった。だがこれは私が作り上げた幻想だ…込み上げてきた思いからぐっと拳を握り、顔を上げる。
「いい加減にしてくれ…私は貴方とは違う!」
「そうだね。君と私とじゃ何もかも違う。私は与えることもできるが、君はそれすらもできない」
違う…そう言いかけ、私は固まった。それが嘘だと分かっているからだ。否定できない自分が腹正しくなり、唇を噛むと鉄の味が口の中に広がった。
「ジファ、与えられることができるのは持つ者だけだよ」
彼のその言葉で小さな生き物のことが頭を過った。自身の腕の中で冷たくなった憐れな生き物…そのときの感情が呼び起こされそうになり、私は思わず机を叩き怒鳴った。
「消えろ! 貴様はもうすでに…死んでいるんだ!!」
辺りが静寂に包まれ、兄の言葉は聞こえなくなった。閉じた瞼の裏に、自らの首に刃を突き立てる兄の姿が浮かぶ。何故今頃になって…!
「…あーみあ?」
舌っ足らずの小さな声…ハッと視線を上げると、開かれた扉の前にラッシュに抱きかかえられた…エルヴィーナがいた。
――――――――――
目の前で驚いたように私を見るラーミア。いや、私の方が驚いているんだけど…何よこの汚い部屋。ようやくシシリーから脱走できたと思ったのに、早々に彼の部下に捕まってしまったのが運の尽きだったのか。部屋の中はまるで嵐の後のように散らかっており、床には用紙や家具などが足の踏み場もないほどにある。…もしかしたら、ラーミアは掃除ができないタイプなのかもしれない…そう思ったが、部屋に入る前に聞こえてきたあの怒鳴り声から考えるに……またこいつ、飲まず食わずで仕事したのか?幻覚と話し始めたら終わりだからな!?この社畜野郎め!
「ど、どうかされたのですか」
部下もこの状況を見てただ事ではないと思ったらしい。こうなる前に何故休息を取らせなかったのか…可哀そうにラーミアは顔を真っ青にして今にも倒れそうだ。彼は震える手で顔を覆った。
「……いや。また王女が脱走したのか。すぐに乳母の元へ…」
それは困る…!!私は動揺する部下の腕から浮遊でスルリと抜けた。向かうはラーミアの腕の中だ。
「アーミア!」
「っ!?」
ラーミアが驚いて動いてしまったため、彼の顔に勢いよく飛びついてしまった。飛びついたときに変な音がしたので彼の高い鼻が潰れてしまったかもしれないが……特に痛がる様子もないことから大丈夫であると願う。だがいつまで経っても、私を引きはがすどころか、身動きさえしない。…え、まさか気絶した…?
「………っ」
恐る恐る顔を覗き込み、私は慌てた。ラーミアがまるで小さい子のようにぼろぼろと涙を零していたからだ。…やっべ!?
「ラ、ラーミア様!?」
顔から突っ込んだ私を剥がそうと、部下は焦りから私の腰を持つ。幼児に突進され、その顔面の痛みから大泣きする姿…それを部下に見られるのは上司の沽券にかかわるだろう。そう瞬時に判断した私は、意地でもラーミアの顔面から離れなかった。そんなにしがみついては息すらもできないだろうなんてことは頭になく、ただひたすらしがみついていた。
「…いい…下がれ…」
そんな部下と私の攻防の中で、私の腹の方から小さい声が聞こえた。それがラーミアのものと気づいたのは、私より部下の方が早かった。私から手を離し、しばらく考えた後部屋から出ていく。…恐らくラーミア本人は安堵しているだろうが…こんなにも鼻声なのだ…部下に泣いているってバレたな。
「……離せ…」
部下が退室し、ラーミアが私の服を握りべりッと離されるとじんわりとお腹辺りが冷たかった。…こりゃ随分泣いたなぁ…思わず苦笑いしてしまうほど、大きな染みが私の服にはついていた。ラーミアが頭を抱えながら椅子へと腰かける。自分でも泣いたことに衝撃を受けているようで、私の心内には罪悪感が広がる。…ごめんよ、わざとじゃなかったんだよ…。
「……あんなことを言いたかったわけではなかったのにな…」
しかしラーミアが零した独り言からは特に羞恥心は感じられなかった。彼自身、傷ついたような顔で項垂れていた。…何かあった?膝をペチっと叩くと、ラーミアは私を見た。そのしっかりした視線から、気が触れたわけではなさそうだと感じる。ラーミアが私の頬をそっと撫でた。
「…貴様はまた脱走したのか? あまり困らせるなと言っただろう」
ふんっ、全然会いに来てくれないアドラーの事なんて知らないし!彼の言葉に私がそっぽを向くと、ラーミアは私を抱き上げた。
「兄上にいらぬ心配をかけるな。あの人は…余所者の私でも優しくしてくださる」
ラーミアはアドラーのことを話すとき少し表情が和らぐように感じられた。…ふーん。この人もこんな表情ができるのか…。能面男だと思ったが、ブラコン男に変更だな。普段からその表情をすればいいのに。だが、ラーミアはすぐに暗い顔へと戻る。
「…私には多くの兄がいたが…あの人のように兄らしいことはしてくださらなかったな」
その言葉に私はハッとする。確かラーミア以外の前王位継承権を持つ者はこの世にはいなかったはず…。こりゃ、彼の繊細な部分だな。私は取り合えず、ラーミアの話を何も分からない1歳児の顔で聞く。今彼が必要としているのは言葉ではなく、思いっきり話すことのできる聞き手の存在だろう。そう考え、私は彼の顔をジッと見る。さ、存分に話すといい…。だが、私の顔を見てラーミアは真顔で口を開いた。
「…貴様は随分頭の悪そうな顔をする」
失礼だな!?せっかく聞き役に徹しようとしていたのに、ラーミアは私の頬を突っついた。こんな超絶可愛い顔に気安く触るなっ!!落ち込んでいるみたいだったから、励ましてやろうと思ったのに…とんだ勘違いだった!!なんだ、頭の悪そうな顔って!!
「なんだ…急にがなり声をあげて…腹が空いているのか?」
と、私の腹を触るというとんちんかんなことをするラーミアの手を払う。お前の発言に怒っているんだよ!!お前、魔法が使えるんだろ。気持ちが分かる魔法とかないのかよ!!あまりの鈍感さに私が苛立っていると、誰かがため息を吐く音が聞こえた。
『そんな魔法ないよ。そもそも魔力耐性があるから自国同士じゃ効果ないんだけど…ヴィ、僕ちゃん魔力耐性の説明したよね? ちゃんと覚えておいてよ』
…確か魔力性質が似る者同士だと魔法が無力化されるんだっけ…。忘れかけていたことを胸に秘め、私ははーいと返事をする。ユラン登場で頭が冷え、私はラーミアの膝の上に腰を下ろす。
「…急に大人しくなったな…赤子とは理解できんな」
ただの赤子じゃなくてすみませんね…と謎の謝罪をし、私はくわっと欠伸をする。お昼寝返上で練習を続けていたため、いきなり睡魔が襲ってきたのだ。…思わず飛び出してきたけどシシリー心配しているよね…そろそろ帰ろうかな…。そう思いながらラーミアの膝を叩く。私をシシリーの元に連れて行ってよ…と扉を指さす。ラーミアが私の行動を見て、あぁ…と察してくれたように呟いた。そうそう…私の瞼も限界だからさ…
「外へ出たいのか。お前の脱走癖も困ったものだな…枷でもつけておくか…」
ちっがう!!私は異を唱えるために何度も膝を叩いた。私は眠いんだって示したでしょ!!もしかして見えてなかった!?私は今度はわざとらしく大きな欠伸をしてドアを指さす。さぁ、今度はどうだ!!
「……赤子とはいえそのような大きな口を開けては…品のない女だと思われるぞ」
そう言いながら、彼は欠伸をしたあとの私の唇をつまむ。口からはムグッという音しか出ず、私はますますいら立ちが募る。
「…口の次は頬を膨らませるか…。それは昔の求愛の合図とされる…容易く使うな。お前にはまだ早い」
知るかっ!!私は首を大きく振り、そっぽを向く。大体、言葉の通じない赤子に何注意してんだ、分かるわけないだろ!怒りから鼻息が荒くなっていると、小鳥の鳴くような声が頭上から聞こえる。鳥でも飛んできたのか?怒りよりも好奇心が勝ち、ちらりと視線を上げると、
「…アーミア?」
ラーミアが口元に手を当てて笑いをこらえている姿があった。…まさかあの鳴き声は…お前の笑い声か…?私が目を点にしてその姿を見ていると、ラーミアが私を見る。
「ラーミアだ。言ってみろ…ラーミア」
急になんなんだ…そう思ったが、圧が凄い視線に耐え切れず、私は口を開ける。ラ…ラ、ラーミアね…それくらい分かっている…聞いててよ…
「アーミア」
駄目だった。やっぱり、1歳児に“ら”の発音は難しいぞ。早々に諦めそうになった私だが、突然ラーミアが自分の口の中に私の手を突っ込んだ。生温かい感触が掌に広がり私は慌てて手を引くが、成人男性の力強さに適うはずもない。
「ラーミア」
必死で手を引く私に彼は再度自分の名を口にした。舌が動くたびに気持ち悪い感触が伝わり、私は悲鳴を上げる。だが、頑固にも私に言えとばかりに圧を飛ばすラーミアに根負けし、私は悲鳴を上げながら唇を動かした。
「アーミア…アーミア……アー…」
「ラーだ。ラーミア」
口を閉じ、自分の手を取り戻すことに集中しようとすると、そのたびに強く手首を掴まれるため、私はやけくそで唱え始める。
「アーミア! アーミアアーミアアーミア……ラーミア!!」
力が緩まり、ようやく私は彼の唾液でベタベタになった手を取り戻すことに成功する。…うっへぇ…こんなこと前世でもされたことないぞ…!!腹いせにラーミアの服でそれを拭こうとしたのだが、その前に自身のハンカチでそれを拭い取られてしまう。…今すぐにでも殺菌力が強い奴で手を洗わせろ…!!
「ラーミアだ。もう間違えるなよ」
1歳児になんと酷なことを言うのだろうか…。ラーミアは満足そうに言うと、汚いものかのように自身のハンカチを机の上に放り投げた。…自分の唾液だろうが…自分の!!結局、こいつは間違いを正したかっただけようで、これ以上奇行に付き合わされる前に私は諦めて目を閉じた。もういい寝る…!覚めたように感じられた眠気が再び襲ってきて、私はすーっと息を吸った。段々暗闇が下りてくる…
「おい、まだ寝るな。…仕方ない。褒美は起きてから自分で気づくんだな」
褒美…?私はくわっと欠伸をして、全ての力を抜いた。意識飛ばす前、私も幻聴が聞こえたような気がした。
『能力値の譲渡を確認。身体強化+1を獲得』
成長してないのに発達したぞ…これで歩けるようになるといいなぁ。眠気に負けた私はぐぅっと息を立てるのを最後に意識を手放した。