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寝られないから死ぬ

作者: 炉谷義露

 深夜に一人で起きて居ると、堪らず死にたく成って来る。特段に理由は無いけれども、遂いに死にたく成る。心身は至って健やかであるし、人生は況して安泰である。平凡な悩みこそ有れど、稀代の悲劇の様な責任は負って居ない。其れは確かに、深夜で一人であるから然うなのであろうと云う程度の死にたさであった。

 図らず思い立ったのであるけれども、遺書に寝られないので死にますと書いて実際に死ねば、何う成るだろうか。私は死後の事を考える性格では無い。死ぬ時は平然と、生命の続きであるかの様に死んで遣ろうと思って居る。死後を慮るのは意味が無い。霊体も末代も文化と為て受け容れられは為るが、現実と為ては些か受け容れ難い。然し乍ら、然うであるからこそ、寝られないから死ぬと書き置けば、何方(だれ)が何の様に反応為て呉れるかと妄想が膨らむ。

 恐らく、親族と恋人は哀しむであろう。然し乍ら此れは、私が寝られなくて哀れであったと哀しむのでは無く、私が死んだから哀しむのだと思う。果たして其の原因が寝られないからであらば、何う哀しむのだろう。其の短い文章から色々と想像を逞しく為て、本当の原因は其れでは無く、真意が何処かに在ると思い悩むだろう。其れは誤りであって、私が真摯に胸中を書き遺したのであっても、然う思うだろうか。昨日は快眠であったにも関わらず、翌日に寝られなかったからと云って死ぬ人間が居るかと思うだろうか。人類の歴史に於いて、其の様な尠少な個体が居ても良いだろう。

 友人は何うであろうか。私には友人と呼び得る人間が少ないから、想像は難しい。知人には知らされるだろうか。抑々から友人にも知らされないかも知れない。私が其の少ない友人に連絡を取らないので、他者では況して取り難いだろう。友人や知人は何とは無しに私が死んだと聞かされるかも知れないが、寝られないから死んだとは思いも寄るまい。然う考えると些か愉快に感じるが、彼方(あいつ)は死にそうだったからなとか何とか言われるのは煩わしい。

 私は何う思うだろう。私が私は眠れないから死んだと言えば、私は小さく笑って終って、然うか、私らしいなと言い乍ら、悲しい表情を浮かべるだろう。然し乍ら、其れは自死を憂いた顔貌では無く、私らしい死に方が出来て終った事に向けられた、失望の表情だと思う。私は何と無く、死にたいと繰り返し乍ら、自分の死に方を斯うと決め乍ら、疾病か事故かに因って、斯うは死にたくないと苦情を垂れつつ、此れは此れで良いのでは無いだろうかと云う意志を黙然と抱き、然う為て死ぬに違いない。然うであるから、私は私が自殺為得た事へ向けて、哀しい微笑を向けなければ成らないのである。

 ()んな事を一人で考える深夜の過ごし方。

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