ここはいつもの「異世界」
「許せぬもの~教卓前にて陣取り生徒を罵倒したる教師~」
「多く課題だすなどもわろし~!ま、課題やってんの俺らじゃないからいいけどなアハハ」
「うるさいな…」
「うるせえのはお前だよ集中しろ!」
信じられるだろうか。
これは決して、定期テスト前で頭がトチ狂った男子高校生らの戯れの会話などでは、決してない。
天田 令 (あまだ れい)20歳。落ちこぼれからナンバーワンになった男。
だが、気分はいつまでも落ちこぼれ。下剋上も(なにもかも)未経験だしね。
彼は今、彼の勤めるクラブのひとつ道を違えたところにある学習塾から帰ってきた中学生3人に恐喝され、某ハンバーガーチェーンの2階席で問題集を解いている。
(こんな場所で休憩するんじゃなかったな…)
令は、クラブでは確かにナンバーワンだ。
集客率、人気、容姿ともに確かにトップであることには間違いないのだ。けれど。
この仕事をバイト感覚で始めて1年半…いまだ、煌めく夜の世界に馴染んでいなかった。
仕事やらなんやらの疲れで顔を真っ青にやつれさせた女性に、すぐに醒めることとなるトキメキと優越感の甘い蜜を吸わせて、高額な金をとる。
(彼女らは幸せそうだ、一時は。)
良心の呵責はいつも令の天使と悪魔を兼ねている。
「でもさ、兄ちゃん、なんでこんなとこにいんの?しかもこんな遅くにさー。ニートなの?」
君たちに聞きたいよ。という言葉はぐっと飲み込む。しかし、何と答えればいいんだ…
ホストって正直に言う?
「ホス…いや、えっと…それよりもさあ、君たち」
ドスっと脇腹をどつかれる。
「ごまかすな。答えろ。」
どうえええええええ?!今どきの中学生、こんな?!痛みが鋭いんだけど?!
「ホス…」
いや、いいのか?教育上絶対お宜しくないワードだし、その先の説明を求められたら…
うん!なお、お宜しくないな☆
「風俗?」
ええええええええええええ…
「まあ、いいよ。別に興味ないや。俺ら、ハンバーガー買ってくるから、引き続き解いてて。」
「ぜってー間違えんなよ!」
学ラン3人衆が階段を降りて行ってしまった。ほっと胸をなでおろす、と同時に一抹の寂しさ。
原色のポップな壁に囲まれた明るいボックス席は、僕には少しばかり息が詰まるんだ。