8話 サーミト王国沖海戦
戦いのシーンの表現って難しい。
「ニホンはこの艦に本当に攻撃して来るのか・・・。」
外輪船型の戦列艦ビヨールの航海士エミストスは同僚に聞く。彼の声は心なしか掠れて聞こえた
「そんなのわかるかよ・・。多分大丈夫だろ、ビーマイト帝国最新の船だぞ・・・」
「そうだよな。不沈艦だよな。」
上空で騎竜が次々と叩き落とされた今、水兵は現実逃避に走り始めるものも少なくなかった。
まだ上空にはミサイルの爆発による黒い煙が残っている。
その時前衛の船から魔力通信が入る。
『ザッ 何か飛んでくるものが見えた・・・』
魔石がそう震えた瞬間、まっすぐ突入してきた対艦ミサイルが騎竜搭載艦に命中する。命中すると艦体は大きく歪み、パチパチっと破片が飛び散る、そしてミサイルは内部でその弾頭の力を解放した。
グォオオオオオオオ
とてつもない轟音、そしてマストより高く昇った煙が晴れると、そこにあったはずの騎竜搭載艦は大量の木片となって海に散らばっていた。
付近の艦には爆発の際に飛び散った破片が次々と刺さる。
その間も次々と艦隊に向け突入してくるミサイルによりビーマイト帝国海軍の主力艦隊の一つである前衛騎竜機動艦隊は数隻を残して沈められた。
「フッハハハ、旗艦ビーマイトは沈めれなかったようだな、ニホン軍、次は俺たちの番だ・・・。」
気が狂ったような様子のプラーケン艦隊提督はそう叫ぶ。彼の額には赤黒い血がベッタリとついていた。
これだけ見るとビーマイト帝国艦隊の威容はもう無いように見える。騎竜機動艦隊の残った艦でも大きな破口の空いた船体上部は完全に破壊され、艦体後部は比較的被害が少ないものの、艦内は破片や亀裂があちこちにあった。
「提督、生存者の救助は行わないのですか・・・。」
温和なルミーエ参謀が尋ねる。彼も腕に大きな傷があった。
「ああ、ここで救助なんてしていたらニホンにまた攻撃を食らうぞ。そしたらさらに多くの者が死ぬんだ。まだ後続の艦隊は生きているしな。」
提督は冷たく言い放つ。確かにここで留まって救助をしていればさらに多くの者が攻撃を受け死ぬかもしれない。ルミーエは何も言い返すことができなかった。
双方の艦隊は距離を詰めていき、艦隊同士の距離が20kmを切ったとき護衛艦隊は新たな行動をとった。
主砲が動く、射撃管制装置が狙いを定め主砲が一斉に火を噴く。そこから撃ち出された砲弾は主力部隊を失った艦隊に襲いかかる。
いとも簡単に船体を貫き、爆発を起こす。ビーマイト艦隊の中でと灰色の花が咲く。花が咲くたびに船は木片になっていく。しばらくするとビーマイト艦隊があったところは船の破片、運よく脱出できた小型ボート、そしてもはや形を留めていないものも多い死体が浮かんでいた。
騎竜機動艦隊の中で残っていた旗艦ビーマイトはいつのまにか・・・ビーマイト帝国海軍の花形であったということを忘れ去られ、“ただの船として”『こんごう』の放った127mm砲の餌食になって沈んでいった。
「俺たちが戦っていた相手はなんだったんだ・・・。」
そう呟いたプラーケン提督は波に揺られながら木片に捕まり海面を漂っていた。その後彼は皮肉なことに自分たちを沈めた『こんごう』に救助されることになる。
「ビュラン皇帝陛下、先程入った魔力通信によると、我が帝国海軍は・・・、派遣した戦力の7割以上を失いました。」
秘書は虚ろな目をしながらそう報告をする。今までの海戦の結果報告は勝利の報告しかなかった。信じられない。今までの連戦連勝、この世界の海はビーマイトの海だと言ってもよかった。だが負けた?どういうことだ、わからない。
「そんなバカなぁぁ。負けるとはどういうことだぁぁ。」
皇帝は大きな声を上げる。日頃の彼からは想像できないほどの大きな声でそう叫ぶ。秘書は驚きのあまり2歩ほど後ろに下がった。秘書も怯えている。帝国の勝利を伝える役目、そう思ってきた。だが今日初めて彼は帝国の『敗北』を伝えた。
「ならば、我が帝国はニホンとの戦争は陸戦になるのか・・・。それもニホンに上陸されてのものか、我が国の領土をニホン軍の軍靴に踏み荒らされるのか・・・」
「・・・はい、現在各地の領主に連絡をとり各地で総動員体制をとり、無条件徴兵を始めています。
直ちにこれを『管区軍』として編成、設定された管区に割り振り防衛に当たらせます。常備軍は本土防衛の基幹戦力として沿岸に配備、士官学校の生徒は3年は即卒業させ『管区軍』へ配属、それ以外の生徒は学生隊として首都防衛にあたらせます。」
ビーマイト帝国はそこまで陸戦は強くない。普通の国よりは圧倒的に強いのだが5大国の中では1番弱いと言ってもいい。ビーマイト帝国は海軍力が自慢の国であった。その海軍力がビーマイトを大国まで押し上げていた。しかしその海軍が崩壊した今、ビーマイトは大盾を失ったと言ってもいい。
日本 総理官邸
「護衛艦隊群はビーマイト海軍を完全に撃破、ビーマイト帝国海軍は主要戦力を失い、極東洋を含むほぼ全て外洋の制海権を失いました。」
海上幕僚が閣僚らに報告する。
「うむ、それで被害や敵の生存者はどうだ。」
伊佐元が聞く。
「ええ、こちら側に敵の攻撃による被害は無し。ただし作戦途中で人為的ミスによる負傷者が12名、いずれも軽傷です。敵の生存者は確認できた限りでは1000名ほどです。数の上で主力の帆船ではほとんど生存者がいなかったと報告されています。」
ビーマイト艦隊の総数が約700隻だったことを考えると非常に少ない。
「そうか、その生存者は捕虜ということになるから、臨時の捕虜収容所に移送ということになるな。」
「はい。現在輸送艦おおすみ、しもきたを海域に派遣し捕虜を収容。護衛艦いずも、かがは引き続き遺体の捜索作業に当たります。」
「何から何まで済まないねえ。しかし伊佐元さん、しかしこれからどうすんだ?一応上陸作戦の検討をしてるけどさ。」
塚本防衛大臣がそういうと陸上幕僚が小さく頷く。ビーマイト本土上陸ということになると国土が大きいビーマイト帝国の全土を掌握はほぼできないと言ってもいい。今の自衛隊ではやるとしたら首都を即占領、皇帝を捕えるぐらいしかない。
「まあ、『しなの』艦載機によるビーマイトの軍事施設の空襲でジリジリとプレッシャーをかけて・・・っていうのが一番現実的だな。世論と補給がなんとかなれば首都占領でもできるんだがな。」
塚本のいうとおり世論と補給がなんとかなれば首都占領でもやれるのだがそこが悩みである。
その後ビーマイトの軍事施設に対する空襲が正式に決まり、護衛艦隊群に補給を行ったのちに空襲を行うことになった。
海上自衛隊の保有する補給艦、『ましゅう』型3隻が、サーミト沖からビーマイト帝国沖まで進出した護衛艦隊群に艦の燃料、糧食、そして追加の航空燃料、空対地爆弾『JDAM』を補給した。日本は着々とビーマイト帝国本土攻撃に向け準備をすすめていた。
『JDAM』のGPS誘導はこのGPSが無い世界ではまだ使えない為、慣性誘導と機体自身の爆撃用コンピューターを使うことになる為、精度が落ちるがこの際仕方がない。
パイロット達は愛機に装備されるそれらが補給されていくのを複雑な心境で眺めているのであった。