75話 そして始める(1)
自分の妄想をつらつらと書いていくうちに別の小説も書こうかなと思ってみたり。
それでも本作品は書き上げます。
急ピッチで拡張、整備された仮設港に次々と自衛隊の車両が降ろされていく。仮設港というか浮体に近い。
強襲揚陸した水陸機動団、それに続く第15旅団の一部を乗せた輸送艦からの揚陸は終わり部隊はすでに前線に展開しているという。
現在揚陸中なのは民間船舶、主にフェリーで運ばれてきた第二次展開部隊である。今後前進するに当たって延伸が続く戦線を支える屋台骨となる部隊だ。
それと平行して糧食、弾薬、修理部品などの物資が全力で揚陸される。港から各部隊に地上輸送する体制が整っていない為直接ヘリコプターで届けるべく海自の哨戒ヘリまで飛ばして対応しているとのことだ。
総勢4個師団規模。未だかつて自衛隊が海外で運用したことのない規模だった。
「全行程は概ね計画通り進行中です。各戦闘団は所定の位置に展開しています。」
「わかった。増援部隊の状況は?」
「予定通り72時間以内に全隊が揚陸します。その為後ろは気にすることなく前進しろとのことです。」
「了解した。本指揮所は明日朝を持って撤収。前進させる。設営地点は他戦闘団と協議の元決定するのでおって通達する。」
港町の広場に設置された臨時の戦闘団本部は一気に慌ただしくなる。揚陸部隊を受け入れる為にここに設置されていたのであるが揚陸が完了したので隷下の部隊と共に前進する。
ゴーストタウンとなった港町には完全武装した自衛隊員らが次々と入ってきており、エンジンを唸らせながら進む暗緑のトラックや装甲車と共に異様な空気感を醸し出していた。
事前に衛星画像でめぼしい空き地がピックアップされすでに施設部隊はヘリから運ばれてくる資材でヘリポートを設置している。
「あらららら、こりゃひどいなぁ」
バカみたいにうるさいヘリコプターの中でそう呟く。眼下には敵の拠点だったと思しきものがなんとか原型を保っている。
迫撃砲をボコボコ打ち込まれたのか甘く積んだ土嚢などが至る所で崩れている。
「ここは2日前に制圧した敵の防御陣地です。普通科中隊一つでこれですよ。」
うるさいヘリの中なのでヘッドセットを通しての会話である。
「随分と小規模だな。」
「水際防御陣地に固めていたそうですから主力は消えたも同然です。残存部隊が遅延を狙ってやってるそうです。」
勇敢だ。彼は言葉に出さなかったがそう感じた。
我々自衛隊なら1個師団が壊滅した時同じことができるだろうか。もちろん作戦上の合理性は抜きにしてもだ。彼は黙って考える。
兵士一人一人が持つ職業意識に支えられた同じ軍事組織のはずだが・・・そこまで考えたところで思考が中断される。
「あそこです。ここなら双眼鏡でも見えるかと。」
地平線の方に何かが見える。双眼鏡を手に取り構える。
「あれが戦う自衛隊か・・・。」
何百回何千回と訓練を繰り返し、見てきた彼がブルっと震えた。レンズの中では戦車装甲車がフル装備の普通科隊員と前進し機関銃を射撃する様子が映る。
ぼんやりと遠くにあがる爆炎は先ほど通り過ぎた特科部隊の射撃陣地からのものだろう。
「戦闘は6時間前から始まっています。偵察隊によるとそこそこ大きな・・・2個大隊規模が街を守っているとのことで市街戦に備え普通科部隊を次々送り込んでいます。」
「沿岸を守ってた部隊の最後の抵抗か。民間人はどうなっている?」
「ビラを撒いてスピーカーで呼びかけてとマニュアル通りにはしましたようですが街から出て行く姿はまばらですね。」
ヘリから見える街の姿はぐんぐん大きくなって行く。街は城壁に囲まれたこの世界では中の下といった規模の街だ。
複数箇所の城門で施設科部隊が爆薬で無理矢理門を吹き飛ばし戦車や大型車両が通れるようにしていた。
城門の上に横たわる敵兵士の姿が見える。
戦車の重機関銃にやられたのか爆発四散した遺体も転がる。
「住民と一体となって戦いを挑んでくるか。いつぞやの東京とは違うものだな。」
「ええ、最悪の状況です。」
一際大きな爆煙が上がる。正門を吹き飛ばしたのだ。
それと同時に各門から隊員らが突入していく。
攻撃ヘリの支援は遅れるものの無人機が市街上空を飛び回り地上部隊と情報を共有する。
「これじゃ泥沼化するぞ。うちの方面隊もここに来ることになるのか。」
視察を終えヘリは大きく旋回し戻っていった。
内陸部にズンズンと進んでいった自衛隊であるがある程度戦線が横に伸びた時点でその速度は急速に低下した。
戦線の長さに対して部隊の数が足りないのである。
今まで1個連隊が担当していた距離を1個中隊でなんとかしろというのは土台無理な話だ。そもそも後退して休息を取ると言うのが難しくなってくる。
加えて火砲も足りない。各師団隷下の特科部隊では足りないので方面隊下の特科団を投入しているが進めば進むほど火砲密度は薄くなる。
そしてついに自衛隊の前進は停止したのだった。
「してやられたな。」
「ええ、見事に誘い込まれたと言っても良いでしょう。」
苦々しい顔をしながら陸将クラスが会議を開く。
いつもと違うのは実弾が入った小銃を持った隊員らが『会議室』前に立っていることだろう。
「言ってみれば『ほどよい抵抗』を撃ち破るにつれ知らず知らずのうちに前進していたと。」
「まあそう言うことだな。攻勢限界ギリギリの点だ。下手をすれば突破されかねんぞ。」
「すでに浸透されている可能性も。宿営地での不審火がここ数日いくつか報告されています。」
「バカな。いくらなんでも歩哨はいるし監視装置はあるはずだ。この世界に赤外線ブランケットはない。」
会議室がにわかにざわめく。
「未確認ですが敵魔導部隊とも。」
「前線に余力はもう無い。戦線の後退も検討すべきだろう。」
「ええそうでしょうな。」
「見えたぞ見えたぞ。ジエイタイの光の魔術が....。」
黒いローブを被った男が藪の中から呟く。上空には自衛隊の観測ヘリが飛んでいた。
「私と感覚を共有しろ、見ろ、そして考えるのだアレに勝つ術を....。」