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『異』世界の警察 日本  作者: かり助
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74話 アルトニアの守り人たち(4)

「師団長、敵の上陸用ボートと思しきものが多数近づいてきております。至急攻撃の開始を。」


海岸に迫り来るLCACとAAV7を果たしてボートと呼べるのか怪しいところであるが困惑した顔を見せつつ砲兵大隊の大隊長が進言する。


「当たりゃしないだろうがな....。威嚇でもなんでもいいからどーんとやっちまえ。」


そう威勢良く師団長が告げた途端司令部に伝令の兵士が転がり込んでくる。身体中煤まみれ泥まみれになった兵士はここが厳粛な司令部であったことも忘れ絶叫する。


「我が軍砲兵陣地は壊滅しましたッ、に、ニホン軍の攻撃で全てが、全てが」


「おいもっと詳しく報告しろ。何があった?」


「何かが空から降ってきて全て吹き飛びました。もうダメです、砲兵陣地は消失しました....。」


何があったのか全く分からずキョロキョロと意味もなく首を振る師団長ら。

時間にすると10秒も経っていないだろう。司令部の魔石通信に次々と各部隊から通信が入る。それをマニュアル通りに報告していく通信兵らの声に部屋が埋もれていく。


「第三歩兵大隊から接近中の騎竜に類似する飛行物確認との報告です。」「第一歩兵大隊はすでに二個中隊が交戦を開始したと、ただし敵部隊の上陸は確認できていません。」「砲兵大隊と連絡つきません。」「敵艦隊によるものと思われる砲撃を受けているとの報告が。」「多数の弾薬庫で誘爆が発生、消防担当部隊と連絡取れません。」「敵の航空戦力による攻撃ありと。」


司令部の情報処理能力がパンクする勢いで報告が飛び込んできて記録の為に報告を書き取っていた兵士の手が止まる。報告を元に作戦を組み立てるはずの参謀らもあまりの残酷な報告に頭を抱える。


「おい・・・何が起こっているのだ・・・。これがニホン軍だと言うのか・・・。」



ドドドドッ ドドドドッ


定期的にヘリコプターから振り下ろされる機銃掃射に逃げ惑う兵士たち。隣の戦友の体がいとも簡単にちぎれ、吹き飛んでいく。

少し離れた壕にはロケット弾が撃ち込まれ地面ごと掬い上げられる。


「対空戦闘、撃てっーー、撃てっーー。」


なんとか数名の兵士を掌握した現場指揮官がマスケット銃を使った対空戦闘を試みるもあっという間に火力で捻り潰される。

ズタボロになった防御陣地、すでにその機能はほとんど失われただろう。ちょっと積み上げただけの土嚢程度いとも簡単に吹っ飛ばされてあちこちに散らばっている。

物陰に隠れた兵士が防弾効果でも見込んだのかその一つを引き寄せて胸に抱える。飛び込んできた20mm機関砲弾が土嚢もろとも彼の体を貫いた。





「よしっ、空母航空団の連中来なすった。」


ギリースーツに身を包んだ自衛隊員らが来るべきに備えている。

この周辺にも複数の同じような部隊が展開し敵の戦術級の要所を監視していた。

はるか上空を飛んでいるF-35の姿は肉眼では捉えられないが手元のディスプレイ上には高速で移動するマーカーが表示されている。


「ちゃんとレーザーにしたがってくれよ。間違っても俺たちの頭上に降ってくれるなよぉ。」


空から空気を切り裂くような甲高い音が聞こえた・・・気がした。


ドォォオオオン


目の前の全てが吹き飛んだ。





「もう、我々は終わったようだな・・・。」


「ええそうですね・・・。」


タイミングを見計らって上陸してきた水陸機動団に陣地は一つづつ制圧されてゆく。時々司令部まで聞こえてくる銃声はほとんどが自衛隊のものだ。

支援火力を失い、航空戦力もいつの間にか吹き飛んでいる。鍛えた兵士たちはこの砂浜の肥やしになってしまった。

司令部もわずかな残存戦力として後退し再編成される手はずになっているようだがこの調子で後退できるか怪しいだろう。


「では・・・」「ええ・・・」


二発の銃声が聞こえた。




市ヶ谷 防衛省


「現地より報告、橋頭堡確保しました。」


統合任務部隊本部として陸海空三自衛隊が詰めていた会議室に安堵のため息が広がる。

机に広げた状況図にびっしりと書かれた書き込み、貼られた付箋。積み上がった缶コーヒーの空き缶。そろそろ臭い始めたカップ麺のゴミがまとめてあるダンボール製のゴミ箱。災害派遣などで幾度となく見た光景だが今回はやっとスタート地点にたったと言う意味で捉え方が異なっている。


「ひとまず足がかりはできたと言うことですな。」


「これからが本番だ。列島に数十年引きこもっていた自衛隊に4個師団強で1つの大陸を制することなどできるのか・・・」




「こちら第三中隊。目標地点を確保。複数の負傷者あり、ヘリ廻してくれ。」


焦げ臭い煙の臭いが立ち込める中部下が背負った無線機を使って洋上の指揮所と連絡を取り合う。


橋頭堡確保ののち増援部隊を受け入れるための港確保に動いた水陸機動団であったがゲリラ化した敵の抵抗に予想外の負傷者が出る。

組織的な抵抗は終了したようだったが一部勇敢な市民は町に残り、自衛隊に対し散発的な攻撃を仕掛けてきている。

その掃討は依然として続いていた。


タタタンッ、タタタンッ


またどこかで小銃の銃声が聞こえた。決して多くはない手駒で町を制圧するのは近代兵器をもつ軍隊を持ってしても一筋縄には行かない。上空からはヘリの支援があるとはいえ死角も多い。

常に隊員らには緊張を強いることになる。


「・・・あそこだ。あの建物の影。」「あーはい。ここからは見えませんが。ええ。」


手に持った情報端末のディスプレイと現実世界を見比べる。

小隊に一つ配備されたこの情報端末には上空からの監視や友軍からの情報などが表示される。自衛隊のネットワーク化の象徴だろう。

今ディスプレイにはヘリコプターの赤外線センサに映った人影が映っている。


「5人ぐらいか・・・。建物の中は見えないし回り込むのもアレだからな。小銃てき弾で吹き飛ばす、目標前方敵歩兵。撃てっ。」


ドンっ と爆轟が轟く。隊員らが素早く駆け寄って無残な姿になった骸を確認する。こんな光景があちらこちらで繰り返されていた。






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