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『異』世界の警察 日本  作者: かり助
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71話 アルトニアの守り人たち(1)

新年初投稿です。

アルトニア帝国


「ニホン軍の攻撃は確実となった今、我が国の国防について話し合いたいと思う。」


深刻な顔をしたバーツ国防大臣がそういうと場に集まっている軍人らは一礼をしてそれぞれの席に着いた。

アルトニア帝国帝都の国防省には軍の重役がこれでもかというほど集まっていて恐ろしく狭苦しい。


「レストニア皇国との戦争も片付いていない今ニホン軍との戦争はかなり厳しいのではないかな?」


デニー陸軍教育総監がそう言うとあちこちからハアというため息が聞こえてくる。


「レストニア皇国との戦争ではパーサーミッツの魔石鉱山も取られましたからな。まあ商務省はそこまで大規模な影響がないと言っていますが。」


古参の海軍参謀の一人が声を上げる。


「勢力圏が接してるレストニアと比べて離れているニホンがどのように攻撃を仕掛けてくるのだ?おそらく艦隊の派遣だろうが....海軍はそれを阻止できるのかね。」


「新型艦を投入したとはいえ未だ数は少ないうえに、過去のニホン軍の戦闘結果を見ると厳しいものがありますね。」


その過酷な現実に会議室のあちこちからため息が聞こえる。


「ビーマイト海軍が一方的にやられたものだろう。彼らニホン軍の攻撃は我々と一線を画すものがあるからなあ。」「見えない距離からの攻撃は防ぎようがない上に、一撃で戦列艦を吹き飛ばす威力....とても戦えるものではないぞ。」


「国防大臣っ」


そんな中若い陸軍将校が会議室の後方で挙手をする。皆彼の方を一斉に振り向く。


「わたしにはニホンと戦う一つのプランがあります。」


ざわめく会議室。

周りは御構い無しに将校は続ける。


「今までわたし達は戦争といえば一撃でいかに大きな打撃を与え相手を屈服させられるかというものとして考えてきました。」


「しかしニホンはそれを行うにはあまりに大きすぎる。逆に我々が脳天に一撃を喰らうことになりかねません。」


「ならばどうすればいいか、迫って来るニホン軍を少しづつでも削り続け、国土に上陸されても大きな勝負に出ることはせずただ耐えて耐えて耐え忍びます。」


日本の上陸を許すという発言にカッとなった一人の将校が周りを押しのけるようにして出て来て言った。


「おい、上陸を許すとはどういうことかッ、その時点で敗北を認めるというのか貴様は。」


「いいえ、我々には艦隊同士をぶつけあって勝てる見込みはありません。しかし地上なら...地続きではない我が大陸にニホンから陸軍を運び補給を続けるのがいかに困難か。物資を満載できる艦隊が戦うのとはわけが違います。」


この頃になると肯定的な考えも広まってくる。


「さらにニホンは長期の泥沼化した戦争に耐える力はないと考えます。それは我々がニホン軍と呼ぶ組織、『ジエイタイ』のコンセプトが同盟国の救援を待つというものからも明らかかと。」


そう言い終わると彼は帽子を取りハンカチで額を拭う。熱弁で真っ赤になった顔には玉のような汗がいく筋も流れていた。



「そのジエイタイのコンセプトというのをもう少し詳しく教えてもらえないだろうか?」


バーツ国防大臣がそう言う。すでにその場にいる誰もがこの若い将校の話に聞き入っていた。


「はっ、ニホンは以前いた世界において一度大規模な戦争に敗北しており外国に統治されていた時代があります。

その時の影響からニホンは建前として軍ではない組織、『ジエイタイ』を創設しました。建前とはいえ民意を反映する政治体制のせいか軍としては言ってみれば歪な装備、編成となっているのです。」


そこで一口水を飲む。


「ジエイタイはもともと自分たちの領土内で攻めてきた敵と戦うのが役目で...さらに先ほども話したように同盟国が助けに来るまでの時間稼ぎが根底にあります。よって短期ならまだしも長期のそれもニホンから遠く離れた地域で地上戦を行うのは彼らには難しいと考えた次第であります。」


「....なるほどわかった。」


そう言うとバーツ国防大臣は周りを見渡して大きく息を吸う。一つの覚悟を決めるように。


「参謀本部はすぐに『ジエイタイ」の上陸から持久戦に持ち込みプランの検討を始めろ。植民地軍は動かせんが国内の軍ならいくら使っても構わんと言っておけ。植民地軍は動かせん。」


「し、しかし国防大臣レストニア皇国との二正面作戦になりますが....」


「それ以外どうしろと言うのだ....わかった北部軍と第2艦隊はレストニア方面に貼り付けていよう。その他詳しいことは参謀本部で決めてくれ。いいな。」



4日後


「大臣、ジエイタイの上陸地点が判明しました。」


執務室に書類を持った参謀が早足で入室してくる。


「南部のベレー半島の占領が彼らの目標のようです。そこから予想される規模の兵士が上陸可能な地形となるとこの3箇所となります。」


机の上に置かれた地図を羽ペンで指し示す。


「なるほど、どうやってわかった?」


バーツ国防大臣が訝しむように参謀の顔を覗き込む。


「中央世界経由です。それ以上は情報源はわかりません。彼らはやたらとこの情報に自信を持っていましたが。」


「全く、中央世界の連中に踊らされてるんじゃないだろうな。しかしまあ....」


そう言って机の引き出しから1時間ほど前に各植民地の連絡網からの情報を外務省がまとめた書類を取り出す。


「我々独自の情報とも矛盾はないな...、ベレー半島がニホンの目標と見て間違いないだろう。」



アルトニア帝国 参謀本部


「ニホンの目標はベレー半島か...。」


国家が誇る頭脳が集結したこの部屋でいくつの作戦が決定され、アルトニアの歴史が形作られてきただろうか。


「我が大陸全てを掌握するような能力をニホンは持ち合わせていないということでしょうな。」


「もっともこの『小指』を締め上げられたらなかなか苦しい訳ではありますがね、かと言って上陸自体は阻止できないと言うのはあの若造の言う通りですからいかにここで立ち回るか。」


手に持った葉巻をどうしようかとキョロキョロしながら言う。従者が3回目となる卓上の灰皿の交換をした。

紫煙がどんよりと溜まった部屋で皆が重苦しいため息をつく。


「南部軍はうまく立ち回れますかな?この資料を見る限りレストニアとの戦いのために引き抜かれた部隊が大多数あるようですが。」


「基幹の師団は無事ですからそこに戦ってもらってる間に東部軍から多少引き剥がして再編をすればそこそこいけるのでは?本当に危ないなら東部軍でも中央軍でも投入すれば良い。」


陸軍参謀らが話している間に海軍の参謀らは別に固まって話している。


「ジエイタイの補給を阻止するのにどの程度の兵力を割けば良いだろうか?」


「どの程度と言わず主力艦隊の投入が必要になるだろうな。ニホンのミサイルとやらの長距離からの攻撃から船を守らにゃならん。上陸させたのちニホンの主力艦隊の隙をついて陸上部隊への補給を妨害する程度しかできまい。」


「ことによっては逆上陸もあり得るかと....もちろんここでは陸軍の意見を聞かなければなんともいえませんが。そのために一定数の温存は必要になりますね。」


こうして参謀本部で作られた方針はベレー半島を守る南部軍に示され作戦の細かいディテールが削り出されていった。




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