55話 接近を阻止せよ(1)
夜の空母の航空甲板の上はかなり暗い。
人の暗順応を促すため、暗くしているのである。そんな中でも離発着訓練は行われる。暗闇の中、自分の目の前を巨大な猛獣が駆け抜けて行くようにしてカタパルトから打ち出されて行くのだ。
ただ今回はいつもと大きく違っていた...
いつもは夜間離発着訓練と周囲の警戒任務の為だが、今回は実戦である。いつ自衛隊が自分たちを襲ってくるのか、そんな緊張感の中離発着が繰り返されている。
空母ロナルドレーガンと駆逐艦バリーは『第7艦隊の指揮下から外れる』との宣言から丸1日が経ったものの、特に日本、アメリカ共和国双方から妨害はない。日本からしてみれば政治的にデリケートな問題。アメリカ共和国からしてみれば、自国の貴重な戦力(艦艇の更新は日本頼みなうえ、なかなか受理されないからなおさら)を沈めたくはないのである。
6時間ほど前から速力をあげた両艦はC区域と呼ばれる海域に向かっていた。
C区域、海上自衛隊の演習海域の一つである。野島崎南方に位置する演習海域である。
今回の海上自衛隊との共同訓練で使用される筈だった海域で、海上自衛隊の艦艇は未だに横須賀に待機しているため、C区域には自衛隊の艦は1隻もいない。
C区域に着くまではあと12時間ほどあり、その間は上空警戒のCAPをいつもより増やして飛ばしているため、空母の甲板は普通の夜間より離発着が多い。
「おいおい、俺たちどうなるんだよ...」
赤いベストを着た武器員の男がそう呟いた。
日本政府
「現在、空母ロナルドレーガン、ならびに駆逐艦バリーはC区域方面に向かっています。さらに航空自衛隊の早期警戒管制機によりますと、頻繁に航空機を発進させて上空警戒を行なっているとのことです。」
秘書官が防衛省から回されてきた書類を読み上げる。
プロジェクターからは現在の空母と駆逐艦の位置が示される。
「まさか東京湾に突っ込んでくるとかないよな...」
経済産業相の田中が呟く。
秘書官がそれに応えるように話を続ける。
「現在、第一護衛隊群は非常召集をかけています。万が一に備えて房総沖に展開します。万が一浦賀水道を北上するような動きがあればその時点で撃沈をも辞さないと、米国に連絡しています。」
「空母の艦載機は?東京が空襲されたらどうする?」
外務大臣の岸根が尋ねる。
「空自が全力で阻止するとのことです。しかしこちらに向かって来ているのがわかった時点でもう遅いかもしれないと...
ただ現在2艦はC区域に向かって行ってくれていますのでそこで2艦の拿捕、もしくは処分を行う予定です。」