53話 離脱
アメリカ共和国 第7艦隊司令部
「では行ってまいります。」
白いアメリカ海軍の制服に身を包んだ将校がそう一例する。
彼の名はアンドリュー・ケンジット。アメリカ共和国海軍 空母打撃群の司令だ。
彼の前の前にいる人物は海軍総司令のジョージ・リットンである。
「では頼んだぞ。世界がこんな時期だ。日米の関係はますます重要になる。」
総司令リットンの言葉にケンジットは相槌を打つ。
「ええ、もちろんその通りです。」
そう言うと彼はもう一度例をして部屋を出て行った。
空母ロナルドレーガンに次々と航空機に搭載する武器、航空燃料、予備部品などが運びこまれていく。
この世界では最も大きな船である。その巨体はかつては合衆国に降りかかるものから合衆国を守る守護神であり、現在は『地球』の軍事力を象徴するものの一つである。
そんなロナルドレーガンの打撃群司令の席にケンジットが座った。その前に艦長のジョージ・マーティンが座る。
「まさか人事移動でこの席に座ることができるとは。それも多くの同期とともにこの艦に来れて光栄です。」
ケンジットにそう言うマーティンの目は笑っていない・・・
夕方。空母ロナルドレーガンと駆逐艦バリーは極東洋での海上自衛隊との演習に向けて出港して行った。
港の岸壁で乗員らの家族たちが振る星条旗は夕日を浴びて照り輝いていた。
出港した2艦は3日かけて一度横須賀まで向かう。そこで海上自衛隊の参加艦艇と合流してから演習海域に向かうことになっている。
「もうすぐだな。」
ケンジットは行程表と時計を交互に見ながらそう呟く。
カチッ カチッ カチッ
打撃群司令の部屋の中にあるアンティーク調の時計が一つ、また一つと秒針が動く。
そして・・・
時計が夜の8時を指した。
『ザザッ、こちらは空母ロナルドレーガンの艦長のマーティンだ。本艦および駆逐艦バリーは・・・第7艦隊指揮下から外れる。繰り返す第7艦隊指揮下から外れる。』
「始まったな・・・。」
司令のケンジットがその放送を聴きながら呟く。
その頃アイランドにて
「本艦および駆逐艦バリーの今後の行動についてはその都度命令を与える。進路を変更。C区域に向かえ。そして・・・通信システム、リンク11、14、16は全てシャットダウン。本艦と駆逐艦バリーの意思疎通は灯火信号に限定する。」
艦長マーティンの指示にその場にいるほとんどの表情が凍る。その中の一人、航空団司令のデイビスが声をあげる。
「艦長・・・どういうことですか?あなたはここで反乱を起こそうとしているのか?直ちにッ・・・ガハッ。」
艦長のマーティンは航空団司令デイビスに向けて拳銃を発砲し、その声を強制的に止める。
「アイランドにいる諸君。何もこれは私一人で行っていることではない。打撃群司令閣下以下多数の幹部がこの作戦を実施している。・・・その意味はわかるな。」
床にグッタリと倒れている航空団司令の体を革靴の先で小突くと艦長のマーティンは艦長席に座り直した。