51話 開戦の時(3)
海岸から次々とクロスボウのボルトやマスケット銃の弾が飛んでくる中でも揚陸艇は構わず進む。
乗っている兵士たちももう腹を据えていた。
「レストニア皇国陸軍の最初の勝利はいただくぞぉ。突撃ィィィィィ」
「「「おおぉぉぉぉ」」」
揚陸艇のから兵士たちは飛び出すと激しい銃撃の中を魔導銃を撃ちながら構わず前進する。
バンッバババン
揚陸艇の中でずぶ濡れになった軍服には砂浜の砂が付き、顔は霧で濡れている。中には戦友の血しぶきを浴びているものもいる。揚陸艇から降りようとしたところを狙い撃ちにされた兵士、クロスボウのボルトが飛んできて頬骨に大きな穴を開けて倒れている兵士。
砂浜で空を仰ぐように大の字に倒れた兵士は何発の銃弾とボルトを浴びたのか、身体中から血を流していた。
被害を受けたのは上陸したレストニア皇国軍だけではない。守るアルトニア帝国も無事ではない。
塹壕から攻撃を加えているとはいえ、油断すると魔導銃に頭を撃ち抜かれる。接近を許すまいと攻撃を続けていると後ろから斬り殺される。
「後退ぃ。10m後ろに塹壕がある。そこまで後退するぞ。」
ジリジリと後退していくアルトニア帝国軍。後退しながらも攻撃を加え続けて、必死に時間を稼ぐ。
しかしそれも限界を迎えた。
完全に陸地に足をつける形となったレストニア皇国軍は最精鋭を送り込んだだけあり、破竹の勢いで前線を食い破っていく。
新型魔導銃による圧倒的な火力、個人の練度によって、もはや地の利、防者の利は存在しなくなっていた。
『前線は崩壊した。2個小隊は壊滅。次々と上陸してきやがる・・・なっ、グハッッ』『現在残存部隊は駐屯地まで後退中。至急支援を、このままでは全滅する。』『こちら南島守備隊。各部隊と連絡がつかない。海岸線は敵の姿しか見えない。海岸線の奪還は不可能、どうすればいいんだぁぁぁぁぁぁ。』
防衛の要となるはずだった駐屯地には各守備隊の悲痛な叫びが伝わってくる。敵が完全に上陸した今、1個中隊程度の本隊が向かっても形勢は逆転できないだろう。
「降伏する。」
司令はそう言うとガックリと膝を落とした。その部屋にレストニア皇国軍の兵士がなだれ込んできたのはそれから間も無くのことだった。
東京
『はーい。今私たちはサーミト王国内でも一二を競う展望のフーラン岬に来ていまーす。見てくださいこの眺め・・・ブツッ』
陽気な旅番組を流していたゴールデンタイムだったが、その放送が突然途切れる。次に画面に写ったのはスーツを来たアナウンサーの姿だった。
『番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。先ほど入った情報によりますとレストニア皇国がアルトニア帝国に宣戦布告したとの事です。繰り返しますレストニア皇国がアルトニア帝国に宣戦布告しました。』
そうアナウンサーが言ってワンテンポ後に【レストニア皇国がアルトニア帝国に宣戦布告】とのテロップが画面に映る。
『先ほど外務省に入った情報によりますと日本時間7時30分に西世界の列強国レストニア皇国が南世界の列強国アルトニア帝国に宣戦布告したとのことです。間も無く官房長官による記者会見が開かれる模様です。』
日本がこの世界で迎える2回目の戦争、この戦争は過去、比類ない程の戦争として後に語り継がれることとなる。