44話 船団(1)
青い空、青い海、それに浮かぶのは白い船体の巡視船。
『西世界航路護衛任務』を無事獲得した海上保安庁であったが、護衛に投入されたのは『しきしま型』4隻。うち一隻は整備を受けるので実質3隻のみである。
つまりどんなに頑張っても3つしか船団は護衛できなかった。
そもそも『船団を組む』という時点で西世界航路を使う企業から「運行スケジュールがずれるじゃないか」と文句を言われ、非常に不評だったこの任務、おまけにこの時期に海自は事故(前話)を起こした為、協力を頼むこともできず(元々海自がこの任務を獲得するだろうという下馬評だった為、共同での実施というのもあまり検討されなかった)
そこで海上保安庁がとったのはリレー方式である。
海上保安庁が護衛任務を行うにあたって白羽の矢が立ったのが『しきしま』型であった。それには武装の強力さもあるが、一番に航続距離が買われたからである。一方『しきしま』型以外の巡視船は航続距離が不安だった為、(これが海自なら補給艦随伴だったのだが、海保にはできない)悩んだ挙句海上保安庁は途中いくつかの港にあらかじめ巡視船を配置(この港は日本が整備したもの)しきしま以外の護衛の巡視船は、そこで待機し、船団が通過する時に交代しながら護衛を行うのである。
しかしながらこれには問題がある。
護衛の巡視船の交代だからと言って船団をストップさせるわけにはいかず(とは言ってもスピードは落とすが)護衛交代のタイミングで巡視船のいない『空白の時間』が生まれてしまう。
かといってこれをなくそうと護衛の船を増やすと日本沿岸に普段いるはずの巡視船がいなくなって警察力不足。はっきりいって本末転倒である。(これは海自でも同じようになったのではないかと思われる)
そこでコトが起きたら大変なので海上保安庁は各船舶に警乗するということになった。
日本と西世界の大国であるレストニア皇国はそれなりの関係を維持している。
レストニア皇国をはじめとする西世界と日本の貿易の品目を見て見ると
《日本が輸入》
・レアメタル(これに関しては地球と比べて値段が下がった。スマホなどの値段が下がる・・・かもしれない)
・天然ガス(採掘が始まったばかりなのでまだ量は少ない。西世界以外からも輸入しているが未だにガス料金は高い)
・魔石(日本で高純度の魔石に加工する。日本国内でも魔石を使った製品が出回り始めた。一番人気は虫除け。蚊や蝿がほとんど寄り付かなくなる)
《日本からの輸出》
・鉄鋼(日本が各国に輸出、日本との友好関係の違いで輸出される鉄の質が違う・・・らしい)
・プラスチック製品(ペットボトルはここでも人気、最近はプラスチックのコップとかが出回り始めた)
・加工食品(缶詰、レトルト食品、ソーセージ、ハムなど。冷蔵庫がほとんどないので冷凍食品は個人輸入のものぐらいしかない)
・自転車(ここでも自転車は人気。教習所が各地にある)
・医薬品(大衆薬がほとんどを占める。湿布が何気に人気)
・衣類(都会の人たちは服装のせいで地球人にしか見えない。だけどちょっと着こなしがヘン)
このようになっている。日本からの輸出品目はまだしも(それでも商品価値は高いので狙われないこともない)日本への輸出品は貴重なものばかりである(そのままでは使い道がないが)
しかし今回の敵(?)は一応国家機関である。いくら不利益があるからといっていきなり40mm機関砲をぶっ放すことはできない。非常に難しい任務であるが、警察機関である海上保安庁にぴったりの任務ではないか!!
と言って、護衛任務につく巡視船は白波を立てながら出航していった。これが一週間前の話である。
日本から出発した船団は南北に長い極東洋を東に南西に進む。北西から中央大陸の北を抜ける航路もあることはあるのだが、不安定な政治情勢が続く北部諸国連合の近海を通るということと、日本が整備した寄港できる港が少ないということで南西に向かう航路が一般的だ。
日本は初夏ではあるが地球よりは過ごしやすくなっていて、朝と夜は少し冷え込むぐらいだ。昼もちょっと暑いかなとは思うがムシムシしているようなことはなく、エアコンを使うほどの暑さではない。
しかし針路を南西にとった船団は、南世界の勢力圏に入ったあたりから不快な暑さを感じ始め、甲板の照り返しで制服のズボンは汗でベタベタしてくる。
「これが灰色の護衛艦だったらもっと辛かろう。」
と、白い巡視船に乗った海上保安官たちは言った。
中央大陸の下をくぐる形をとった船団は針路を北西に向けた。このまま進めば西世界である。しかしこれからがこの航海の難所である。
『検疫』という名の海賊行為が続出しているこの海域は航海の難所だ。
もっとも日本はその『検疫条約』か何かには加盟していないのだが治安の悪化していることに変わりはない。
そんな海域を進む船団は巡視船が辺りに睨みを効かしながら進んでいった。