41話 テレビ放送
よく考えたら転移してからかなり時間がすぎていると思います・・・時系列がやばいかもしれない。
ザッザッザッザッザッザッ
しとしと雨が降る中を革製の軍靴でぬかるんだ地面を踏みしめて移動する男達。雨にじっとりと濡れてはいるが、整えられた紺色の軍服は見るものに十分威圧感を与える。彼らの顔は・・・黒いマスクに覆われていた。
彼らはだだっ広い演習場のような場所に整列する。その数およそ1万名、その1万名の兵士達を前に一人の男が壇上に上がった。
壮年で彫りの深い顔、数々の戦歴を潜り抜けてきた歴戦の猛者を思わせる傷痕。締まった体は精強な兵士そのものだ。
壇上の男が口を開く。
「私が師団長に任命されたロバート・ガッセルだ。しばらく任務でこの国を離れていたから先日の演習に参加できなかったな。
君達の中には私の事を知らない者も多いだろう、というか私の経歴を知らない者がほとんどだな。俺は昔兵士だった。そこで俺はある国との戦争を体験した。残酷で悲惨でそして栄光を掴み取った戦争だった。俺はそんな戦いを経験してきた、君たちもその内戦争に行くことになるだろう。
その時は必ず勝利を掴みとる。相手の国を討ち亡ぼす。常に忠誠を。」
彼は壇上から降りると僅かに口元を歪める。彼の口元は雨水で濡れていた。
『こっここ、このテレビをご視聴の皆様。こっここんにちは。世界放送です。』
このカミカミな放送が画面から流れたその時、歴史が動いた。
この世界で初めて(日本以外で)テレビ放送が一般向けに始まったのである。もちろんカラーで。
東世界と、西世界の一部で放送が始まったテレビ放送であるが、視聴できるのはごく一部の富裕層に限られる。
放送を行うのは世界情報社の子会社の『世界放送』。技術的な支援(というか殆どを)日本のテレビ局各社が協力している。
もちろん日本のテレビ局も同時に海外向けの放送を同時に開始することになった。
このテレビ放送の開始も国会で何気に揉めた。
『日本の技術の積極的な異世界への売り込み』
を唱えていた野党数党であるが、与党と他数党が海外向けテレビ放送の開始を訴えると突如として反対に回り『テレビの中の電子機器の技術が・・・』等の反対意見を展開、新設された『転移等対策委員会』(当初は『異世界対策委員会』だったが、「ここはこの世界で異世界ではないだろう」という極めて分かり難い意見の為『転移委員会』になった)の議場は紛糾した。
しかし海外向け放送を東世界と西世界の一部に限るということ、電子機器等からの技術流出についてはメーカー間で独自規制を行うと言うことで野党の一部が理解を示し、ついに海外向け放送が始まることになった。
で、この世界で最初に放送された番組はなんと『テレビの使い方』
そもそもそれを知らないと見れないような気がするが・・・。スポンサーについては募集中である為、各局とも異常にCMが少なかったりする。
世界情報社というほぼ中立的な多国籍企業によって世界の情報網は高速化していたが、このテレビの放送開始によって大きな変化を迎えた。
『情報伝達のリアルタイム化』
今までは情報を知るのはどんなに早くても1日のタイムラグがあった。しかしテレビ放送による『生中継』はリアルタイムである。それは別の国で起きた出来事が、良い意味でも悪い意味でも自国に即刻影響を与えることになる。
そしてもう一つ
『受け手による情報の選別』である。
今まではほぼ中立的な1社による情報の提供だったが、チャンネルの変更という行為によって受け手が情報をある程度選別することができるようになった。
『・・・では今日の天気です。』
テレビ放送によって各国が受けた恩恵の一つに天気予報がある。気象庁と各国の漁業組合などが協力することで広範囲の天気予測が可能になった。その情報はお天気情報としてテレビ放送によって提供される。
その天気予報を各町の新聞(というか回覧板)が写して各家庭に提供されるようになった。
「明日は雨か。馬車をイノバの物置にしまっておくか。」
もっとも金持ちはそのままテレビで見るが。(生の天気予報は一種のステータスになっている)
そんな感じで始まったテレビ放送。さてどうなって行くのか・・・
かなり短かったですね。この話はどちらも先につながるものです。
そろそろ折り返し地点かなぁ