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『異』世界の警察 日本  作者: かり助
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39話 海外旅行(1)

観光。それは日本の産業の一つと言ってもいいものである。外国人旅行者数のピークだった2020年は3400万人を超え、その経済効果も莫大なものになった。オリンピック後も様々な業種が外国人旅行者向けのサービスに参入し、観光業が我が国の一大産業として一躍脚光を浴びているその頃、日本は転移してしまった。


転移後の不況から工業系の業種は復活してきたものの、訪日してくるのが外交官だけでは外国人旅行者向けの観光業は回らない。なんとか国内の旅行で首の皮一枚繋がっている状態だった。



「本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決しました。」

衆議院本会議場で議長がそう言う。与野党が共同で国会に提出した『出入国規制法の一部を改正する法律』は異世界転移後、国内の治安維持と検疫のために慌てて策定した『出入国規制法』の出入国の条件を改正して緩和し、観光業の振興を行おうと言うものである。

これによって日本国籍を持つ日本人は租借地以外でも外国(東世界の許可された国のみだが)へ観光を目的とした出国を行うことができるようになった。

また外国人の日本への入国も

①日本と国交があり、日本の入国を認めている国の国籍を保有していること

②日本政府が身分証明に足ると判断する身分証明書を所持していること

③過去の犯罪歴に問題がないこと

などの条件を満たせば入国ができるようになっている。(租借地の入国条件はこの世界の慣習上これよりも緩い)

しかしながら日本に行くまでの手段である客船や航空機の旅費が外国人には高い上に、身分の証明などが難しい為、日本に入国できるのは貴族か、名の知れた商人ぐらいなものでしかないが、これから外国の身分保障制度が確立していけば将来的に日本に入国できないことはなくなるだろう。

しかし以前として出入国の際の税関は前世界と比べてもかなり厳しくなっていて、外国人旅行者が技術優位維持法に抵触するようなものを持ち出せないような仕組みになっている。その為、『爆買い』に代表されるようなお土産による経済効果はあまり期待できない。(これについては徐々に緩和して行く方針)

ただしmade in japanの魔道具などは技術優位維持法の規制対象外なので、それを生産するメーカーなどは魔道具の売り上げに期待感を示している。



チリンチリン

豪華な服を纏った男が手元の鈴を鳴らす。男は見るからに高級そうな木の椅子に座りながら鈴を鳴らした。

「はい、ただいま。」

執事が男の部屋に入って来ると早速男は執事に声を掛けた。

「昨日の夜、舞踏会で聞いた話なのだが、ニホンに観光に行けるようになったと言う噂を聞いた。それは本当か

?」

「はい本当で御座います。」

「そうかそうか。俺の友人が使節団として日本に行った時の自慢話を聞いてから気になっていたんだが、そうか・・・我は行けるか?」

「それは日程にもよりますが、行く為に必要な事を調べますので、数日要しますがよろしいですか?」

「ああ、それぐらい良い。我もそれまでに日程の調整をしなければな。」

その後少し公務の話をした後執事は男の部屋を出て来ると、待ち構えていた執事たちに小声で言う。

「旦那様は本気でニホンに旅行に行くそうだ。」

その後執事たちは大慌てで旅行の準備を始める。旅行とは言え一人の貴族がするとなればそれなりの大きなイベントになる。ある執事は日本についての下調べの為に外務局に走り、またある執事は旅行の予算を組む。そんな光景が東世界の殆どの国で見られたと言う。



さて所変わってここは日本。各種メディアによって、来月から海外旅行が出来るようになったと言うニュースが報道されると、たちまちインターネットの旅行代理店のHPにはアクセスが殺到することになった。

『飛行機で行こう!!サーミト王国、三泊四日の旅』『ビーマイト共和国の美しい自然を楽しむ二泊三日の旅』

『チェラミ公国、美しい首都を観光する一週間の旅』

など・・・


サーミト王国以外は空港が整備されていない為、(サーミト王国には空港がある)船の旅となる。海外から日本に来る観光客は飛行機に慣れていないと言う配慮(空港の設備の不足と言うこともあるが)から船の旅のみとなった。

瀬戸内海や日本海など日本の近海をチマチマ航海していた、大型客船はようやく本格的な仕事につくことになり、次々とドックに入り、点検整備をする。




「ん?海外旅行か・・・」

日本の(独身)貴族の岡部はネットサーフィンをしていて海外旅行が解禁されたと言う記事を見つけた。転移前には一年に一回ぐらいは海外旅行に行っていた岡部だったが、『そろそろ金も貯まったし海外旅行に行ってみるかぁ』と思っていた矢先、日本は転移してしまった。

「面白そうだな。宿とかどんなだろうか?まさか藁のベットとか・・・いやでもそれはそれで面白い体験だな。」

岡部は早速、海外旅行の申し込みをするのだった。



日本からの旅行客到着日

普段は貨物線と護衛艦ぐらいしか停泊しない港に大きな客船が入港してくる。日本からの観光客を乗せた船だ。ちなみに午後には、このチェラミ公国の旅行客たちが乗り込み日本へと出港することになる。


「うひゃー、転移後大気汚染が少なくなったとは言え、空気がうまいなぁ。」「移動は馬車なんでしょ。初めて。」「この国に来たら魔法が使えるようになるのか?クッ、俺の右手がッ!!」「そう言えば携帯とかカメラとか充電出来るのかなぁ。」


観光客はぞろぞろと馬車乗り場や街に向かってに向かって歩き出す。その様子を港の影から見ている人がいた。

「時間を間違えて港に早く着きすぎたが、何なんだあの観光客の数は。日本にはこんなに貴族がいるのか?」

この世界では海外に行くことができるのは政府関係の人間か、貴族、大きな商人ぐらいのものなのでそう感じても無理はない。

「カルティーア様、時間もありますし、他の国の貴族の方々と関係を持っておくと言うのはいかがでしょう?」

執事の男がそう提案する。

「そうだな。しかしあんなに居ては誰に話しかければいいのか・・・あそこを一人で歩いている男にしよう。」

チェラミ公国伯爵のカルティーアはその男、岡部に近づいて行った。

「こんにちは」

近づいて来たカルティーアに岡部は挨拶をする。

「こんにちは。どうも私はカルティーアです。お見受けした所どうもあなたも貴族の方のようですが・・・」

「えっ、バレちゃいましたか。まあ見ての通り(独身)貴族です。ハハハ。」

「おお、予想通り。お名前をお伺いしても・・・」

「岡部です。この国には初めて来ますが、美しい国ですね。」

岡部が辺りを見回しながら言う。

「そうですね。私もそう思います。しかし『この国には』と言うと・・・今までにも何回か海外に行ったことがあるのですか?」

「ええ、海外旅行が一つの趣味みたいなものだったので。」

「それは凄いですね・・・。」

「そうですかね?この国も楽しみますよ。あっそうだ、この国で『絶対に行っといた方がいい』と言う所はありますか?」

岡部が神妙な顔をしながらカルティーアに聞く。岡部は相手が本当(・・)の貴族だと言うことに気が付いていない。

「そうですねえ、首都のグェルフィ通りがおすすめですよ。」

「なるほど。ありがとうございました。」

結局岡部は相手が誰かに気づかずに去ってしまった。まあそれはカルティーアも同じであるが。

「カルティーア様、行ってしまいましたが。」

執事の男が声をかける。

「まあ、いいのさ。ニホンには一期一会(イチキイチアイ)と言う言葉があるそうだしな。」

妙な日本語を知ってしまったカルティーアであった。



「ふーん、こんな建物があるのか。」

パシャッ

「あっ、この屋台に売ってあるのは・・・焼き鳥みたいなものかな。とりあえず・・・」

パシャッ

「変わった動物だなぁ。」

パシャッ

「こんなところに自転車があるじゃないか。日本から輸出されたものかなぁ?」

パシャパシャパシャ


日本人観光客の特徴とも言えるカメラを片手に街をぶらぶら歩く岡部。前世界では見慣れたものだったが、この世界ではなかなかの『奇行』である。

「んっ、お金が紙幣じゃないから重いな。調子に乗って両替しすぎたな。」

カバンの中に入れた財布がわりの巾着袋の中身が重い。そう考えると紙幣とは凄いものだ。

しばらくぶらぶら歩いていると港でカルティーアと話をした内容を思い出し、近くの屋台で一人焼き鳥を食べて居た男に話しかける。

「グェルフィ通りってどこですか?」

「ええ!!あんた・・・いや貴方貴族なんですか。」

ここで岡部は考えた。

(まさか、『貴族』って俺の方の貴族じゃなくて、マジモンの貴族かよ!!!)

一応場所を聞いたものの行く気を無くした岡部であった。









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