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『異』世界の警察 日本  作者: かり助
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37話 北の国では・・・ (4)退却戦

首都バースでの食料の配給は、栄養状態を劇的に改善した。

エネルギーバーなどのかさばらないものが中心となったが、クソ寒い冬の1日の家族の食事がパン一切れだった今までの状況からしてみれば安定したとも言っていい。


「今日の食料の配給です。」

トラックから次々と箱を下ろして、自衛官が配っていく。今までは群がっていた人々だったが、最近は自発的に列になるようになった。首都のバースでは石畳の道に雪が積もり始めていて、自衛官の息も白くなっていた。


「寒いですね。柳生士長。」

食料を配りながら米本1等陸士が言う。細かい作業がやりにくいため、彼のグローブは外されていた。

「まあ北海道より緯度が高いからな。それでも俺たちはちゃんとベースもあるし、寝床もある。だがここの人たちはそんな設備も整ってないからな。辛いだろうな。」

柳生士長が答える。

「そういえば柳生士長は中東派遣の経験がありましたね。」

「ああ、転移の一週間前に帰ってきたやつだ。あれはな・・・酷い戦闘があった。そんな中、俺たちに助けを求めてきた人が居たんだが、軽装甲車に必死にしがみついてきたんだ。だけど俺たちは何もできなかった・・・。俺はただの一兵卒だから勝手な行動は許されない。だが何かな・・・。」

「すみません。嫌なことを思い出させてしまって・・・。」

「いや、いいんだ。ほらっ、それより作業が遅れてるぞ。」

「はい。」



食料配給もひと段落した頃、そろそろ撤収しようかと思って居た時に異変は起こった。

「ん?兵士?」

鎧を着た兵士達がこちらに向かってやってくる。

「お前達はどこの許可を得てそんなことをやっているんだ。」

「クルキトン国政府の許可を得て居ます。こちらに証明書のコピーがあります。」

「そんなものは認めない。ふんッ!!」

彼らはそれを一瞥すると破り捨てる。同時にトラックのタイヤを蹴ったが、予想以上に硬かったのか痛みで顔をしかめている。

「ここから退去してもらおう。」

リーダー格の人間が言う。

「それはどこからの指示でしょうか?その命令書を拝見させてもらいたいのですが。」

佐久間中隊長が歩み出てくる。彼の胸ポケットにはICレコーダーが入っている。

「そのようなものは存在しない。」

特に誇るようなことではないのだが、リーダー格の人間が言う。

「それはでは到底承服できません。」

「いいのかな?実力行使になるぞ。」

そう言われた瞬間佐久間は一瞬言葉に詰まる。ここで戦闘を起こしては本末転倒だ。

「・・・本日はこれで撤収します。そちらの方針については外交ルートを通じて確認します。」

そう言うと佐久間は身を翻しその場を去る。

「佐久間中隊長、よろしいのですか?」

「ああ、ここで戦闘になっても困る。一度ベースに戻って状況判断を行う。」


自衛隊のトラックがエンジンをかける。軽装甲車が車列の前後について防護を行いながらベースへの帰路に着いた。

その時・・・


ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ


車列の最後尾を走って居た軽装甲車に火の玉が3つ命中する。衝撃で車体に設置されて居たエンピなどの工具が飛ぶ。

『中隊長より軽装甲2号車。報告せよッ。送れ』

『こちら軽装甲2号車、ゲホッ。後方より攻撃を確認した。機銃手の無事は確認。防弾ガラスにヒビあり。送れ』

『了解した。全速で離脱する。反撃については上に問い合わせている。送れ』

『・・・了解。送れ』

「くそッ。明確な攻撃を受けているんだろうが。なんで反撃できないんだよッ。」

通信を切ったあと運転手はハンドルを叩く。

「落ち着け。俺だって悔しいんだ。」

車列は速度を上げて現場を離脱する。


『こちら中隊長、軽装甲1号車は前方に異常ないか?送れ』

先頭を走る軽装甲車に異常の有無を確かめる。

『前方には異常な・・・、おいっ機銃手どうしたッ?』

『何があった1号車報告せよ。送れ』

『首切りトラップです。ワイヤーカッターのおかげで切断はできましたが機銃手が負傷。送れ』

佐久間は上の判断を待っていられないとして決断する。

『全車、停止せよ。軽装甲は周囲警戒。警戒要員は下車し警戒せよ。武器の許可する。送れ』

その命令が無線で飛ばされたすぐ後に先頭車両から停車していく。護衛要員はすぐに車両から下車し周囲を警戒する。



「展開が早いな。しかし停止か・・・。しかも兵士が警戒しているな。武器の使用許可も出ているだろうな。」

一人の男が物陰から自衛隊の展開を伺う。迷彩柄のブランケットを被った彼はそう呟く。

『ザザッ・・・隊長。攻撃はどうしますか?』

男が手に持った通信魔石から本隊の声が聞こえる。

「A小隊は散開しろ。機関銃で一気にやられるぞ。B小隊はA小隊の攻撃の直後に攻撃を加えろ。」

『ザッ・・・了解。』

「・・・殲滅してやるぞ余計なお節介をしてきた日本人ども。俺の夢の為にな。」



「ん?なんだこの音?」

ひとりの自衛隊員が何かに気づく。

「どうした?」

「いや、気のせいか変な音が・・・。」


ドドドドッウンンン


車列の前方に大きな閃光が走ると同時に、周囲を警戒して居た数名の隊員が爆風に吹き飛ばされる。軽装甲機動車もグラリと揺れる。


「おい、前方で爆発だ!!」「警戒しろッ」「マジかよ・・・」

後方の部隊に動揺が広がる。

その時・・・

「おいッ、3時の方向、人影だ。敵性勢力の可能せ・・・」


ヒュッ、ゴッ


そう言いかけた隊員のテッパチ、いや頭部が地面に転がる。

「あれは敵だ。射撃しろッ。」

誰が言ったのか分からないが、各自がその声により、現状を認識する。


パパパパ、ババッ、ババッ


各自が敵性勢力の方向に射撃を始める。湿った地面に薬莢が落下し、ジュッっと音を立てる。

いつの間にか敵性勢力も本格的な反撃を開始し、魔法攻撃と曳光弾の光が雑木林の中ですれ違う。


「トラックに乗っている隊員は降車し反撃しろッ。降りたら直ぐ伏せろ。死ぬぞ。」

ベテラン陸曹にどやされながら隊員が自分の小銃を手に取り、トラックから飛び降りる。図体はでかいくせにそこまで丈夫でもないトラックは乗って居ても狙われるだけだ。


物陰から敵性勢力を狙い、小銃を撃つもの。トラックから防弾盾を引きずり出し、即席の遮蔽物を作るもの。負傷した仲間をドラッグハンドルを使って退避させるもの。

時折魔法攻撃の着弾で土が舞い上げられ、隊員にパラパラと降りかかる。


「大隊本部。今、攻撃を受けている。迫撃砲による支援攻撃を要請する。座標を送信する。」

『それは上に判断を仰いでる最中だ。できない。送れ』

「てめぇそれで隊員が死んでいくんだぞ。貴様はそれが分かってるのか。上に判断を仰ぐならこの戦場(・・)の生中継でもしろ。言葉で伝わるんなら今頃ベースの中だッ。」

『・・・わかった。1分後に射撃を開始する。着弾修正の指示を頼む。送れ』

通信をしていた佐久間は無線を切る前に部下に言う。

「迫撃砲がくるぞ。注意しろ。」

今、自衛隊史上最大の退却戦が始まった。















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