36話 北の国では・・・(3)人道支援開始
「・・・では自衛隊派遣をするということですか?」
「はい。政府といたしましては『人道支援』を第一の任務として自衛隊を派遣することを決定しました。」
その言葉の後、記者会見の会場にはカメラから出るフラッシュが激しく輝く。この世界で初めての『人道支援目的』の自衛隊海外派遣となった。
今回の自衛隊派遣では在日米軍の演習と重なったため、おおすみ型輸送艦2隻が使われることになった。そのため、大規模な部隊を送ることはできないため、第一陣部隊の派遣後、一週間後に第二陣部隊を派遣することになった。
受け入れ国はクルキトン国となっている。
岸壁に接岸された『おおすみ』と『しもきた』に次々とトラックが進入して行く。周囲にはマスコミのカメラが陣取り、自衛隊の海外派遣の様子を写し取る。
『おおすみ』と『しもきた』の艦内の奥、作業がマスコミに公開される前に進入した『73式特大型セミトレーラ』。シートを被せられた荷台に乗っているものは・・・
岸壁を離れて行く輸送艦。港にいる人々は手を振ってそれを見送る。
出航した2隻は、日本海で護衛艦と合流し、クルキトン国へと向かう。荒れた冬の日本海の波に揉まれながらも北上し、クルキトン国に到着した『クルキトン派遣隊』第一陣はLCACとオスプレイで上陸を行う。
「風が強いからな、幌から顔出すなよ。」
部下に声をかける天見小隊長はビーマイト戦役で、帝都上陸部隊として戦った経験がある。ウエルデッキのランプ扉が開き、海水が満ちてくる。
誘導灯を持った誘導員が指示を出すと、LCACのガスタービンエンジンが出力を上げ、艦内にも轟音が響く。
「ちょ、うるせえ。耳栓貸してくれ。」「え?何だってッ?」「みみせん!!」「え?何だって?」
発進したLCACは浜を目指して海面を滑るように進む。
ガザッ ザザザザザ
砂浜に乗り上げたLCACのランプ・ドアが開くと、誘導員が走り降りてきて車両が降ろされる。浜に展開されたLCACの数は4隻。降車が終わるたびにLCACは輸送艦に戻り、またトラックを乗せて浜に戻ってくる。
上陸を終えた部隊は仮宿営地に向けて歩みを進める。まともな道も整備されていないここでは、道のりは楽なものではない。鬱蒼とした森を抜けるに当たって、大まかなルートしか示されていない彼らは、獣道を通り、前方に落石があれば迂回し、木が生えていれば切り倒しながら進む。先行している警戒班の報告は悪路の状況ばかりであり、肝心の(無い方がいいのだが)戦闘状況の報告は一切なかった。
宿営地に部隊が到着すると、ベース設営のために天幕の展開などを開始する。トラックからズルズルと引き出したテントの生地を伸ばして広げて行く様子を物陰から眺めている者がいた。
「・・・余計なことをしやがって。」
そう呟くと彼は足早に去っていった。
夜
宿営地ではまだ、仮設風呂なども設置されていないので、不寝番を置くと、小隊ごとに固めて張った個人用天幕の中に潜り込む。隊員たちが抱いているのは、抱き枕ではなく、重く硬い小銃。『ここでも使うのか?』彼らはそんな気持ちを抱きながら眠りについた。
翌日
起床の号令がかかると隊員たちは天幕から起きると、行軍の準備がをし、隊容検査が終わるとトラックや装甲車に分譲するとクルキトン国の首都であるバースへと走り出す。宿営地(設営中)に残った隊員たちは設営を続ける。
クルキトン国首都 バース
「おい、あれは何だ?」「こっちにやってくるぞ。」
見慣れぬトラックを見て慌てる人々。しかし食料の供給も十分では無い現在の状況では、走って逃げるようなことはできない。
「今から、食料の配給を始めます。こちらの隊員の指示に従って並んでください。」
「食料の配給?」「あれはどこの国だ?」「ニホン?」「金が取られるのか?」
始めは並ぼうともせず、遠巻きに配給の準備を見ていた彼らだったが、その大人たちの集団の中から一人の男の子が歩み出る。
「・・・食べ物、ください。妹もいるので、二人ぶん。」
戦闘に巻き込まれたのだろうか?傷だらけになった彼にパックに入ったレトルトの食品を袋にいれて渡す。
「こっちにおいで。傷の手当てをしよう。妹さんも連れてきて。」
「・・・わかった。」
こうして首都で自衛隊の本格的な活動が始まった。しかし不穏な影も迫りつつあった。