28話 新領土開発(1)
ビーマイト戦役後、日本はビーマイトの領土の一部を租借地とした。その後その租借地は正式に日本の領土となることになった。
サーミト王国他にある租借地の行政は東京都が担当しているのに対して正式な領土になったためその地の行政に関しての問題が発生した。
東世界大陸の東にある島。それが日本の新しい領土である。九州から西に800kmほど行った所にあるそこの名称について悩んでいる男たちがここにいた....
「まさか自分たちで新しい都道府県の名前を考えるとはな・・・。」
「なかなか思いつかないものだ。」
全閣僚が出席した『新領土行政会議』別名『とりあえず名前だけは考えよう会議』は開始早々行き詰まっている。
「あの半島のビーマイトで呼ばれている名前からとったらどうですか?」
財務大臣の石井が言う。
「確かボーロック半島。ふる〜〜〜〜いビーマイトの言葉で『東を睨む』と言う意味だったな。」
外務大臣の岸根はそこまで調べている。が、そこまでである。何か妙案を持っているわけではない。
短くはない政治家人生の中で最初で最後になるかもしれない仕事なのにだ。
「ならば『東を睨む』なら言い方がキツいから『東を見る』で『東見道」なんてどうだろう?」
官房長官の今田がそう言うと「おお」と言う声が上がる。
全員『それっぽいしいいかも』と安直な考えが頭に一瞬浮かぶ。
「よし、なら『東見道』に決定だ。」
伊佐元がそう言って会議を締めくくった。
と言うわけにも行かなかった・・・
「いや、締めくくった感じにしたのはいいんですけどね伊佐元さん。名前決めるだけじゃないんだが・・・。」
岸根が突っ込む。
「そうだったな。次の問題は・・・元々住んでいた人の問題か。確か700人ぐらいの農民が住んでいるんだったな。領主はどうなった?」
伊佐元はさっさと切り替える。
「領主は辞任という名の更迭ですね。」
補佐官が教える。
この地を治めていた領主は日本によるいわゆる占領行政の過程で『コイツは取り替えた方がいい』リストに載った1人だ。
総務省の人間が出向し占領政策を画策しているがこのような者たちがビーマイトには数多くいる。
「日本国籍は大帰化とかで与えられんこともないが・・・行為能力や選挙権の問題があるな。」
法務大臣の吉家がいう。
「ひとまず永住権を与える形にするのはどうだろうか?」
「まあそうなりますよね・・・。地方選挙の権利は永住権保持者にも認めるという判例がありますが・・・数年は地方選挙等は難しそうです。それはこの際仕方ありませんね。」
「ゆくゆくは日本に帰化させると言うことだが・・・雇用先はどうするのだ?民間企業の誘致と言ってもいつになるかわからんぞ。」
伊佐元が今田にきく。
「それについては『新資源開発機構』を立ち上げそこが雇う計画です。」
今まではこの世界での資源開発は大学や研究機関、政府組織がそれぞれにチームを作り開発を行ってきたが、『東見道』設置に伴い『新資源開発機構』に一本化することになった。元々は『開発庁』にする予定だったが民間企業や大学との柔軟な運営を目指して独立行政法人となった。
「教育機関について文科省はどうするのだ?」
「とりあえずは小中一貫校が2校です。そして高等教育機関が2年後をめどに1校開校。そしてだんだんと人口増加に合わせて増やしていく方針です。」
文部科学大臣の手塚が今後の方針を述べる。
こうして48番目の都道府県東見道は始まった。
東見道とビーマイト共和国の境、つまり日本とビーマイトの国境は大きな橋の真ん中にある。
今までは古ぼけた木製の吊り橋だったのが日本政府によって新しく作り直されて、車両の通行も可能な大きな橋に生まれ変わった。その橋の大きな特徴は橋の真ん中に大きな門が設置されていることで、日本とビーマイトを隔てていることだ。
極秘事項だがこの橋のワイヤーの付け根には爆薬が設置されていて有事の際は橋を落とすことが出来るほか、有事の際は戦車の通行も可能となっている。
そんな橋でビーマイトと切り離された新しい日本の領土、『東見道』を管轄する東見道庁ではある審査が行われていた。
「まずはこの書類に自分の氏名、生年月日などを記入してください。書けない方は代筆でも構いませんが審査の際に本人確認させていただきます。何か質問がありませんか?」
「俺、生年月日わかんないんだけど、どうすりゃいい?」
「その場合別の手続きを行うのでこちらの部屋に移動してください。他にも生年月日などがわからない方はこちらにお願いします。」
新築の東見道庁舎では日本の永住権取得のための住民手続きが行われていた。
初日とあってか皆慣れておらずザワザワとしている。
「あああ、こんなのやってられっか。」
男が途中でめんどくさくなってペンを放り投げキレた。そこまでは良かった(のか?)のだが周りにあたり始めたのである。
「はい〜ちょっと君こっち来てね。」
庁舎のロビーにやって来たのは新設の『東見道警察』機動隊。このような事態を予測していて制服姿の50人程度が配置されていた。
警官に引きづられて出て行くのをみた他の人たちは順調に手続きを進めたと言う。