26話 武器輸出解禁と記念式典(1)
ここ数日、ゆっくりとですが1話から修正を行っていってます。話が大きく変わらないレベルなので大丈夫です。
サーミト王国。日本が異世界転移後初めて接触し国交を樹立した国で、日本が輸入している食料は多くはここが産地である。近所のスーパーに行けば『サーミト王国産』と書かれた食べ物を多く目にする。サーミト王国内には日本の租借地があり、多くの日本企業が進出し、日本人が最も生活している国でもある。(租借地は実質日本の物だから本当は日本国内で日本人が働いていると言うことになるのかもしれないが)
数ヶ月前には列強国だったビーマイトに侵攻されかけたが自衛隊がそれを防護すると言う軍事的な結びつきも強くなってきた。
そんな中ビーマイト戦役後異例の速さで可決、成立、施行した法律があった。
「本案は賛成多数により可決しました。」国会に議長の声が響く。伊佐元総理は自分の席から立ち上がり礼をする。
議席の一部には空席があるがそんなことは構わない。といった感じだ。
『防衛装備輸出制限法』つまり他国に武器を輸出ことについて書かれた法律だ。日本と密接な関係があり、その国の存続が脅かされるようなことがあったときいつでも自衛隊がその国を集団的自衛権を行使して守れるとは限らない。ならば武器を輸出しようじゃないかという法律である。民平党を中心とした野党から激しいバッシングがあったものの、自明党は野党法案反対派の一部を切り崩して成立させた。
もちろんこの法律が施行されたからといって極端な話、『イージス艦をはいどうぞ』と言うわけにはいかない。転移後すぐにできた『技術優位維持法』との関わりもある。
(『防衛装備移転3原則』は無かったことにさせてもらいます 作者)
そしてサーミト王国への輸出されるものが検討され始めた。
「自動小銃は・・・ダメなんだな。いくら機構部分をブラックボックスにするとはいっても。」
「後装式で単発のライフルぐらいか?」
「それぐらいかな。民間の猟銃に手を加えたものって感じになるな。メーカーへ説明がいるな。」
「航空機はプロペラ機が認められてるんだろ。零戦みたいなのは輸出できるのか、機銃ついてるけどいいのか?」
「航空機から取り外せないようにすればいいらしい。航空機は武装の制限、エンジン出力の制限・・・めっちゃあるな。メーカー大丈夫か?」
「自衛隊の新型練習機と1本化するらしいな。多分大丈夫だろう。」
おっさんたちが分厚い書類と二週間格闘し、サーミト王国の要望も踏まえ輸出品目が決定した。
陸上装備
・小銃 単発後装式、民間の猟銃の改造。
・ヘルメット 66式鉄帽そのまんま。塗装は紺色。
・60式106mm無反動砲と73式小型トラック 5門のみ。
・高機動車(輸出型) エンジンやサスペンションの性能が若干落としてあるが、車体に常設の装甲板を設置し、(この世界基準では)装甲車として運用可能。50輌が輸出される。塗装は灰色。
水上装備
・ゴムボート 発動機は無し。
航空機
・F-1 S(戦闘機) 陸海空の自衛隊が訓練用に新たに調達を始めたPTM(Primary training machine)-1と機体のほとんどが共通化されたもので、今後も他国に売り込みをかけていこうとしている。
となった。製造は全て日本国内で行い、整備などは日本租借地内に作られる共通整備場で整備が行われることになる。
燃料や弾薬も日本から輸入となっていて、横流しなどされないように非常に厳しいチェック体制になっている。
陸上装備は首都ベルテラに駐屯する近衛師団から配備が始まる。(在庫の状況からヘルメットは調達の途中から88式鉄帽に変わる予定)ゴムボートは海軍の一部船舶に搭載されることになっている。
これらの中でメインとも言われる戦闘機は現地では『ゼロ』と呼ばれ(多分誰か日本の担当者が口を滑らせたのだろう)空軍の王都防空騎竜隊(これが配備されることによって王都防空飛行隊に変わる)にひとまず14機が配備されることになった。『ゼロ』に乗る予定のパイロット第1期生は日本で訓練をすることになっている。
装備が配備される日、王都では記念式典が行われることになり、王都防空飛行隊のデモンストレーションや近衛師団のパレードが行われる予定である。
「ミヌーテル国王陛下。それは誠ですか!?」王城内に側近の声が響く。
「もちろんだ。冗談を言うとでも?」椅子に座りお茶を飲みながらミヌーテルは言う。
「ははは・・・。閣下はすごいことをお考えになる。」
側近を悩ませていたのは記念式典の内容である。王都防空飛行隊のデモンストレーションや近衛師団のパレードならまだいいが、『自衛隊も参加させよう!!』とミヌーテルは言い出した。いくら友好国とはいえ他国の軍隊である。それが王都を行進なんてことになればこの国は一体誰が守っているんだ?と言うことになり、国家の威信に関わると言うのが側近たちの考えである。
「しかし、お前らはこの間まで『ジエイタイ』を手本に・・・とか言っておっただろう。」ミヌーテルがさらに側近に攻撃を加える。
「確かに言いましたが・・・。閣下はそれで良いのですか?」
「別に悪いことはない。租借地にジエイタイの基地があるから、今更とも言えるしな。」
『悪い人ではないのだが少々扱いづらいお方』家臣らのミヌーテルの評価だ。そんな彼が言った言葉は結局実行されることになる。
防衛省
「「サーミト王国で自衛隊の観閲ぅ〜?」」担当者らによって招集された会議が始まった。
「武器輸出の記念式典だそうだ。国王も出席されるらしい。外務省から伝えられた話によると『戦車でも護衛艦でも戦闘機でもかかってこいッ』だそうだ。」会議を取り仕切ってる男が言う。
「要するに陸海空全て持ってこいてか・・・。陸自は駐屯してるからいいとして、他はどうするんだ?」
「空自はサーミト王国に空港があるからOK、海自は『しなの』2番艦の『あかぎ』の就役記念も兼ねて向かうそうだ。」分厚い書類をペラリとめくりながら言う彼の目の下には大きな隈があった。
「王都の道幅とかは大丈夫なんでしょうかね?」
「それに関しては問題ないそうだ。ただ・・・」
会議は続く。
記念式典当日
はるか日本から演習を兼ねてやってきた航空機搭載護衛艦『あかぎ』護衛艦隊はビーマイトの港に停泊していた。
「すっげえ。これがニホンか・・・。」「でかいなぁ。なんなんだ?」「新聞に書いてあったが・・・実際に見ると違うもんだなぁ。」
たまにやってくる護衛艦(商船の護衛のため)は見慣れているが、『あかぎ』は違う。全長280m、基準排水量36000トンの空母だ。日本人でもビビるその大きさに、港には付近の街から多くの人がやってくることになった(噂では多くの農作業や商店がストップしたそうだ)
「これより、サーミト王国軍観閲式並びに新装備配備記念式典を行う。」壇上のミヌーテルが高らかにそう述べるとサーミト王国軍楽隊が国歌の演奏を始める。ホワワンと響くような独特の楽器によって演奏されるそれは人々の歌声と共に王都に響く。
「まずは王都防空飛行隊並びにリクジョウジエイタイ航空科、そしてコウクウジエイタイの飛行です。王都防空飛行隊はニホンから飛行機を輸入したことにより改名したもので・・・」
長い説明の後やっと飛行が始まる。
「北の空からコウクウジエイタイの戦闘機 F-15が進入してきました。」
人々(貴族も含む)は「北はどっちだ?」「こっちだ」「そっちは東だ馬鹿ッ。北はこっちだ。」と大騒ぎしながら北を探す。
グォオオオオオオオオオオオオ
「速っ!!!」「こんなのがニホンにはあるのか・・・。」
F-15は一瞬で上空を通過していった。一瞬の静寂の後に突然始まる音楽。この演奏は陸上自衛隊の中央音楽隊のものだ。この世界では聞くことのない音楽に人々は息をのむ。
それは『ワルキューレの騎行』だった。
空に響くバタバタと言う音、黒い塊が複数空を飛んでやってくる。それらが接近するにつれぼんやりとした輪郭が次第に明らかになる。まず進入してきたのはAH-1Sの編隊、陸上自衛隊の攻撃ヘリコプターだ。その後やってきたのはUH-1H/Jの編隊。陸上自衛隊が保有する航空機の約3割を占めるそのヘリコプターは見たことがある人も多いだろう。
それが上空を通過してちょうど演奏している曲が最高潮になったとき、北から進入してくる航空機がある。サーミト王国のシンボルの黄色五角形が描かれたその戦闘機。サーミト王国の新たなる空の守護神になるF-1 S。
「先ほど通過しました黄色五角形が描かれた航空機。これがサーミト王国の新たなる空の守護神です。通称『ゼロ』と呼ばれていて、現在ニホンから14機が輸入され、この王都の空を守っています。」
人々の歓声。記念式典は折り返し地点を迎えた。