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『異』世界の警察 日本  作者: かり助
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25話 サーミト王国租借地 魔獣襲来(2)

「放水車、放水始めッ」

その号令を受けると4台の放水車は一斉に放水を始める。強力な放水に魔獣の集団は一瞬侵攻の速度を緩める。


グォッポ、グォッポ


魔獣は口と思しき場所から放水された水を吐き出しながら苦しむも、動きは止まらない。

「射撃も継続しろ!!格闘戦までにできるだけ数を減らせ。頭にある紫の結晶を狙え。」

指揮車からの指示に隊員たちが拳銃で射撃を始める。しかしなかなか数は減らない。


「格闘戦に備えろぉ、警棒使用許可。絶対大盾落とすなッ!!」

「「おお」」


隊員200名は魔獣の集団に大盾を使って打ちかかる。その激しい殴打に魔獣の侵攻は止まる。

「おらおらおらぁ。機動隊舐めんな蜘蛛どもぉ。せいやっ。」

ベテランの機動隊員が大盾で魔獣の頭部にある紫の結晶を叩き割る。その瞬間魔獣は紫の煙になって消える。


すでにあちこちで機動隊と魔獣の格闘戦が起こっていた。ここまで乱戦になれば拳銃は使えない。大盾に警棒、さらにはガス筒まで使って魔獣に打ちかかる。


「はぁッ、あ、あ”あ”あ”あ”ぁ」

若い隊員の一人が不用意に盾を振り上げた瞬間魔獣の列に引きずり込まれる。そのあとに響くのはグシャッ、グシャッという魔獣の咀嚼音だ。

「こいつら、人を食うのか・・・。」薄々想像をしていた、が目の前で一緒に訓練を耐えてきた仲間が喰われる。それは現実感を一切感じさせない。たまに周囲から聞こえる悲鳴も同じ状況だろう。

「殺してやる・・・。」

周りの隊員が魔獣を取り囲み激しい殴打を加える。まるで理性を失ったようなその攻撃に魔獣は針金のような毛を付けた脚を振り回すがすぐに紫の煙となって消える。

会敵から30分ほどで機動隊は死者行方不明者11名、負傷者89名を数え、現場は血に染まっていた。たまに行われる放水車からの放水も効果的なダメージを与えれない。

「い、1中隊と2中隊の増援が来るぞ。」

指揮車の上から吉野中隊長が声を張り上げる。腰にはダランとホルスターから落ちた拳銃がぶら下がっていた。

本部はここの現状が良くないことから避難誘導に当たるはずの1中隊も投入を決定し、増援第2陣として次々と避難誘導をしていない一般の警察官を招集し補完機動隊を編成していた。

自衛隊の投入も決定され現在駐屯地に集結していってるが、市街地、さらに機動隊が魔獣と交戦中ということで『機動隊が撤退次第』攻撃をすることになっていた。しかし機動隊が撤退すれば魔獣は市街に侵入し、撤退しなければ機動隊の被害が増え続けるというジレンマに投入のタイミングを推し量っている状態だった。


増援の報を聞いたものの、機動隊側はジリジリと後退しており、魔獣の一部は市街地前のバリケードとして駐車してある人員輸送車に達するものもあり、車体は多くの傷を負っていた。

全体的には侵攻速度の早かった機動隊右翼側が押されており、負傷者、そして死者も増えている。右翼側を担当している吉野中隊長も指揮車から降り戦闘に参加している。

「中隊長ぉぉぉ。」

吉野が魔獣一頭を紫の煙にした直後前にいる隊員が絶叫する。後ろを見ると魔獣が脚を大きく振りかぶり襲い掛かろうとしていた。

「おりゃぁぁぁッ。」吉野はとっさに大盾を構えその脚を受け止める。体に走るその衝撃に顔をしかめる。

再度魔獣は脚を振り上げる。吉野はフッと自分の持っている大盾の持ち手を見るとそのネジが緩んでいる。あと一回が限度だろう。

脚が振り下ろされる。持ち手がガタガタする大盾をとっさに構えるとそのポリガーボネートの盾越しに魔獣と自分の間に飛び込んで来る人影が見えた。

「くはッ・・・。」体重を掛けて魔獣の攻撃を受け止められなかった為彼は地面を転がる。吉野はとっさに拳銃で魔獣の額を撃ち抜いて紫の煙に変える。跳弾や貫通することは全く考えてなかった。

「馬鹿野郎。俺を助けるぐらいなら他のやつを助けろよ。」振り返って吉野が先ほどの隊員に言う。しかしそこに彼の姿はなく、割れたヘルメットと大盾が落ちていた。

後ろに感じる大きな気配。血なまぐさい風がかかる。吉野は人の足を口から垂らした魔獣の姿が最期に見た光景になった。



1中隊、2中隊が増援に到着した頃には3、4、5、6中隊は死者行方不明者36名、負傷者141名に達し、右翼を担当していた3中隊(吉野中隊)は壊滅した。機動隊は1中隊、2中隊の支援を受け撤退を開始。戦場は完全に市街地に入った。


「自衛隊が到着しました。」伝令の声が臨時の指令所に響く。吉野中隊長以外の5人の中隊長が集まったその指令部では今後の機動隊の撤退(・・)の作戦が練られていた。


「損耗の少ない1、2中隊の支援のもと撤退は行えたが・・・。この撤退でどれだけ被害が出たか。」4中隊の高田中隊長が言う。彼のヘルメットには大きなヒビが入っていた。

「一般警官による増援も到着しましたが・・・。被害が大きすぎます。我々の後方支援を中心にさせるべきでは?」5中隊の森田中隊長はこの中で1番若い。彼の大盾には魔獣のものではない赤黒い返り血が付いていた。

「自衛隊の攻撃はここではできません。まだ開発途中で空き地の多いここからさらに後退した第8区のみで許可されています。そこまで機動隊は全力で後退しなければなりません。しかし先ほどの撤退では殿を務めた2中隊は未帰還者が多かったと・・・。」

「そうだ。森田。俺たちはなぁ、俺たちはなぁ。殿を任されたせいでなぁ・・・。」2中隊の佐都紀中隊長は今にも掴み掛かりそうな形相で森田を睨む。

「落ち着け佐都紀ッ。」

「ああ。すまない・・・。」

「誰かが殿を務めなければならない・・・。この市街地を生かして、建物の角を曲がりながら魔獣を翻弄しつつ第8区まで撤退。そしてそれにつられるようにやってきた魔獣を自衛隊が攻撃すると言うのはどうだ?単純な作戦だが市街地の利を少しでも活かすにはそれが良いのではないか?」高田が言う。

「そうだな。まずは一般の警官で編成された補完機動隊を撤退させ、我々が各種車両を障害物にして時間を稼ぎつつ、先ほどの高田中隊長の言った作戦で撤退する。それでいいな?」最高指揮官の神田が決断する。

「「はい!!」」

画して機動隊は第8区までの撤退作戦を行うことになった。



「撤退だー、撤退するぞー。第8区まで撤退。道を曲がりまくって魔獣を翻弄しろぉー。」現場の小隊長に伝達されたその命令によって、機動隊は撤退を開始する。人員輸送車は50人も乗せて動けるような状態ではないので、最後の奉公として撤退の時間を稼いでもらう。

「大盾ひっ担いでさっさと走れぇ。」

周囲は満身創痍となった隊員たちが大盾を担いで撤退していく。目指すは第8区、しかし勢いに乗った魔獣の攻撃をかわしながら撤退するのは容易ではない。

「うわあ”あ”あ”あ”あ”」

撤退するタイミングを逃した隊員が魔獣の集団に引きずり込まれる。しかしそれを助ける余裕はない。

「走れッ、走れッ死ぬぞぉ。」もはや撤退とも言えない敗走と言う状態だった。


「そこ右に曲がれッ。」

角を曲がり、魔獣の攻撃をかわす。重い装備を背負ってダッシュにカーブはなかなかキツイ。絹のマフラーで縛った傷口からは血が滲む。

「あっ!!」

隣にいた隊員がカーブの時にバランスを崩して倒れる。そしてすぐそばまで迫っていた魔獣の脚が彼を絡め捕った。

「グァア”ア”ア”ア”ア”ア”助けてくれぇ」

人のものとは思えないような悲鳴を後ろに聞き、罪悪感を抱きながらも小隊は走り続ける。

「・・・すまない・・・・・・。」

誰かが小声でそう呟いた。



時間にして15分ほどの撤退で被害はさらに拡大。死者行方不明者51名、負傷者230名になり、日本が異世界に転移後の戦闘の中でもっとも被害が大きいものとなった。

その後の自衛隊の攻撃により魔獣は全滅。この世界の基準で言えば被害はかなり少なかったものの、自衛隊の投入の遅れにより拡大したこの甚大な被害は日本政府に租借地、および外地の防衛について検討を余儀なくされることになった。



魔獣襲撃から1ヶ月後

サーミト王国租借地行政所前の広場ではこの襲撃の犠牲(警察官51名、民間人2名)の合同追悼式が開かれることになった。

その後行政所には慰霊碑が建立された。この慰霊碑はこの先もずっとこの事件を伝えていくことになる。


この魔獣襲撃を受け政府は外地の警察は自衛隊との共同訓練を促進させ、このようなケースがまた起こった場合に備え

自衛隊投入のタイミングなどの基準の『外地における自衛隊投入基準法』、『外地警察における装備特別法』が制定された。ここサーミト王国租借地では租借地内に自衛隊の分屯地が設置され、サブマシンガンなどの『特殊銃』がより多く配備されることになった。












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