24話 サーミト王国租借地 魔獣襲来(1)
最近忙しくて投稿ができませんでした。内容のレベルもあまり良くないかな・・・。
アスファルトの道路に美しく管理された街路樹。建っている建物は見た目も機能性も優れたものだ。
人や車が道を行き交う。だがここは日本ではない。
サーミト王国に作られた日本の租借地には既に日本街が作られていた。
経済的交流も盛んなサーミト王国には多くの日本企業が進出、店舗を構えている。
そこでは多くの日本人が働き生活をしていた。
租借地というのはもはや名目上の物になっていて、『999年間日本円で10円で日本が租借する』と言う物であった。実質植民地である。
そこの統治権は日本が持っているわけで・・・
「泥棒ぉぉ!!」
あるコンビニで声が響く。
「なっ、こッこれは売り物なのか・・・」
おでんを手にとって慌てているのはサーミト王国の冒険者らしき男たち。この租借地には多くのサーミト王国の人々などが買い物などに訪れている。
「うるせえ、こんなとこに置いているのが悪いッ。」
流石に店員に暴力は振るわなかったが、完全に開き直った男たちはそのまま走って逃げていった。
「待てぇ〜。」
もちろん逃げるぐらいだから待つわけがないが。言ってしまうのが人の性。しかしこの店員は手にオレンジ色のボールを持っている。
店員から投げられたボールは一人の男の足元に命中。跳ねた染料がビシャと付く。
「なっなんだこれ。」「洗えば落ちるぞ。さっさと逃げるぞ。」「そうだ。さっさと逃げろ。」
男達は逃げて行った。
この租借地の治安維持は日本の警察が行なっている。そのためもちろん110番すれば警察に繋がる。
「警察ですか?さっきここのコンビニに泥棒が・・・。」
通報を受けた警察は最寄りの交番からパトカーが出動(租借地で多くの現地の人が入ってくるということから、交番が日本以上にいたるところにある)
さらに警ら中の全車に通達が行われた。
租借地の中で一番大きい公園の近くを警らしていた警官二人が息を切らしている男たちを発見する。
「おい、あの男たちの背中についてるのカラーボールじゃね?」
「ホンマや、バンかけてみるで。」
会話からわかるように日本全国津々浦々の警官が出向している。
これもちょっとした異文化交流だ。
「ちょっといいかぁ?」
先ほどの警官が声をかける。
「なっ、なんだよ。お前誰だ!!」
現地の人にとって日本の警察官は『変な服装したヤツ』程度の認識しかないこともある。
そもそも警察という概念が理解されないことも多い。
「ここの警察、悪い人捕まえる人や。」
ここで『悪い人』という言葉に男たちがビクッとする。わかりやすい奴らである。
「背中についてるオレンジ色のもんどうしたんや?」
「ちょ、ちょっと汚れただけだよ。」
「臭うな。カラーボールの臭いがするんやけど・・・。任意同行いいか?」
カラーボール特有の臭いがプンプンする。
「にんいどうこうって・・・?」
男たちは首をかしげるわりに目が泳いでいる。
「警察署までな。いいか?」
「「はい・・・。」」
その後彼らは素直に罪を認めたという。
このぐらいの話は日本の常識が通じない人の多いここでは日常茶飯事で、特に珍しい事でもなかった
(コンビニの中には1日5回万引き・・・というか店員の目の前で未清算の食べ物を食べる。という不運なところもある。)
しかし、この日はそうでもなかった。
租借地は24時間営業と言われる。24時間営業の店、24時間点いている街の明かり・・・、それは付近のサーミト王国の町では祭りの日などを除いてほぼあり得ない事だった。だからこそ多くの人が気づいたのかもしれない。
「ん?なんだ。」
道を歩く残業帰りの若いサラリーマン。今年ここへ配属を言い渡され、一時期は『左遷だ!!』とか騒いでいたが、所詮はまだ独身の新人サラリーマン。まあ、そのうちいい事あるさ。と思って引っ越してきたのである。本社からは手当(外地手当)も出るし、意外といい生活だ。
夜とはいえ街の明かりは消えない。街の周囲には城壁のようなコンクリート製の壁が作られているが、一箇所それがないところがある。近くを流れる川沿いだ。その川沿いに彼は何か動くものが見えたような気がした。
「なんでもないな。ふぁぁ。家帰って飯食って寝よう。」
彼は特に気にすることなく家に帰っていった。
しかしその夜それを見た(感じた)のは彼だけではなかったのであった。
次の日 早朝
ウゥウウウウウウウ
やたらと不快感を感じるサイレンが街に鳴り響く。この街の防災行政無線からだ。(ちなみにここの行政は名目上は東京都が行なっている。)住民たちは何事かと目を覚まし始めた。
ビィーー、ビィーー
今度は携帯電話が騒ぎ出す。例の独身の新人サラリーマンはここで目覚めた。
「ん?今日はなんだよ・・・。」
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《国民保護に関する情報》
対象地域 ビーマイト租借地全域
正体不明の大型生物が多数発見されました。頑丈な建物の中に
速やかに避難してください。
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「は?・・・国民保護とか北の国のミサイルとかじゃなくて?ああそうかここは異世界・・・ってそんな事はどうでもよくて。まさか昨日のアレか!!」
寝巻き(パジャマ)のままマンションのベランダから遠くの川の方を見ると全長2mほどの蜘蛛のような生物が100匹(頭?)以上。
「うえぇ。早く逃げよッ。」
彼は寝巻き(パジャマ)でスリッパのまま行くあてもなく慌てて逃げ出していった。
警察署では・・・
「んぅ〜、大トロ・・・一つ・・・。」
今デスクで船を漕いでいるのは昨日当直だった警官だ。
「おいっ起きろッ!!」
「・・・中トロでもッうわああ。なんですか先輩。」
「出動だ。さっさとシャキッとしろっ。」
先輩と呼ばれた警官はすでに出動服(乱闘服)を着ている。
「え?でも俺今日は非番・・・。」
「窓の外を見ろッ!!」
「あ・・・、なんだありゃぁ。」
さっきまでトロを連発していた警官は窓の外に広がる巨大蜘蛛の襲来に絶句する。よく見てみれば周りの警官も慌ただしく動いている。
この租借地には約1000名の警察官がいるが300名は機動隊(常設)である。非常時になればほとんどの警官が乱闘服着込んで大盾担いで集団警備力を補完することになる。
そのためかここの警官は平均年齢が低い。
周りの同僚は皆次々と着替えて人員輸送車などに乗り込み出動している。
彼も慌てて着替えて輸送車に乗り込んだ。
租借地 行政所
この租借地は今まで(色々と)前例がないため市役所や町役場などではなく『行政所』という名前になっている(暫定的なものだが)そこでは一人の男が頭を抱えていた。
「冒険者ギルドの協力か・・・。」
この租借地には冒険者ギルドがない。というか日本は冒険者ギルドに加盟していない。冒険者ギルドとは何でも屋とも民間軍事会社とも言えるような多国籍組織である。日本も今までなんども加盟の勧誘を受けたが『身元の怪しい武器を持った人間を国内に入れたくない』(これまでは租借地への立ち入り許可は日本側が勝手に判断できたが、冒険者ギルドに加盟するとそうもいかなくなる。)『そもそも魔獣が日本にはいない』などの理由で断ってきたのだが今回の件でそうも言えなくなってきたのだ。
「討伐に協力しましょうか?」
先ほど行政所にやってきたギルド長の男の声が頭の中でリピートする。加盟金を取られる上に治安の悪化が必至だ。
この魔獣の発生を利用し日本を加盟させようとしているのだ。
「くそッ、絶対にこの街を自力で守りきってやる。」
彼の声が行政所に響いた。
『魔獣はもうすぐ川を渡りきる模様。現在橋の門は閉鎖を行い現場はこう着状態。自衛隊の出動は未定。』
人員輸送車の中に本部からの無線が入る。自衛隊の駐屯地はここから20kmほど離れた空港に隣接している。
「聞いたか。自衛隊が来るかはわからんッ今この街を守れるのは俺たちだけだ!!」
人員輸送車内の中隊を盛り上げようと吉野中隊長が叫ぶ。
「すみません。吉野中隊長。無線入ってますよ・・・。」
運転している隊員が申し訳なさそうに言う。
「マジで・・・!?」
「マジです・・・。」
『そうだな。俺たちだけだ!!』『いいこと言いますね吉野中隊長ッ』『いっちょやったるでぇ。』
車内に流れる無線に次々と響く声。吉野は顔を真っ赤にしている。
現場指揮者6台に人員輸送車6台、その上放水車4台。総勢350名を乗せた車列は川沿いに向かって進んで行く。
ウゥ〜、ウゥ〜
「なんだぁこの音は?」
初めて聞く警察のサイレンに慌てる租借地にいる現地の人たち。この租借地も少なからず現地の人を雇っている。
「さっきの薄気味悪い音といい今日は一体なんなんだ?」「さっきケイサツの人がなんか言ってたぞ。」
国民保護サイレンなどを理解してさっさと逃げた日本人と違い、その意味がわからない現地の人たちは集まって話をしている。
「おい、お前らぁ〜早く向こうに逃げろぉ。」
この集団に気がついた近くの交番の警官が自転車で駆け寄って来る。
「巨大な蜘蛛が来る。避難所が開設されたからそこまで逃げなさい。」
反応の薄い現地の人たちにそう言うと彼らは急に慌て始めた。
「魔獣だ。魔獣がくるぅ。」「はっ、早く逃げるぞ。」「向こうに逃げるぞッ。」
さっさと駆け出し置いていかれる警察官・・・
『1中隊、2中隊は住民の避難誘導に当たる。3、4、5、6中隊へ、健闘を祈る。』
『1中隊、2中隊へ、健闘を祈る。』
無線でそんな会話が交わされたのち機動隊の車列は2つに分かれた。
速度を上げて川沿いに向かった3、4、5、6中隊はすでに上陸を開始している魔獣の姿を目撃する。
『遅かった・・・。市街地前に先回りし迎え撃つ。全車へ河川敷での降車は中止。小根田ゴルフクラブ駐車場付近にて展開する。』
緊迫感の漂う車内。隊員らはヘルメットのバイザーを下ろした。
ゴルフクラブ駐車場にて
「全員降車ッ。拳銃までなら使用許可が出た。」
今回では通常の警備ではよほどのことがない限り行わない『全員拳銃携帯』の許可が出たが。市街地に近いこともあり、それ以上の武器の使用は禁止ということになった。
輸送車のトランクから大盾を取り出す。機動隊を象徴するこの大盾は数多くの試練から警察を守ってきた集団警備の相棒だ。
「ガス筒も持ってけ。使えるかもしれんぞ。2中隊は避難誘導終了後増援にやって来る。現在一般警官も順次出動を準備中。」「放水車、水源確保、タンク満タン。いつでも攻撃できるッ。」
「魔獣の先頭までの距離200m。ガス筒は弾を込めろッ。拳銃を抜けッ。」
各中隊長の命令のもとガス筒に弾が込められる。所詮催涙ガスだが『ひょっとしたら効くかもしれない』という希望的観測のもとでの判断だった。
それから緊張の時間がしばらく続くそして・・・
「ガス撃てぇっ。」
機動隊の列からポンッと音がすると弾が放たれる。放物線を描いて飛んで言った弾は魔獣の集団に着弾して白煙を放つ。
グォオオオ、グォッホ、グォッホ、
魔獣から咳き込んだような音が聞こえる。
「おお、効いてる?」「マジか・・・。」
ポリガーボネートの盾越しに眺める隊員たちに一瞬安堵の表情が伺える。しかし・・・
「魔獣はなおも接近。ガス効果なしッ。拳銃抜けぇ。」
今回の警備では腰の拳銃には完全に装填されている上に予備の弾も支給されている。彼らは腰のそれを抜く。
「撃てぇ!!」
小隊長の号令のもと各小隊の隊員らが拳銃を放つ。警察では珍しい一斉射撃である。
パァンパパパン
その連鎖的な破裂音と音速を超える速度で撃ち出された鉛の弾が魔獣を襲う。
グチャァ、グチュ、パリンッ。
先ほどの銃撃により銃創を負った魔獣は怒り狂うが確実にダメージを与えているが、完全に殺せない。時折聞こえる『パリン』という音が聞こえるとその魔獣は紫色の煙になって消えていくが・・・。
「まさか・・・。あの紫の宝石みたいなモノを撃ち抜かないと死なないのか・・・。」
機動隊と魔獣の戦いは肉弾戦に持ち込まれようとしていた・・・・・・・・・・