23話 とある八百屋の情報戦(4)相手のカード
最近忙しくて投稿ペースが落ちてます。すみません。
今後も《『異』世界の警察 日本》と《魔法戦線異状なし!!》をよろしくお願いします。
2階の廊下をランドルの書斎まで進む。あたりに俺以外の気配は無い。
重厚な木の扉が目の前に立ちはだかる。ランドルの書斎だ。扉を軽く叩いて扉の中の気配を確認する。
よし、誰もいないな。
扉を薄く開け体を滑りこませる。もちろん書斎は真っ暗だ。自分の小さい足音の反響で障害物の有無を確認しながら机まで進む。机の上にはファイルが並んでいた。
そこで初めて小さな灯りをつける。そして手早くファイルをチェックしていく。
そして目的のものが見つかるとポケットの中からUSBメモリほどの大きさのカメラでその書類を記録。それを何度か繰り返すと今夜は退散した。
二週間ほどその作業を間隔を開けながら繰り返している。書類の内容は日本との外交交渉から、戦力の分析、今の日本に寄ると思われる極東世界の影響まで多岐に渡る。
「この国はやはり日本との友好的な関係を望んでいるのか。」いつものように書類を記録している際、ポロっと口に出してしまう。漆黒に包まれた部屋の中一人で呟く独り言は、色々な意味で危険だ。
「いけないな。」諜報員として先入観を持つのは良く無い。分析は中立の立場から、下手な先入観を持つと自分に有利な情報しか目に入らなくなってくる。これがもたらした悲劇はもう体験している。
さらに二週間後
この任務に大きな転機となる連絡があった。ビーマイト帝国の敗戦と、このレストニア皇国が日本との国交樹立を望んでいるという。屋敷の使用人との会話からランドルがこの件に関して何らかの重要な任に付いているのは間違いない。日本との接触が予想される一週間後までに、この国が外交のテーブルに出す条件や、譲歩できる限界などを探らなければならない。
ビーマイト帝国敗戦のニュースは驚愕と新興国ニホンの噂(ニホン人は全員が爆裂魔法が使えるだの、炎龍を飼っているだのしょうも無い噂)しかし列強国であるビーマイトを打ち破ったニホンに対する各国の反応は激しいもので、他の国々に潜入している同僚たちも忙しいだろう。
そんな中俺は一種の興奮とも呼べる気持ちを持って屋敷に野菜を届けに行った。
扉を開けてランドル邸に入った瞬間俺の鼻が反応する。紙の匂いだ。貴族の邸宅ということでいつも漂ってくるのだが今日のはいつもより匂いがする。外部から大量の書類が持ち込まれたか、この邸宅の図書室から運びだされたのかどちらかだろう。監視はしていたから外部から大量の書類が運びこまれてはいない。おおよそ図書室の資料からニホンについて調べているのだろう。
いつものように野菜を運ぶが使用人たちの自分に対する視線がいつもとは違う。そんなことを考えながら台所まで野菜を届けに行ったところで使用人のうち一人が話しかけてきた。
「お前の故郷の両親とかは大丈夫か?」まあ予想通りである。
「ああ、両親はビーマイトではなくサーミト王国に住んでいるんだ。ビーマイトがサーミト王国とニホンに宣戦布告した時は諦めかけてたけど、ニホンが守ってくれた。」話を日本の話題に変える。
「そうか。ご主人様もニホンとの国交関連で忙しいそうだ。どうもニホンはとんでもない技術を持っているらしいからな。技術をどこまで公開してもらえるか考えているそうだ。」
こっちにとってはメリットだけどこの使用人は喋りすぎだろ。守秘義務とか無いんだろうか?
「そうね。だけどニホンについては誰も知らないわ。図書室で資料を探していたけど全く見つからないらしいし・・・、あなたは何か知らない?」今度はメイドの一人が話しかけてくる。まさか俺をその話題の日本人だとは思わないだろう。
「何も知らないな・・・。両親ならサーミト王国だから何か知っているかもしれないけど。」
そんな話や、不法侵入を繰り返すこと三日。レストニア皇国の対日要求が見えてきた。
・軍事技術の開示(百発百中の大砲の原理、兵士の高速移動技術の開示)その代わりレストニア皇国としては騎竜の交配、魔導歩兵の杖の原理の開示
・医師の交換留学
・レストニア皇国のインフラ整備
・双方の関税自主権を認める
・貿易の振興
・双方の本土に租借地を作る
主にこんなものが要求だ。まず軍事技術は無理だろう。まあ日本が技術を公開したところで再現できるとは思えないが。医師の交換留学に関しては微妙だ。日本としても体にダメージの少ない治癒魔法は魅力的だし、レストニア皇国にとっても抗生物質や輸血、それ以前に科学的な医療法と言うのは魅力だ。
関税自主権については多分通るだろう。列強国であるレストニア皇国が関税自主権を認めるということは、日本を列強と認めたことと同義になる(列強国同士ではともかく、列強国以外の国は関税自主権を遠慮すらしていた。関税と先進的な商品を天秤にかけた場合、先進的な商品の方が重いのである。)
貿易の振興は当たり前と言っちゃ当たり前。租借地は微妙だな。
サーミト王国日本大使館
「では、本格的な国交樹立交渉を行うため日本に招待します。日程は・・・」
外交は外交官だけが行うものでは無い。その国と国交を結びたいと思わせる国を作る国民も外交の重要なビースとも言えるし、この話のような陰で働く者も重要なピースだ。
外交は一人勝ちをしてはいけないと言われる。自国の利益はもちろん重要だが、それだけを追い求めると外交は成り立たない。その駆け引きの中で相手のカードを探ることはとても重要だ。