20話 とある八百屋の情報戦(1) 覆面
拙い文章になってしまったような気がします。
DISAのところは本当は洋服問屋じゃなくてテーラーにしたかったけど・・・、ネタわかる人いるのかなぁ。
東世界の大国がビーマイトから日本に変わったことが『情報新聞』によって世界各国に伝えられた。各国はそれに驚愕し、今後の東世界、そして自国の運命を考えるのであった。
良くも悪くも戦争に勝利した日本にはビーマイト共和国やサーミト王国などを通して国交樹立の要請が次々と届くようになる。
それは列強国も例外ではない。
まず南世界の大国で旧ビーマイト帝国と交流の最も深かったアルトニア帝国。ビーマイト帝国が戦争に負けたせいでビーマイトの通貨、『ウォル』が世界各国で価値を落とす中(戦前、東世界では自国通貨とウォル両方とも使える国がほとんどだった。東世界以外でも『列強の安定した通貨』と言うことで使えるところも少なくなかった)自国の対外資産の多くをウォルが占めるアルトニア帝国の経済ダメージは小さくなかったためか、反日姿勢を貫く国である。
次は北世界の列強、エルドレッド公国である。この国は各国が覇を唱える中、そこまで覇を唱えない比較的温和な国で(それでも侵略などは行って来ているが)各国の日本に対する姿勢が分かれる中、特に嫌うこともせず、くっつきすぎる事もない中立的な国である。
3つ目は中央世界に君臨する世界最大で最強とも言われるアメライト帝国。アルトニア帝国と深い関係があるためか、反日的な国である。しかし日本の新技術などには非常に興味を示しており、今後の外交次第では立場の変化もあり得るとして日本の外務省も友好な関係を結びたい国ではある。
4つ目は西世界の大国、レストニア皇国。この国は今まで紹介した列強国の中では一番民主的な国とされる。皇帝は存在するが、今までの国ほど大きな力は持っておらず、議会の方が大きい力を持っている。この国の伝統的な州制がこの政治体制に影響している。
国土面積は一番小さいが、日本の技術に一番興味を持ったのがこの国で、かなり親日な国である。
最後は準列強国とも言われるバスラン帝国。この国も議会が(この世界の基準では)大きな力を持っている国で、政治体制がレストニア皇国と似ている。北世界と東世界、中央世界の間にあるこの国は、双方の大国の影響を受けながらも独立を維持してきた国力があり、列強国と言ってもいいかもしれない。ここもレストニア皇国と同じく親日。
ここで説明したように政治体制の違いで列強は
『新体制派』レストニア皇国、バスラン帝国
『旧体制派』アメライト帝国、アルトニア帝国
『完全不干渉派』エルドレッド公国
の三派に分かれており、ここに日本が加わることでパワーバランスが『新体制派』に大きく傾く事になる。『旧体制派』としてこれは避けたいが、日本の新技術も欲しいというジレンマに悩まされる事にもなる。
「それで、ニホンと連絡は取れたのか?」
ここはレストニア皇国の御前会議場。大きなテーブルの周りに座るのは国の重鎮ら、そしてレイニー皇帝である。
「はい、使節団がサーミト王国に到着したとの知らせがありました。ニホン大使館に連絡をとり、これから国交樹立の為の会議などに関する話し合いを行う予定です。」
レイニーは満足そうに頷く。
その頃日本では・・・
「サーミト王国の日本大使館にレストニア皇国の使節団がやってきています。国交樹立が目的のようです。」
首相官邸の一室で伊佐元に補佐官が報告する。
ビーマイトの一件で、列強国に不信感が湧き始めた日本政府だったが伊佐元は国交樹立を快諾した。その理由はビーマイト戦役前になる約8ヶ月前にさかのぼる。
8ヶ月前・・・
「やっと異世界での仕事か。」
東京某所にあるビルの一室に構えた事務所、『札元洋服問屋』。外見は特に不審な点は見当たらない民間企業に見えるが、ここは政府の重要な組織のうち一つである。
この組織の名前は『防衛秘密情報局 DISA』の支局の一つの『新世界担当部』、つまりこの世界の情報を収集、分析し政府に報告するのが主な任務である。DISAは基本的に防諜任務を行わない、要するに諜報に専念するのだ。
「今回の長期潜入のための情報はこのファイルの中に入っている。一週間で自分を生まれ変わらせろよ。」
執務室の机に腰掛けた男が部下にいう。机に腰掛けた男は水を一口飲むと思い出したように言う。
「そうだ、忘れてた・・・、これは餞別だ。」
机の引き出しから小さな包みを取り出して机の上を滑らせる。部下の男はそれを一瞥し受け取るとポケットの中に入れ、
「では。」
と小さく言うと事務所を出て言った。
彼はビルを出て、予約していたビジネスホテルに入る。このビジネスホテルも政府所有のものだ。フロントで鍵を受け取り部屋に向かう。部屋に入ったら一応盗聴器などのチェックを行い、チェックが終わったらベッドに腰掛け、先ほど渡されたファイルを読み始めた。
「名前はハスキー・ドルゲン、年齢23歳。出身はビーマイト帝国の・・・。」
ここに書かれているのは彼がこれから何年も被って生きる覆面。書かれている内容はプロフィールはもちろんのこと、趣味や喋り方の癖、生活の癖や食生活など多岐に渡る。それを完璧に身につけ一週間後、レストニア皇国に旅立つ。
一週間後
「ハスキー・ドルゲンと言います。これからこの店で働く事になりました。まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします。」
利発そうな青年が人通りの多い通りの前で挨拶している。彼こそが一週間前ファイルを受け取っていたDISAの諜報員である。
ここはレストニア皇国の首都にあるとある八百屋。特に特徴のない八百屋だが1ヶ月後、この近くに住む政府高官の貴族の屋敷に野菜を卸す事になる予定だ。
今野菜をその家に卸しているライバルの八百屋にちょっとした工作を行い信用を失墜させる、それから流れでこの八百屋が野菜を卸す事になると言うわけだ。
もちろんこの事を店主は知らない。善良そうな顔をした店主はまさかこの店が諜報機関に利用されるとは思ってもいないだろう。