19話 日本での体験
船内での生活は快適そのものだった。今の日本人ですら「あぁ〜、いいねぇ」となる快適な船旅が、彼ら世界情報社、いやこの世界においては格別以上のものであることは想像するに容易い。
「こんな風呂、王族や貴族ですら楽しめませんよ。」
初めて使うシャワーを浴びながらハーベリックはホクホク顔で言う。
「そうだなぁ、この『しゃわー』って道具も面白いな。水がこんな感じで吹き出すとはな。」
グラムスは髪を洗いながら答える。しかし慣れないシャワーでうまく泡を流せない。
「先輩、流しますよ。」
「おお、助かる。」
そんな感じで二人は髪と体を洗う。周りにも初めての豪華な浴場で興奮する記者たち。
「では、湯船に入るか。」
思いっきり飛び込みたい衝動を抑え注意書き通りタオルをつけないように注意しながら湯船に入る。
「あぁ〜、気持ちいなぁ。」「ですねぇ〜。」
風呂の後は食事である。サーミト王国と日本で料理店の調査により、食物アレルギーなどは双方同じと言うことがわかった為、特に気にすることなく食べれる
(もっとも、この世界では日本を除いて『食物アレルギー』などの概念は無いに等しいが)
このクルーズ船での食事はビュッフェ方式に統一されており、様々な地球の料理を食べることができる。食事に対する反応もそれぞれ似たような反応だったが、この世界の料理と比べて圧倒的に凝っている地球の料理と、社員たちの今まで食べたことのないような刺激的な味は非常に好評だった。
福岡
「おおぉ〜、ここがニホンか。」
クルーズ船の甲板の上でグラムスが声をあげる。
ポケットから手帳を取り出すと街並みを簡単にスケッチする。帰って家族に見せるそうだ。
「すごいです!!」
ハーベリックも子供のように目をキラキラさせてい
る。甲板上には同じように日本を初めて見た社員たちが身を乗り出して福岡の港、そして奥に広がる福岡の街並みを眺めている。
彼らは入国審査の後、福岡の街を巡ったあと新幹線で大阪まで向かう。福岡駅、新大阪駅では機動隊による厳重な警備体制が轢かれていた。
「こ、これが『シンカンセン』か・・・。」「滑らかな形だ・・・。」「馬車とは大違いだな。」
初めて乗る新幹線の速さに圧倒された後、大阪であべのハルカスを取材(観光?)、日本の食文化を体験して、京都で伝統的な文化を取材。まさに京の着倒れ、大阪の食い倒れである。
その後は東京まで関西空港から空の旅。(大阪空港までのモノレールにも驚いていた)
関西空港
「そ、空を飛ぶんですか・・・。」
ハーベリックは顔が真っ青である。他の記者たちも政府から派遣された担当者から飛行機の説明を聞いたあとかなり驚いている。
「これは竜の一種なのか?」
記者の一人が質問する。
「これは生き物ではありません。動力も魔力などではなく、そうですね・・・、燃焼のエネルギーで飛んでいます。」
「魔力も使ってないとは・・・、噂には聞いていたがやはりニホンには魔力、魔法がないのかぁ。」
やや悲しんでいる彼は世界情報社の魔法担当の記者である。本社の命令で来たのだが、彼の知識はあまり役に立ちそうにない。
「空を飛べるのは騎竜騎士だけかと思っていたんだが・・・、ニホンでは一般の人でも空を飛べるのか。」
グラムスはどうも子供の頃の夢を思い出しながら飛行機を眺めているようだ。この世界では騎竜騎士は男の子が憧れる職業ナンバーワンの座を長いこと維持し続けている。
世界情報社一同は恐る恐る飛行機に乗り込むと成田空港へと向け飛び立った。
彼らがいきなり東京に行かなかったのはいくつか理由がある。主に日本の交通手段(船、鉄道、飛行機、バスなど)を幅広く体験させることで、他国との差別化を図ること。もう一つが日本の文化を楽しみながら知ってもらうことで、
『未知の文化を持つ薄気味悪いニホン』
と言う、この世界共通の日本に対する印象を払拭することで、無用な不信感を抱かせないことにある。当たり前だが全く違う進化の過程を辿ってきた日本の文化は、他の国に全く見られないもの(食べ物に関する考え方や日本人の宗教観など)を幅広く発信することで『ニホン面白いじゃん』と言う前世界の『クールジャパン』をここでも生み出そうと言う狙いもある。
さて東京に到着した世界情報社の記者たちは・・・
「なんだ、この建物は・・・。」「恐ろしい高さだな。」「これぞ摩天楼か・・・」
東京スカイツリーの取材(観光?)をしていた。
「この建物はなんの為に作られたのだ?」
グラムスが質問する。周りの記者たちはメモを片手に話を聞いている。
「はい、この東京スカイツリーは大きな・・・そうですね、通信魔石のようなものでテレビと言う、様々な娯楽映像を流す装置に映像を送るものです。」
話を聞いていた一同ポカーンとしている。中には『映像が送られているのかぁ』と考え上を見ているが、もちろん映像は見れない。
東京大学などの教育機関や、皇居、国会議事堂などを周った記者たちはホテルに戻っていった。
「慌ただしい取材でしたけど凄かったですね。」
しんみりとハーベリックがグラムスに言う。何気にお土産を買っている。
「そうだな、『しゃしん』も貰えたからいつでも見返すことができるぞ。」
「そうですね、せっかく連れて来た画家さんは一人泣いてましたよ。」
高い金を払って本社がこの日のために画家を雇ったが、写真のせいでほとんど活躍の場面がなかったのである。
次の日彼らは船でビーマイトに向け帰っていった。彼らのカバンの中にはたくさんのお土産が詰め込まれていたことだろう。
後日世界情報社 情報新聞
《未知の国ニホン、取材に成功》
列強であった旧ビーマイト帝国を打ち破った謎の国『ニホン国』の取材に初めて成功した。下の図1に書かれているのはニホンの船である。この船は軍艦などではなく民間船で、大きさが・・・・・・・・・
この記事は世界中で読まれ、日本に対する印象は大きく変わった。それと同時にある大国が動き出した・・・。