18話 お茶の間の情報戦(2) まだ見ぬ世界へ
最近進むペースが遅くなったような・・・。
次の日から動き出した世界情報社、ビーマイト支社の記者達は戦争の影響で渡航などが禁止されていたサーミト王国に向かった。
サーミト王国首都ベルテラ
「なんなんだ・・・これは。」
想像を絶する進んだ光景。列強の一つであったビーマイトよりも進んでいるファッション、乗り物(自転車)、そして漂ってくる食べ物の匂い。その全てが想像していたものとかけ離れていた。
『極東の田舎の国』正直そう思っていた。それがどうだろう。日本の影響は凄まじいもので、このサーミト王国、いや極東の国々の文化を大きく変えた。道行く人からは列強国以外の国が持つ『劣等感』を感じないみずみずしい程のハツラツさを感じる。
「とっ、とにかく取材だ。」
記者達は道行く市民に取材を始めた。
サーミト王国の国民にとっての日本とは自分たちの生活を格段に良質にした者と言う意見がほとんどだった。そこにビーマイトを戦争で打ち破った『軍事的な影響力』は微塵も感じない。
「ニホン、彼らは何者なのだ・・・」
サーミト王国の記者達は日本に対する大きな疑問にぶち当たった。
2週間後
世界情報社に転機が訪れる。日本入国が許可されたのだ。
この世界に転移してからというもの日本の入国は非常に厳しいもので個人的な理由ではまず許されない。そのため政府関係の者しか許されないと言ってもいい。
いくら多国籍企業と言っても民間人である彼らに入国が許されたのは、正しい日本を知ってもらいたいと言う政府の意向が絡んでいたからである。(伊佐元が手回しした)
ビーマイト支社では『ニホン取材班』が編成され、記者たちが常に日本に関する情報を収集していた。
「ついにニホンに入国が許可されましたね。」
若い記者のハーベリックが感慨深げにいう。
「ん?まだ入国が許可されただけだ。これからだぞ取材は。」
先輩記者であるグラムスが紅茶を飲みながらいう。
グラムスは紅茶のカップを机に置くと、唐突に立ち上がり引き出しをゴソゴソ探る。
「あったあった。ほれ、見てみろ。」
グラムスが何か紙切れを引っ張り出す。
「なんです?それ。」
「これはな、ニホンの地図だ。」
「なっ、そんなの国家機密でしょう。なんでそんなの持っているんですか?」
ハーベリックが急に慌て出す。
「どうもニホンでは民間人であっても正確な地図はいくらでも手に入るそうだ。だからこれを売ってたサーミト王国の商店ではビーマイトはおろか、世界中の国のを売っていたぞ。」
江戸時代では伊能忠敬の地図の正本は国家機密になっていて、写しを国外に持ち出そうとして関係者が処罰されたシーボルト事件は有名である。
「そんな、ニホンはどうやって世界中の地図を作っているんでしょうか?自国一国の正確な地図を作るのさえ膨大な時間がかかるのに・・・。」
「どうやってかはわからんが、ニホンはそれだけの技術を持っている。そんな国に取材に行けるんだ・・・。」
グラムスの目にはまだ見ぬ未知の技術が写っていた。
世界情報社 ビーマイト出国の日
日本によって整備された港湾施設は今まで護衛艦などの軍用艦しか利用してこなかったが、今回初めて民間船が利用することになった。まあ海上保安官が警乗しているが。
まあそんな民間船舶初利用となったのが世界情報社の皆さんである。
「民間の船でもこんなに大きいのか・・・。」
この世界での民間の船というのは小型ボートか、漁船が主であまり大きな船というものがなかったのである。
今回の船は某クルーズ船で、船内の設備も整っており日本までの船旅には申し分ないものであった。港は警備上の理由で封鎖されてはいるが、巨大な船を見ようとわざわざ帝都から走ってやって着たという物好きも多いため、港の周りの砂浜は人で溢れていた。
「うわぁ、大きい船だね父ちゃん。」「そうだなぁ、こんな船にいつか乗って見たいよ。」「あなた、乗って見たいならもっと稼ぎなさい。」「はい・・・。」
賑やかな会話が聞こえる中、世界情報社の記者たちはタラップを登って船の中に入って行った。
「ここでこういうことを言うのは悪いかもしれんが、ビーマイトがニホンに負けたのもわかるよ。」
グラムスが船内を歩きながら言う。
「そうですねぇ。ニホン、ついに行けるのか」
ハーベリックも目を輝かせている。
「とてもここまで長かったように感じるな・・・。」
グラムスが過ごしたこの2週間は彼にとってとても長く感じられた。
船はグラムスらを乗せ、日本に向けて出航した。