15話 砲撃
上空に飛ぶのは3機の大きな航空機。民間機と比べ物にならない騒音が響く無機質な機内。それぞれ60名の隊員達が落下傘を背負い広いようで狭い機内で出撃を待つ。C-2の窓から地上を見てみれば美しい平原が広がる。
彼ら第一空挺団の目標は帝都の重要な防衛施設である要塞。その要塞に先行して空挺団が攻撃を行い、無力化とまでは行かなくとも要塞の敵を拘束し(ここでいう拘束とは縛るなどの拘束では無く、部隊がその場から動くことをできなくするという意味である)上陸作戦の支援が目的である。
隊員達が自分の落下傘のフックを機内ワイヤーに掛ける。主傘の形状の点検などの最終確認を終えて降下の時を待つ、そして外扉が開けられる。機内搭乗員の誘導で進み次々と降下していく。一人、また一人と降下するたびにカチャンカチャンとフックがぶつかり合う音が機内に響く。
要塞の1kmほど手前に降下した部隊は空挺堡を確保。一緒に投下された武器弾薬なども回収し要塞に対して攻撃を開始した。
ビーマイト 要塞
「な、なんだあれは・・・。」言葉を失う兵士たち。巨大な竜のような物の腹からクラゲのような形をした物体が次々と降下してきたのだ。地面にペシャッと落ちたクラゲをよく見るとどうもヒトらしい。ここまで来てある一人の兵士がボソッと言った。
「ニホン軍なんじゃね・・・」
そのあと要塞は蜂の巣を突いたような大騒ぎである。
「空からニホン軍が降って来ただと?」司令官は顔をしかめる。空から兵士が降ってくるとは信じられない。しかし今までの前例もあり完全に嘘と決めつけるのもどうかと思った賢明な司令官は要塞の周りに設置されている塔に登る。
「うむ、信じられなかったが・・・、どうもその通りだったようだな。」どれ、もっと詳しく見てみるかと思った瞬間、初速868mで放たれた弾丸に顔面を撃ち抜かれた。顔面はもはや原型を留めておらず、目を背けたくなるような状態だ。
「えっ・・・。」護衛の兵士が絶句する。しかしその護衛の兵士はおろか、塔に登っていた4名の兵士がそれから5秒ほどの間に生き絶えた。
要塞から少し離れた中隊司令部
「ここから一番近い塔に登っていた兵士を狙撃しました。」M24 SMS 狙撃銃を持った自衛隊員が報告する。
「うむ、で敵司令官はどうだ。」
「はい、同じく塔で狙撃、絶命しました。」
「よし、計画通り制圧作戦を続ける。」
司令部の横に並べられた軽迫撃砲部隊から隊員が走ってくる。
「観測点設置完了しました。」
「試射を開始しろ。」
「了解」
軽迫撃砲8門が次々と火を吹く。あたりに発射の轟音と地響きが起こる。その後4発ほどが要塞に命中。その後修正を行い再度射撃。全門が命中した。それからは激しい射撃である。通常1分間に12発射撃できる軽迫撃砲が8門。さすがに弾薬に限りがあるため発射レートを落とすが、それでも激しい砲撃が要塞に行われた。
「おい、司令官はどこだ。」砲撃を受け続けている要塞の中で参謀長が探し回る。時折パラパラと土が降ってくる。遠くでは兵士達の断末魔が聞こえた。
「しっ、司令官は戦死されました。」伝令が走ってくる。
「なっ・・・。」
「塔に登られたところでニホン軍の・・・」
そう言った直後二人の目の前に迫撃砲弾が着弾し爆発を起こした。
要塞の防壁
「大砲だ。撃ち返せ。」
「弾も火薬もありません。」悲痛な兵士の叫びが辺りにこだまする。彼は今年配属された新米だ。
「俺が弾薬庫からとってくるからそれまでここを死守だ。」
「連絡通路が・・・。崩壊しました。ここは孤立です・・・。」駆け込んできた兵士が皆に伝える。肩にはベッタリ血がついてるがあまりの興奮状態で彼も周りも気づかないのだろう。
「そんな・・・。退却もできないぞ。」「ニホン軍に殺されるのか・・・。」「前聞いたことがあるぞ、ニホン軍は敵が生きた状態のまま四肢を切り落とし、ゆっくり殺すらしい。」
恐怖が増幅されていく。そして・・・。
「ヴッ・・・」今年配属されたばかりの若い兵士が胸に剣を突き刺して自分で命を絶った。
「そうだ、その通りだ。ニホン軍に殺されるぐらいなら・・・。」「俺もやってやる・・・。母さーん。」次々と兵士達が命を絶つ。その後、全員が自ら命を絶った。
8分ほどたち、迫撃砲による砲撃が終了する。要塞は至る所で煙が立ち上り防壁も崩壊しているところが多くある。先ほど、敵弾薬庫と思しき場所で大きな爆発が起きた。もはや敵は反撃をしていない。サーミト王国に教えてもらったこの世界の降伏の信号、自分の武器を逆さまに持つこと。を防壁の上で行っている兵士が数多く見られる。
「呆気無かったな。しかしまだ油断はするな。上陸部隊本隊が来るまで現状を維持。現に降伏をしている兵士に対しては、武器を捨て、一人づつ門から出てくるように呼びかけろ。出てきた兵士はとりあえず拘束だ。」