14話 空中
『日本は国の平和と国民の生命と財産を守るために自衛隊を保有し、その活動は国の平和と国民の生命と財産の保護さらには世界の平和の為に行う』
日本国憲法 改正第九条
黒油島の戦いから5時間 防衛省
「ではこれより今後の対ビーマイトの行動についての報告を行います。」
ファイルを手にした進行役の官僚が椅子から立ち上がりそう述べる。
防衛省内のこの部屋には制服組、背広組に加えて各省庁の代表者も集まっている。
「今から5時間ほど前、黒油島での戦闘は概ね終結し、現在隊員らは民間人の捜索活動に移っています。しかし負傷者も多いため重症の者は那覇に移送中です。」
陸上自衛隊の担当者が報告する。事前に配られた文章通りの内容だ。
「我々の詳しい損害等については本日中に水陸機動団から上がってきます。黒油島の件に関しては以上です。」
「では次に海上自衛隊についてお願いします。」
そう進行役に言われ、海自の制服を着た男性が立ち上がり、各人に事前に配られたペーパーを見るように促す。
「はい、各護衛艦は補給艦による艦船用、航空燃料の補給を終え、現在ビーマイト沖120km付近で停泊中です。『しなの』艦載機へ対地爆弾の補給も完了し、命令を受け次第航空支援のため出撃する手筈です。」
その場で今まで黙っていた伊佐元は報告書に目を落とし、作戦計画をじっくりと見る。そしてようやく口を開いた。
「作戦の開始を許可する。」
ビーマイトの帝都は海岸線から30kmほどの所にある。
衛星による情報では敵の航空戦力である騎竜の航空基地が帝都周辺に2つ、陸軍の駐屯地が1つある。
できればどれも航空攻撃で破壊したかったが、航空基地以外の軍事施設は住宅地 商業地などが隣接しているため航空攻撃で民間人に被害を出す恐れがあり、その後を考えた場合政治的影響は避けられない。そのため海岸から上陸し無力化、占領すると言う作戦をとることとなった。
その際に最も障害となるのは帝都と上陸地点のちょうど中間にある要塞である。
動かない障害物とはいえ陸を進む上陸部隊が砲撃を受けてはたまらない。
自衛隊の上陸を察知し要塞を拠点に砲兵部隊を展開などされたら多少とはいえ被害が出てもおかしくない。
そこで第1空挺団による空挺作戦での強襲が取られた。
市街地戦である為、準備砲撃等が必要であるが今回は敵が有効な対戦車兵器を持っていないと思われることと、こちら側が圧倒的に支援火力で優位であること。民間人への被害を抑える為に準備砲撃は行わない。
これが大まかな作戦だ。これにもまた米軍が参加する予定である。今後の成り行き次第ではこの世界にアメリカを建国、というのもありえる為米軍自ら参加を申し出た(在日アメリカ大使館からの圧力があったらしい)
3日後 航空機搭載護衛艦『しなの』
赤いベストをつけた武器員が艦載機に対地爆弾を搭載していく。翼下に4発を搭載し機体内部には中距離AAMを搭載した攻撃隊12機と、護衛機12機で編成される総勢24機。
甲板の上では武器の搭載が完了した、機体が次々並んで行きカタパルトからの出撃を待つ。
カタパルトオフィサーが剣を突くようなポーズをする。その途端F-35が轟音と共に空へと舞い上がっていく。
ついに作戦が始まった。
ビーマイト建国史上初となる帝都への直接攻撃を受けることになる。もちろん帝都に住む者の中でそれが始まることを知る者は居ない。
午前10時
帝都ではある騒ぎが起こっていた。帝都に住む多くの人々が
『騎竜ではない巨大な飛行物体が飛んでいる』
という噂が流れていた。(先行して目標を偵察していたF-35が目撃されたのだが、敵空軍部隊をおびき出す目的も兼ねている為、目撃されても良かった)
ビーマイト空軍もそれを目視確認したため、空軍の騎竜部隊48騎が緊急発進。迎撃を行う手筈だったが・・・
帝都上空 ビーマイト空軍騎竜部隊
「なんだったんだあれは・・・」「騎竜・・・なのか?」「海軍が負けたっていうのは・・・まさか。」
騎竜部隊の隊員達が口々に呟きを漏らす。
「おい、お前ら怖いのはわかる。だが恐怖を乗り越えろ。弔い合戦だ。1騎でもあの化け物騎竜を落とすぞ。」
編隊長の言葉に皆目に闘志が宿る。そして一斉に高度を上げ来るべき空中戦に備える
つもりだった・・・・
帝都上空に次々と爆発が起こる。数十秒で帝都上空の“制空権”を喪失した。
帝都に住む人々は今目撃している状況を信じる事が出来なかった。
栄えある5大国の内1つのビーマイト帝国。その顔とも言える帝都の防空部隊が壊滅したのだ。
『ビーマイト海軍は苦戦を強いられたものの敵艦隊を殲滅。そのままニホン並びにビーマイトに侵攻』
というフェイクニュースを信じていた一般市民及び下士官以下の兵士達は、今になって国家の情報統制を知る。
「爆撃ポイントに到着。対地攻撃開始。」
ヘッドセットから流れたその声の直後、F-35から対地爆弾が送り出された。パイロットのヘルメットのバイザーにはロックされた爆撃目標が表示されている。眼下では次々と爆発が起こる。
ドンッーー、ドンッーー
爆弾が爆発し唸るような重低音が響き渡る。
騎竜滑走路は砕け散り、木造の騎竜舎は次々と爆風で破壊されていった。
「対空バリスタ射撃開始撃て撃て撃て」
空軍基地の防空部隊が迎撃にあたる。兵舎から駆け出してきた兵士達が爆撃で空いた穴を避けながら配置につく。
「第1小隊、配置につきましたッ。」
「直ちに射撃を開始せよ。とにかく撃ちまくれ。」
ギコギコギコギコ
4人がかりでバリスタの弦が引かれボルトが装填される。
「てっぇぇ」
バシュッッ
基地内に残った対空バリスタが次々と発射されるが速度も、高度も足りず轟音を立てて上空で旋回するF-35には届かない。発射されたボルトは虚しく放物線を描いて敷地外に落下する。
その頃海岸線では...水陸機動団による上陸作戦が行われようとしていた。